オニヒトデのコミュニケーションの仕組みを解明し、サンゴ礁保護の手がかりに

オニヒトデ( Acanthaster;CoTS: crown-of-thorns starfish)は、インド・太平洋地域のサンゴ礁に生息する在来種であり、生態系の健全性を維持するうえで重要な役割を果たしています。1匹のオニヒトデは、1日に最大240平方センチメートル、年間でおよそ10平方メートルのサンゴ組織を摂取することがあります。しかし、大発生が起きると、数千匹ものオニヒトデが群れを成し、わずか数か月で数ヘクタールものサンゴを食い荒らしてしまいます。こうした過剰な捕食は、硬い骨格を持つサンゴを枯渇させることで、サンゴ礁の健康や安定性を損なうだけでなく、サンゴ礁の長期的な回復力を弱め、気候変動という最大の脅威に適応する力を妨げます。
現在、オニヒトデの対策としては、一匹ずつ手作業で取り除いて駆除する方法が主流ですが、非常に非効率で、労働集約的であり、コストもかかります。そうした中、オーストラリア海洋科学研究所(AIMS)とオーストラリアのサンシャインコースト大学、沖縄科学技術大学院大学(OIST)の研究チームは、オニヒトデがその特徴的なとげを使って、繁殖期以外でもペプチドの「匂い」を嗅ぎ分け、互いにコミュニケーションを取っていることを発見しました。この発見を基に、研究チームは低濃度で毒性のない合成ペプチドを開発しました。この研究成果は科学誌『iScience』に掲載されました。今回の発見は、オニヒトデを特定の場所に誘導し、多くの個体を一度に効率よく駆除することを可能にする、有力な有害生物制御用ペプチド「Acanthaster attractins」の開発につながる可能性があります。
「ゲノム解析とプロテオーム解析により、オニヒトデのとげは防御のために使われる毒素だけでなく、さまざまなペプチドを感知し分泌するために使用されていることが分かりました」と、OISTマリンゲノミックスユニットを率いる佐藤矩行教授は説明します。「これらのペプチドは、群れの行動を促進する可能性があるため、フェロモンのような働きをすると思われるペプチドを合成したところ、オニヒトデの軌道に常に影響することが分かりました。これらの物質を活用し、オニヒトデの大発生に対する効率的で安全な対策法の開発に貢献したいと考えています。」

ヘッダー画像:普久原エリカ(OIST)
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