ぶりぶし(群星)フェローの新たな挑戦 ─サクニクテ・トレド・パティノ博士、OISTからUNAMへ

ぶりぶしフェローシップを通じた若手研究者の成長と、アカデミックキャリアの次のステップ

J-PEAKSの一環として、OISTでは、若手研究者が主体的に研究を進め、次世代の研究リーダーへと成長できるキャリア開発システムの構築を進めています。その取り組みの一つが「ぶりぶし(群星)フェローシップ」です。このプログラムでは、若手研究者に研究資金や研究スペース、専門能力開発の機会を提供し、主任研究者(PI)として独立して自身の研究プロジェクトを主導できるよう支援しています。「ぶりぶし」は沖縄の言葉(うちなーぐち)で「群星(星の集まり)」を意味します。 

分子生物工学グループのサクニクテ・トレド・パティノ博士は、2024年にぶりぶし(群星)フェローシップに採択されました。博士はOISTで自身の研究グループを率いながら研究を続けてきましたが、このたびメキシコ国立自治大学(UNAM)のテニュア付きポストのオファーを受けました。 

今回のインタビューでは、パティノ博士がぶりぶし(群星)フェローとしての経験を振り返りながら、このフェローシップが自身のキャリアや研究、さらに教育や研究チーム運営に対する考え方にどのような影響を与えたのかについて語っていただきます。  

Dr. Saacnicteh Toledo Patino
サクニクテ・トレド・パティノ博士
サクニクテ・トレド・パティノ博士

1. ご自身について簡単に紹介いただき、現在の研究内容について教えてください。 

私の名前はサクニクテですが、OISTでは「ニクテ」と呼ばれています。マヤ系の名前は外国の方には発音が難しい場合があるからです。私はメキシコ出身ですが、この20年間は海外で暮らしてきました。過去2年間はぶりぶし(群星)フェローとして、タンパク質の進化と設計に関する研究を通じて、エネルギー問題の解決に取り組んできました。これまで暮らしてきたさまざまな場所の中でも、沖縄は群を抜いてお気に入りの場所です。 

2. ぶりぶし(群星)フェローシップに応募しようと思った理由は何でしたか? 

アカデミアでキャリアを築くことは簡単ではありません。特に、ヒスパニック系の女性研究者にとってはなおさらで、必ずしも十分な機会が与えられているとは言えません。ぶりぶし(群星)フェローシップは、PI(主任研究者)として完全な独立性が認められ、自ら人材を採用して研究チームを立ち上げることができるうえ、研究に必要な専用スペースまで提供されるという、他に類を見ない制度でした。若手研究者にとって、これ以上ないほど魅力的な機会だったと思います。

Credit: Submitted by Saacnicteh Toledo-Patino
結晶化プレート内で形成されるタンパク質結晶を捉えた顕微鏡写真。OISTでの研究中に、サクニクテ・トレド・パティノ博士が撮影した
© Saacnicteh Toledo-Patino
結晶化プレート内で形成されるタンパク質結晶を捉えた顕微鏡写真。OISTでの研究中に、サクニクテ・トレド・パティノ博士が撮影した

3. ぶりぶし(群星)フェローとして活動する中で、最も価値があったことは何ですか? 

自分のアイデアを追求できる独立性です。若手研究者は通常、シニア研究者の指導の下で、あるいはその研究室の枠組みの中で研究を行います。一方で、ぶりぶし(群星)フェローシップでは、自分が本当に取り組みたい研究を自由に追求するための裁量と主体性が与えられます。 


4. 研究資金、人材採用の支援、ショーケース・トーク、リーダーシップ研修など、ぶりぶし(群星)フェローシップを通じて提供された機会は、どのようにご自身の成長につながりましたか? 

