2016-07-04

次世代スパコンを駆使し脳機能の解明と脳型人工知能の開発に挑む

 人の声を聞いて応答したり、写真の中の人の顔を特定したり、しばらく前までは人にしかできないと思われていたことがスマートフォンでもできるようになるなど、人工知能(AI)ソフトウェアの進歩はめざましいものがあります。「AlphaGo」が世界トップクラスの囲碁棋士と対戦し、勝利を収めたのは記憶に新しいところですが、その背景には、深層学習(ディープラーニング)という、脳の神経回路を起源とした機械学習アルゴリズムが主要な役割を果たしています。

 この度、沖縄科学技術大学院大学(OIST)は、国内の4機関と共同で、スーパーコンピュータ「京」の後継機となるポスト「京」を駆使し、脳のビッグデータ解析および全脳シミュレーションと脳型人工知能アーキテクチャに関する7課題の共同研究を実施することが決定しました。ポスト「京」で重点的に取り組むべき社会的・科学的課題(9重点課題)を実施する日本の大学や研究機関は2015年から活動を開始していますが、去る6月24日に文部科学省より4つの萌芽的課題の実施機関が発表されました。本プロジェクトはその1つで、実施にあたっては、OIST教授の銅谷賢治が代表を務め、京都大学、理化学研究所、電気通信大学、東京大学の研究者が参加します。2020年を目標に開発がすすめられているポスト「京」の稼働に向けて、今後4年間にわたってアプリケーションの開発や研究開発を行い、「脳機能の解明」と「脳型人工知能の開発」に取り組みます。前者は銅谷教授が、後者は京都大学の石井信教授がリードします。

 「脳機能の解明」にあたり、研究チームは大脳皮質、大脳基底核、そして小脳の3つの領域に注目して神経回路のシミュレーションを行います。その理由としてOIST神経計算ユニットを主宰する銅谷教授は、「これら3領域はそれぞれが特徴的な計算原理と学習アルゴリズムをもつと考えられます。各領域の神経回路モデルのエキスパートを集めたチームで、各領域の働きを明らかにするとともに、それらがどう連携しているのかを探ることが狙いです」と、語ります。

 脳シミュレーションで欠かせないのが、実際の脳のデータを用いることです。そこで研究チームは、「革新的技術による脳機能ネットワークの全容解明プロジェクト(Brain/MINDS)」と協働することで、全脳から個々の神経細胞レベルにいたるまで体系的に蓄積されつつある脳の構造と活動に関するデータをもとにシミュレーションを行います。「実際の脳のデータを用いて構築する大脳皮質や大脳基底核、小脳の神経回路モデルが、それぞれ想定されているような計算や学習を本当に実現できるのかを見極めたいと思っています。最終的にはそれらの脳領域がいかに連携して、運動制御や思考を実現しているのかを解明したいと思っています」と、銅谷教授は述べています。

 「脳型人工知能の開発」では、ダイナミックで不確かなデータから脳がどのように学習しているかの理解をもとに、動的画像処理や、不完全情報ゲーム、意思決定支援など、広範な応用を可能にすることをめざします。

 将来の展望について銅谷教授は、「脳シミュレーションでは、実際の脳では困難なその働きの可視化や、特定の要素の操作を系統的に行うことが可能になります。これが脳疾患などの病気の原因の解明や、その治療法の開発につながると期待しています」と、本研究がもたらす成果について抱負を語りました。


本プロジェクトの実施体制は以下の通りです。

課題名

脳のビッグデータ解析、全脳シミュレーションと脳型人工知能アーキテクチャ

代表研究者

銅谷賢治

代表機関

沖縄科学技術大学院大学

分担機関

京都大学、理化学研究所、電気通信大学、東京大学

概要

脳の構造と活動に関して得られる膨大なデータを運動制御や思考などの脳機能の理解につなげるには、多種多階層のデータを統合して全脳の神経回路モデルを構築しシミュレーション解析を行うことが必要である。また今日の人工知能の基本要素である深層学習は物体認識や完全情報ゲームで人間を凌ぐ性能を与えているが、その学習には人の一生の経験を超えるほどの膨大なデータを必要とする。本研究はこれらの要求と課題に対して、ポスト「京」の計算資源を最大限に活用する形で、脳データの解析とモデリング手法の開発、大脳皮質、小脳、大脳基底核を含む全脳の神経回路のシミュレーション実装、階層的確率モデルによる仮説生成と検証により不完全観測や少数サンプルからの学習が可能な脳型人工知能の開発を行う。これらにより、運動制御や思考を実現する脳機能の解明と、多プレーヤゲームや動的画像処理などに応用可能な脳型人工知能への貢献を目指す。

サブ課題

  1. 脳の構造と活動の大規模データ解析:京都大学・大羽成征
  2. 大脳皮質神経回路のデータ駆動モデル構築:理化学研究所・五十嵐潤
  3. ヒト全小脳モデル構築と大脳小脳連関シミュレーション:電気通信大学・山﨑匡
  4. 大脳皮質・基底核・小脳モデル統合による全脳シミュレーション:沖縄科学技術大学院大学・銅谷賢治
  5. 脳型人工知能アーキテクチャの開発:京都大学・石井信
  6. 脳型人工知能用大規模高性能計算プラットフォームの開発:理化学研究所・髙橋恒一
  7. 脳型人工知能の大規模実問題への応用:東京大学・原田達也

参考

ポスト「京」で重点的に取り組むべき社会的・科学的課題の萌芽的課題と実施機関については、下記のリンク先をご参照ください。
http://www.mext.go.jp/b_menu/houdou/28/06/1373171.htm

(名取 薫)

広報や取材に関して:media@oist.jp