UDプロテオミクスを駆使したヒト幹細胞の角化細胞への分化誘導プログラミングの最適化
取り組んでいる課題
皮膚の創傷治癒は、熱傷、外傷、糖尿病性潰瘍、外科的損傷を抱える患者に影響を及ぼす、世界的な重大医療課題であり続けています。ヒト人工多能性幹細胞(iPSC)由来の角化細胞は、従来の移植片に代わる有望な選択肢であるものの、現在の分化誘導プロトコルは時間がかかり、効率が悪く、最適化も不十分です。既存の手法は主に化学的誘導に頼っており、収量のばらつきや不均一な機能的品質を伴う角化細胞の生成に、通常30〜60日を要します。重要なのは、これらの手法が、臨床的有効性の重要な決定要因である細胞の健康状態、成熟度、および機能的統合に対して十分にアプローチできていない点です。併せて、従来のゲノミクスやトランスクリプトミクスでは、細胞機能の直接的な駆動因子であるタンパク質の発現や活性を十分に捉えきれないため、細胞挙動の一部しか解明できません。この限界が、より優れた分化戦略の合理的な設計を制約し、結果としてスケーラブルな製造を妨げ、緊急の臨床的ニーズを抱える患者への治療介入を遅らせています。
図1. 本プロジェクトにおいてプロテオームの網羅的解析が進められている、培養下におけるヒト角化細胞
私たちの解決策
当プロジェクトでは、iPSC由来角化細胞の生成を加速・促進するために、機械学習(ML)および大規模言語モデル(LLM)で強化された超深度プロテオミクスに基づく高度な分化誘導プラットフォームを開発しています。本アプローチは、細胞内小器官(サブセラー・コンパートメント)にわたるタンパク質を直接定量・選別することで、細胞運命の決定を制御する分子メカニズムに対し、実践的な知見(アクレショナブル・インサイト)を提供します。
本手法では、相互に補完し合う2つの戦略を統合しています。(1) 膜プロテオミクスを活用して細胞のシグナル伝達環境に適した最適培地を設計する「受容体–リガンド・マッチング」、および (2) LNP-mRNAベクターで導入し、迅速かつ制御された分化を推進するための主要な転写調節因子を特定する「核プロテオミクス」です。これらを組み合わせることで、分化速度、細胞の健康状態、成熟度、および機能的パフォーマンスの大幅な向上を目指します。
このようにして作製される「機能強化型誘導角化細胞(eiK細胞)」は、スケーラブルな製造に対応するよう設計されており、創傷ケア、再生医療、および皮膚科治療における革新的な応用に向けて極めて高い可能性を秘めています。
図2. ヒト幹細胞由来角化細胞の解析に用いられる質量分析装置。(写真は、サンプルが注入され、イオン化およびそれに続くタンパク質配列解析のためにレーザーが照射される質量分析計のインレット部分)