KNOW SAFETY, NO PAIN
沖縄科学技術大学院大学(OIST)は、日本における先進的な大学院大学として、世界最高水準の研究と教育を推進しています。その卓越性への取り組みの一環として、安全衛生においても国際的な基準に基づいた包括的な管理体制を構築しています。 本ページでは、OISTが過去の教訓にも学びつつ、これまでに整備・実施してきた主な安全対策の強化の経緯をご紹介します。
1. 互いに尊重し合う職場およびハラスメント防止について
互いに尊重しあう職場を実現することは、本学の基本方針文書において、基本的価値の一つとして謳われているところですが、2017年9月21日に全教職員・学生を対象に、互いを尊重し合う職場の実現とハラスメント防止に関するセミナーを日英それぞれの言語で開催しました。同セミナーでは、本学の基本理念の一つである「互いに尊重し合う職場」について再確認するとともに、ハラスメントに関する通報窓口についても説明が行われました。ハラスメントについてはその後もすべてのOIST構成員に対する必須研修が施されています。
2. 安全研修および健康診断実施の義務
全教職員・学生による安全研修の受講を管理するための電子システムを導入しました。全ての教職員・学生及び直属の上司が、一人ひとりの研修受講状況をすぐに確認できるようになっています。また、健康診断の受診状況については産業保健専門職が個別に確認と受診勧奨を行っており、野外活動等への未受診者の参加を未然に防ぐ体制が整えられています。野外活動に参加する者は、一次救命処置トレーニング(応急処置講習(first aid)及び心肺蘇生講習(CPR))を実地研修として受講し、野外活動一般講習(オンライン)ならびにその他必要な研修を受講することが義務付けられています。全ての教職員・学生及び直属の上司が、一人ひとりの研修受講と健康診断の受診状況をすぐに確認できるようになっています。
3. 野外活動安全委員会
2017年には、野外活動安全委員会を発足しました。本委員会は、OISTの野外活動全般にわたる野外活動計画書を厳しく審査します。本委員会のメンバーは5名の学内メンバーの他、2名の学外専門家で構成されています。
野外活動安全委員会の委員構成は定期的に見直しが行われており、2023年10月初旬に行われた委員構成の見直しにおいては、学外専門家1名(海洋分野)を新たに任命しました。
4. 科学的ダイビングの安全管理
2025年6月5日、OISTは米国科学的潜水協会(AAUS: American Academy of Underwater Sciences)の組織会員として正式に承認され、組織会員としての活動を開始しました。AAUSは、科学的ダイビングおよびシュノーケリングの実施基準を定め、世界中で安全かつ生産的な科学的潜水の推進・支援することを使命としています。
4-1.ダイビング・コントロール・ボード
2022年秋、学長、プロボスト、総括安全衛生管理者(事務局長)及び海洋分野の教員の間で、サイエンティフィックダイビングの世界標準である米国水中科学アカデミー(AAUS: American Academy of Underwater Sciences )のAAUS Standards for Scientific Divingを採用することに合意しました。同マニュアルに定められたサイエンティフィックダイビングの安全管理プログラムを構築するため、2023年3月10日にダイビング・コントロール・ボード(DCB)が設置され、2023年5月25日ダイビング安全マニュアルを新たに制定しました。以降、OISTにおける科学的ダイビングは、安全を確保するため、当該マニュアルに基づき実施されています。2025年6月時点で、DCBには新たに3名の委員が加わり、AAUSが求める科学的ダイビングプログラムの自主的管理体制が整備されています。DCBは、潜水安全マニュアルの定期的な更新および改善を行い、その内容はDCBのウェブサイト上で公開されています。OISTダイビングプログラムは、一般の皆様、そして学生、研究者、職員、管理者教職員を含むすべての関係者へのコミットメントとして、安全プログラムの継続的改善、潜水技術の発展、世界水準の研修および教育を通じた強固な安全文化の育成に継続的に取り組んでいます。
これらの取組みは、『Shohei Suzuki Fund』の支援により実現しています。私たちは、鈴木祥平氏のご遺志を継承し、安全な潜水活動への志を胸に、今後も潜水安全の向上に尽力してまいります。
4-2.ダイビング・ボート安全主任者
2025年2月1日、新たなダイビング・ボート安全主任者が就任しました。
ダイビング・ボート安全主任者は、海洋科学セクションと緊密に連携し、科学潜水、ボート活動およびシュノーケリング活動支援を行うとともに、DCBの一員として活動します。
