サンゴ礁を守るために、私たちにできること

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サンゴ礁が占める面積は海底のわずか1%にすぎません。しかし、海洋生物種の少なくとも25%がサンゴ礁に依存して生息しています。そのため、サンゴ礁は地球環境と世界経済の両方にとって極めて重要な存在です。サンゴ礁は豊かな生物多様性を支え、人々の食料源となっています。また、医薬品や農業分野への応用が期待される天然由来の有用物質の宝庫でもあります。また、波による浸食や被害から海岸線を守る役割も果たしています。

では、こうした極めて重要なサンゴ礁を守るにはどうすればよいのでしょうか。OISTの海洋研究者たちが、その取り組みや考え方を紹介します。

 

OISTのサンゴ研究の専門家をご紹介します。

サンゴ礁とは?

見た目は植物のように見えますが、サンゴは実際には「ポリプ」と呼ばれる小さな動物の集まりです。ポリプはクラゲやイソギンチャクの仲間で、数千もの個体が集まって群体を形成し、成長や増殖を続けます。

サンゴは主に、硬い骨格を持つ「ハードコーラル」と、柔らかい体を持つ「ソフトコーラル」の2種類に分けられます。サンゴ礁を形成するのはハードコーラルです。ハードコーラルのポリプは炭酸カルシウムを分泌し、それが長い年月をかけて堆積することで、私たちが目にする大規模なサンゴ礁が作られます。  

炭酸カルシウムでできたサンゴの骨格は白色です。また、サンゴのポリプ自体も非常に薄い色をしているか半透明です。では、なぜサンゴは色鮮やかに見えるのでしょうか。その答えは、ポリプの組織内に生息する「褐虫藻」と呼ばれる共生藻類にあります。これらの藻類が光合成によって生み出すブドウ糖はポリプの栄養源となり、サンゴの成長を支えています。

サンゴ礁の生態系には、サンゴや藻類だけが生息しているわけではありません。多種多様な魚類や無脊椎動物、微生物が暮らしており、地球上でも特に生物多様性の高い生態系の一つとなっています。

ウスエダミドリイシサンゴの産卵

サンゴの産卵     +

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ご存じでしたか? サンゴにはいくつかの繁殖方法があります。中でも最も美しく神秘的なのが、「一斉産卵」と呼ばれる大規模な産卵現象です。

この神秘的な現象は年に一度、多くの場合、月の満ち欠けや海水温に合わせて起こります。その際、サンゴは無数の生殖細胞の束を海中に放出します。この現象は夜間にのみ起こり、通常は数日間続きますが、産卵のタイミングはサンゴの種類によって異なります。一斉に放出することで、生殖細胞同士が海中で出会いやすくなり、受精する可能性が高まります。

受精すると、サンゴの卵は「プラヌラ」と呼ばれる遊泳幼生へと成長します。プラヌラは海中を漂い、やがて付着に適した場所を見つけると定着し、新たなポリプへと成長します。

なぜサンゴは白化してしまうのでしょうか? 白化を防ぐには?

褐虫藻は、ポリプの胃の内側を覆う特定の細胞内に生息しています。サンゴがストレスを受けると、これらの細胞から共生する褐虫藻を追い出し、口から排出してしまいます。この現象が「白化」です。主なエネルギー源を失ったサンゴはやがて死滅し、白い炭酸カルシウムの骨格だけが残ります。

光や熱などの環境要因は、サンゴにストレスを与える主な原因であり、特に海水温の上昇は大規模な白化現象を引き起こす大きな要因となっています。2014年から2017年にかけて発生した世界規模の白化現象では、数千キロメートルにわたるサンゴ礁が壊滅的な被害を受け、そこに生息するさまざまな生物にも大きな影響が及びました。米国海洋大気庁(NOAA)は、2023年から2025年にかけて4度目の世界的な白化現象が発生したと発表しています。では、サンゴを健全な状態に保つために、私たちにできることはなんでしょうか?

白化に強いサンゴの育成

最近の白化現象は、世界のサンゴ礁のほぼ85%に影響を及ぼしています。しかし、すべてが悲観的な状況というわけではありません。ウスエダミドリイシ(Acropora tenuis)のように、白化への高い耐性を示すサンゴもいます。OISTの研究者たちは、この興味深い種の長期育成プロジェクトや研究に取り組んでいます。これらのサンゴのゲノムや遺伝子発現を調べることで、白化に強い仕組みを解明し、将来にわたって健全なサンゴ礁生態系を維持するための手掛かりを得たいと考えています。

サンゴの共生関係を理解する

サンゴと藻類の共生関係は、白化現象を理解する上で重要な鍵となります。こうした生物同士の関係を理解することで、科学者たちは白化現象がなぜ起こるのかについて新たな知見を得ることができます。

