意思決定を行う脳の組織構造

意思決定や運動機能で要な役割を担う脳領域には、会社組織のような役割分担が見られます。

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  沖縄科学技術大学院大学(OIST)の研究チームは、脳の意思決定に重要な役割を担う線条体は、役員、中間管理職、一般社員から構成される会社組織に似た階層構造を持つことを見いだしました。

  線条体は、脳の中心部に位置し、意思決定や運動処理に関与する大脳基底核の主要な部分です。その腹側部(下部)、背側部(上部)の内側と外側の3つの部位はそれぞれ、動機付け、適応的な意思決定、習慣的行動に特化した役割を果たしていると考えられてきました。

  しかしOISTの研究チームは、線条体の3部位はそれぞれ別個に機能するのではなく、互いに協調しながら階層的に働くことを見出しました。これは、役員が下した意思決定が中間管理職に伝えられ、それを一般社員が実行していく会社組織に似ています。

  OIST神経計算ユニットの伊藤真博士は、「同じ課題を用いて、線条体の3部位の活動を同時に計測して比較した研究は今までありませんでした。我々は今回、線条体の3部位はひとつの行動にを行うに際して同時に、しかし異なる役割を持って作用することを発見しました」と話します。

  本研究成果は、伊藤博士を筆頭著者とした論文として2月24日にジャーナル・オブ・ニューロサイエンス誌(The Journal of Neuroscience)に発表されました。

  伊藤博士らは、線条体の各部位の働きを観察するため、ラットの脳に微小電極を埋め込みました。左右2つの穴のいずれかを選択することにより確率的に餌(砂糖ペレット)を報酬として獲得する課題において、各部位の神経発火頻度を測定しました。左右の穴の報酬確率をそれぞれ一定にした報酬固定条件では、ラットの反応は数週間で習慣化します。一方、報酬確率を変化させる自由選択条件では、ラットは変動する報酬確率に対応し、どちらの穴を選択するかを常に探索し続けなければなりません。

  伊藤博士らはこの研究により、線条体の3部位が独自の役割を果たしながら異なるタイミングで互いに協調して働いていることを解明しました。

  論文の共著者でもあるOIST神経計算ユニットの銅谷賢治教授は、「線条体の3部位は別な種類の行動のためにあるのではなく、階層的な制御系の観点から捉えた方が良いと考えられます」と述べています。

  腹側線条体は、ラットが試行をいつ開始するかを決める早い段階で最も活性化しました。背内側線条体では、左右いずれかの穴に向かう前、左右の選択の結果得られる報酬の予測に応じて発火レベルが変化しました。背外側線条体は、試行の様々なタイミングで短い発火を示し、細かな運動制御に関係していると考えられます。

  これは、一つの会社のシステムに似て、社長が新製品の製造を決定し、中間管理職が様々なデザインや販売方法を検討し、一般社員が各種部品を組み立てていく様子に例えることができます。

  報酬固定条件と自由選択条件において、背内側線条体と背外側線条体の発火にほとんど違いが認められなかったことに、伊藤博士らは驚きました。神経学者の間では、習慣化した行動と変化する環境下での適応的な行動には別々の神経回路が関係していると長らく考えられてきたからです。このような従来の考え方に基づけば、背外側線条体は報酬確率が一定であるときに活動が高まり、ラットに学習及び適応が必要となる自由選択課題では背内側線条体の活動が増強するはずです。

  驚きの結果は、これだけではありません。OIST神経計算ユニットでは、どのように行動するかを報酬フィードバックをもとに自律的に学習するロボットの開発に取り組んでいます。そのアルゴリズムの基本となるのは「行動価値」という、行動の結果得られる報酬を予測する変数です。

  銅谷教授は、「ロボットの学習に使用している変数と同じような信号が、ラットの神経細胞の活動として確認されました。これは驚くべき発見です」と述べています。

  この結果は、ロボットのアルゴリズムと同様に、ラットの脳が左または右の穴を選択することにより得られる価値を解析していること、そして、それが試行を重ねるたびに更新されていることを強く示唆します。

  (ローラ・ピーターセン)

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