OISTでは豊富な研修の機会が無償で提供されており、どの研修も貴重な経験となりました。そうした研修を通じて、強いチームの作り方、より良いメンターになる方法、そして研究室をより効果的に運営する方法を学びました。特にショーケース・トークは、自分のネットワークを広げ、新たな共同研究のきっかけを作ってくれました。 

Dr. Saacnicteh Toledo Patino: Group photo
グループ写真
グループ写真

5. OISTの研究環境についてどのように感じていますか。また、その環境はご自身の研究やキャリア形成にどのような影響を与えましたか? 

OISTの学際的な研究環境は、研究者としての視野を大きく広げてくれました。自分の研究をさまざまな角度から捉え直す機会にもなりました。例えば、専門分野とは大きく異なる海洋科学の研究者と共同研究を行う機会にも恵まれました。他分野から多くのことを学ぶことができ、とても刺激的な経験でした。

6. 日本における外国人ポスドク研究者の役割について、どのようにお考えですか? 

外国人ポスドク研究者は、日本の研究機関に多様な視点や国際的なネットワークをもたらす上で重要な役割を果たしており、それによって研究成果の向上や国際共同研究の強化が促されます。OISTでの私自身の経験から、事務部門から研究環境全体に至るまで、組織的な支援が外国人研究者の活躍に大きく影響することを実感しました。今後、日本がさらに多くの海外人材を受け入れていく中で、特に事務手続きやビザ取得支援に関する強固なサポート体制を整えることが、人材の定着を促し、研究に取り組みやすい環境を実現する上でますます重要になると思います。   

7. 若手研究者が活躍するためには、どのような環境が重要だと思いますか? 

独立性です。若手研究者には、ポスドクの段階であっても独立した研究プロジェクトを主導し、自分ならではの専門性や強みを築く機会が与えられるべきだと考えています。若手研究者がシニアPIの研究方針に沿って研究するだけでは、その分野の中で自分自身の立ち位置や独自性を確立することが難しくなります。その結果、将来的に独立した研究者としてのポストを得ることも難しくなってしまいます。 

lab seminar
ラボセミナー
ラボセミナー

8. もし、若手研究者向けの理想的なフェローシップ制度を設計できるとしたら、どのような要素を盛り込みますか? 

私は間違いなく、博士課程の学生を受け入れる機会を設けます。シニア教授との共同PIという形でも構いません。この仕組みによって、学生はより多くの支援や指導を受けることができ、主担当のPIも学生指導の負担を分担できます。また、ぶりぶし(群星)フェロー自身にとっても、貴重な指導経験を積む機会になります。ぶりぶし(群星)フェローとして、私が直面した大きな課題の一つは、自分が受け持つ学生達全員に必要な資金を自分で確保しなければならなかったことです。そのため、研究予算のかなりの部分を学生への支援に充てる必要がありました。幸い、私は外部研究資金を獲得することができましたが、それがなければ研究活動は今とはかなり違ったものになっていたと思います。 

9. 今後の目標や抱負について教えてください。 

優れた指導こそが、成功するチームの基盤であると強く信じています。学生や研究室のメンバーが安心して自由にアイデアを共有できる環境では、より大きな充実感が生まれ、創造性も発揮されやすくなります。科学の価値は、自分自身の研究だけで測られるものではありません。自分が育てた人々を通じて、その影響はさらに広がっていくのです。私にとっては、自分自身の研究成果だけを追い求めるよりも、そうした人材を育てることの方がはるかに意義深く感じられます。そのため、将来は優れた指導者になりたいと考えています。研究面では、准教授として新たなステージに進むにあたり、OISTで掲げた研究目標を引き続き追求していきたいと考えています。また、今後もOISTの研究コミュニティとのつながりを大切にしていきたいと思っています。サバティカルや共同研究、あるいは訪問などを通じて、近い将来再びOISTに戻る機会が持てることを楽しみにしています。 

Saacnicteh Toledo Patino : Experiment picture
サクニクテ・トレド・パティノ博士
サクニクテ・トレド・パティノ博士

 

ぶりぶし(群星)フェローシップは、若手研究者が独立した研究者としての基盤を築き、国際的なキャリアを形成するための重要な機会を提供しています。OISTはJ-PEAKSの支援のもと、今後も優れた研究者が新たな挑戦に取り組み、次世代の研究リーダーへと成長していけるよう後押ししていきます。