OISTの研究者たちは、海水温の上昇が共生藻に与える影響を調べたり、サンゴの構造が共生関係をどのように支えているのかを解明したりするなど、さまざまな角度から研究を進めています。

OIST Coral project logo mark

OISTのサンゴプロジェクト

佐藤矩行教授とティモシー・ラバシ教授が立ち上げたOISTサンゴプロジェクトは、ゲノム情報を活用してサンゴを保全することを目的としています。研究チームは、さまざまな場所でサンゴの植え付けや育成を行うとともに、環境DNA(eDNA)を用いて回復状況をモニタリングしています。こうした取り組みを通じて、サンゴやサンゴ礁生態系を構成するさまざまな海洋生物の健全な状態と生物多様性の維持・回復を目指しています。

これらの取り組みや進行中の研究プロジェクトについて詳しく知りたい方、また活動への寄付をご検討の方は、OISTサンゴプロジェクトのウェブサイトをご覧ください。

サンゴには、他にどのような脅威があるのでしょうか?

生物種のバランスの崩れ

サンゴの天敵

冷血な殺戮者と聞いて、ヒトデを思い浮かべる人は少ないでしょう。しかし、オニヒトデの大量発生は、サンゴにとって大きな脅威となっています。この有毒なヒトデは数千匹規模で集まり、サンゴの組織を食べ尽くして、サンゴ礁を作るサンゴを激減させてしまいます。

OISTの共同研究では、オニヒトデの大量発生を引き起こす要因を解明し、その抑制につながる新たな対策の開発を目指しています。オニヒトデ同士がどのようにコミュニケーションを取り、集団を形成するのかを理解することで、効果的な対策の確立につなげたいと考えています。

詳細はこちら:オニヒトデのコミュニケーションの仕組みを解明し、サンゴ礁保護の手がかりに

CoTS starfish pictured in center, with dark background and pink rocks in foreground.

ご存じでしたか?     +

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  • オニヒトデは20本以上の腕を持つことがあります。
  • 成体のオニヒトデ1匹で、1年間に最大10平方メートルのサンゴを食べることがあります。
  • 口から胃を押し出してサンゴを包み込み、その組織を消化することで餌を食べます。
  • 大型のメスは1年に2億個以上の卵を放出することがあります。これほど多くの卵を産むため、大発生が起こるのも不思議ではありません。大発生とは、一般的に1ヘクタール(1万平方メートル)あたり15匹以上のオニヒトデが確認される状態を指します。

乱獲

サンゴを食べる生物もいれば、サンゴの生存に欠かせない生物もいます。魚類などの乱獲はサンゴ礁生態系の繊細なバランスを崩し、ストレスや白化現象に対する抵抗力を低下させてしまいます。

例えば、ブダイやニザダイは食用として漁獲されることの多い魚です。しかし、これらの魚はサンゴ礁に生える藻類を食べることで、藻類が増えすぎてサンゴの成長に必要な空間や日光、栄養分を奪ってしまうのを防ぎ、サンゴ礁の健全な状態を保つ役割を果たしています。

もちろん、漁業は地域経済や食料安全保障にとって不可欠です。地元の漁業関係者と協力しながら、沖縄のサンゴ礁生態系を健全な状態で将来に引き継いでいくことが重要です。

汚染

私たちの陸上での活動も、海に大きな影響を与えます。サンゴにとって大きな脅威の一つが汚染です。汚染の原因としては、農地から流れ出る土砂や肥料、工場などからの排水、プラスチックごみなど、さまざまなものがあります。さらに、私たちが使う日焼け止めもサンゴに影響を与えることがあります。

土砂の堆積

激しい嵐や大雨の後には、沖縄の海に赤い帯が広がっているのを目にすることが少なくありません。これは赤土の流出によるものです。雨によって土壌が流されると、土砂が海へ運ばれ、サンゴ礁の上に堆積します。その結果、光合成に必要な日光が遮られてしまいます。また、肥料に含まれる栄養分が藻類の大量発生を引き起こし、サンゴと光や空間を奪い合うことになります。

OISTの研究者たちは以前、地元コミュニティと協力して、赤土などの流出を減らす方法を探るプロジェクトを実施しました。詳細はこちら:ミツバチが沖縄のサンゴ礁保全をお手伝い?