この職務には、研究潜水活動の安全および技術的指導の両面に対する強いコミットメントが求められます。特に研修の実施、現場監督(水中)、および安全基準遵守の徹底に重点が置かれます。
ダイビング・ボート安全主任者は、研修および教育の分野において専門的な監督を行い、海洋研究および訓練の実施中における安全プロトコルの遵守状況を監視し、ダイビングチーム全体の安全を確保します。安全上の問題や懸念事項が発生した場合には、速やかにDCBの議長へ報告し、OISTにおける最高水準の安全性を維持します。
この職務の主要な要素の一つは、包括的な訓練および認証プログラムの策定と維持です。安全衛生セクション、教員、研究者、そしてOIST学生課と連携して実施されます。ダイビング・ボート安全主任者は、すべての研究者、職員、および学生を対象とした、承認された訓練カリキュラムの設計と実施を担当します。これには、実地研修の機会の創出や、水中での潜水活動の監督が含まれ、すべての参加者が、安全を重視した効果的な研究潜水を遂行するために必要な知識と技能を十分に身につけられる支援します。
4-3.ライセンスの転換
海外で取得した潜水士資格を日本の潜水士資格に書替える手続きを、国内外の関係機関との連携のもとに推進しています。これまで2019年に英国潜水士資格で1例、2021年のフランス潜水士資格で2例、2022年, 2024年、2025年のアメリカ民間潜水指導団体認定証で各1例が沖縄労働局より承認されました。
トレーニング関連では、OISTダイバーとオンサイトリーダーに緊急時の酸素利用を可能にするトレーニングを2020年6月から開始しました。これによって救急隊到着前から潜水事故者に酸素吸入措置を講じることが可能になり、救命率向上につながります。安全潜水のため、ダイバートレーニング、現場視察を行っていきます。
5. リスクマネージャー
事業継続計画(BCP)の再構築や机上演習の実施を含めた事業継続マネジメント(BCM)の改善を担当する役割として、OISTでは2025年4月1日からリスクマネジャーを配置しました。
6. インシデント・アクシデント報告
事故の未然防止を目的とし、本学のインシデント・アクシデント情報に関する報告、収集、分析及び公開までの包括的なルールを示すOIST インシデント・アクシデント報告ガイドラインが2020年4月に策定されました。これに基づき、負傷につながりそうだった事例(ニアミス)や、実際に負傷に至った事例を収集し、事例発生時の現場の状況や事故防止の対応策を共有するプロジェクトが実施されています。活動の主体はOIST安全衛生委員会であり、委員会は再発防止のための是正措置について審議し、報告者に対してフォローアップを行っています。
7. 安全強化月間
毎年、潜水事故が発生した11月を「安全強化月間」と定め、学内の安全体制について考えを深め、更なる改善点はないかということに改めて意識を向けることにしています。
故人を偲ぶ全学の取り組みの一環として、2017年11月13日に、鈴木祥平氏の追悼講演会を開催しました。同講演会では、佐藤矩行教授が海洋科学に関する追悼講演を行った他、エヴァン・エコノモ准教授が新種のアリに鈴木博士の名前を命名し、アリの写真の贈呈と合わせ、命名に込められた思いを鈴木博士のご家族に共有しました。
また、安全な野外活動の促進と普及を目的とした「鈴木祥平研究安全基金」の設立を発表しました。2017年11月30日から基金への寄付の受付を開始しており、鈴木祥平博士のご家族やピーター・グルース学長(当時)、研究担当ディーンのメアリー・コリンズ(当時)をはじめとするOIST職員の一部が、本学内の安全文化を高めるという趣旨のもと、鈴木祥平安全基金へ寄付を行いました。また、同基金では、学内における研究安全や安全トレーニングに対する意識を高め、学生や経験の浅いOISTの研究者や技術者が研究安全を含むフィールドワークに必要な技術を身につけることができるよう、2018年5月から研究安全助成プログラムの公募を開始し、これまでに13件の助成を行いました。
また、毎年「安全強化月間」には、OIST安全衛生委員会において企画立案を行い、学生会、保健センター、がんじゅうサービスの協力のもと、安全のみならず福祉・衛生の分野を含めた幅広い側面から全学的な安全衛生啓発活動を実施しています。主にセミナーや参加型のイベントを通して注目すべき課題を全学的に共有し、法令遵守の総点検を促す活動等により、安全に対する改善の意識を高める取り組みをこれからも継続してまいります。
8. より強固な安全衛生部署を目指して
前述の通り、リスクマネージャー、ダイビング安全主任者、野外活動安全委員会のサポートを行う野外活動安全スタッフと既存のスタッフを中心に、学内全体で安全管理の向上を推進しています。今後も、OISTでの安全衛生担当職員の拡充や各個人の資質向上によって、該当部署を強化してまいります。
更新日付:2025年9月1日