マイクロプラスチック

プラスチックごみは、海洋環境における深刻な問題です。目につきやすいペットボトルやレジ袋だけでなく、「マイクロプラスチック」と呼ばれる微細なプラスチック片が海の至る所で見つかっています。これらは、人間が摂取すると健康に影響を及ぼすことが知られており、他の生物にとってもリスクとなります。

OISTの研究者たちは、沖縄の海域や海洋生物に含まれるマイクロプラスチックを継続的に調査してきました。詳細はこちら:沖縄の海洋生物の体内から検出されるマイクロプラスチックを調査

物理的損傷

爆破漁法のような破壊的な漁法は、サンゴ礁に物理的な損傷を与え、砕いてしまうことがあります。また、船や錨(いかり)による損傷に加え、観光客が記念品としてサンゴを折って持ち帰ることも、サンゴ礁への物理的損傷の例です。

サンゴの成長速度は遅く、多くの場合、年間わずか数ミリメートルから数センチメートル程度しか成長しません。そのため、小さな損傷であっても回復までに数十年かかることがあります。

海洋酸性化

CO₂濃度の上昇に伴い、海水の酸性化が進んでいます。これにより海洋の化学的なバランスが変化し、サンゴがサンゴ礁の骨格をつくるために必要な炭酸イオンが減少してしまいます。

海洋気候変動ユニットでは、CO₂濃度が高い海底火山や熱水噴出孔など、自然界に存在する類似の環境を研究することで、海洋酸性化が海の生態系にどのような影響を及ぼすのかを調査しています。詳細はこちら:天然類似現象(ナチュラルアナログ)から海洋酸性化の影響を調査

Photo of ocean wave

海洋酸性化の化学的メカニズム     +

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水とCO₂が反応すると炭酸が生成され、さらに水素イオンと重炭酸イオンになります。

サンゴ礁の骨格は炭酸カルシウムでできています。しかし、水素イオンが炭酸イオンと結びつくことで重炭酸イオンが増え、サンゴがサンゴ礁を形成するために利用できる炭酸イオンが減少してしまいます。

水中の水素イオン濃度がさらに高くなる(海水の酸性化がさらに進む)と、既存の炭酸カルシウムが溶け始め、サンゴだけでなく、ハマグリやムール貝、カキなどの殻を持つ生物にも影響を及ぼします。

サンゴの病気

人間と同じように、サンゴも細菌や真菌による感染症などの病気にかかることがあります。これらの病気は、サンゴの組織を傷つけたり、成長を妨げたりするだけでなく、サンゴ群体を死滅させることもあります。

海洋構造生物学ユニットでは最近、沖縄に生息する一部のサンゴに影響を及ぼすことが知られている「ブラックバンド病」の研究を開始しました。

サンゴ礁の健全性や生物多様性をモニタリングするには?

eDNAを用いた生物多様性のバーコーディング

海洋生態系を保護するためには、まずそこにどのような生物が生息しているのかを知る必要があります。ゲノム解析技術を活用することで、特定の地域にどのような生物が存在するのかを調べることができます。

マリンゲノミックスユニットは、世界で初めてサンゴの全ゲノム解読に成功した研究チームです。同ユニットは他の海洋研究者たちと協力しながら、サンゴに関するゲノムデータを蓄積してきました。また、そのデータを活用し、わずかな海水サンプルからその地域に生息するサンゴを特定する新しい手法の開発を進めてきました。

この手法は「eDNA(環境DNA)メタバーコーディング」と呼ばれ、サンゴの属レベルでの構成を長期的に調査しながら、サンゴ礁生態系の生物多様性の変化を追跡することができます。同様の手法は、魚類やその他のサンゴ礁生物の研究にも応用できます。

Photo of multicolored corals

eDNAメタバーコーディングとは?     +

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環境DNA(eDNA)とは、生物から放出されて環境中に存在するDNAのことです。サンゴの場合、eDNAはサンゴの微細な破片や粘液に由来します。これらは海面付近に漂うため、表層海水の中から採取することができます。
eDNAを調べるために、科学者たちは次のような手順を踏みます。

  • 表層海水のサンプルを採取する
  • サンプルからDNAを抽出する
  • DNAはごく微量しか含まれていないため、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)という方法を用いて増幅し、測定可能な量にする
  • サンプル中に含まれるDNAの塩基配列を解析する
  • 得られたDNA配列を既知の配列データベースと照合し、その海域に存在するサンゴを特定する
     
Man looking at conical flask in fridge
© OIST/Andrew Scott/Jeff Prine

構造生物学の研究

OISTの科学者たちは、サンゴを詳細に観察し、その生命活動の仕組みを原子レベルで理解しようとしています。海洋構造生物学ユニットでは、クライオ電子顕微鏡(cryo-EM)を用いて、サンゴとその共生生物を調査しています。

「私たちは、共生関係がどのように始まり、維持され、そして崩壊するのか──例えば白化現象のような場合です──に関心を持っています。サンゴはどのように餌を摂るのでしょうか。白化の連鎖は何によって引き起こされるのでしょうか。共生生物には何が起こるのでしょうか。私たちは、これらのプロセスを構造生物学の観点から研究しており、顕微鏡を使ってイソギンチャクなどのモデル生物を観察するとともに、サンゴそのものも研究しています。」

──オレグ・シッツェル准教授(海洋構造生物学ユニット)

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