アルツハイマー病治療候補としての新規合成ペプチドPHDP5の開発
取り組んでいる課題
2024年時点で、全世界で5,500万人以上が認知症を抱えて生活しています。中でも最も一般的なタイプであるアルツハイマー病(AD)は、進行性の認知機能の低下や記憶障害を特徴としています。残念ながら、現在のところADを根本的に治療する方法はなく、既存の薬剤も症状を一時的に緩和するにとどまり、効果には限界があります。近年開発された治療薬には、βアミロイドを標的とした抗体医薬がありますが、これらは分子量が約145〜150 kDaと大きいため、血液脳関門(BBB)を効率的に通過することが難しく、脳内に十分な濃度の薬剤を届けるには高用量の投与が必要になります。その結果、脳浮腫(むくみ)などの重篤な副作用のリスクが高まり、臨床応用が制限されています。そのため、ADに対する治療効果を高めるには、BBBを効率的に通過できる薬物送達システムの開発が極めて重要です。
図1. PHDP5はMT-ダイナミン相互作用を阻害し、エンドサイトーシス機能の障害を有意に回復させるとともに、シナプス機能を修復することが示されており、AD治療への応用が期待されます。
私たちの解決策
私たちは現在、ADの新たな治療候補として、合成ペプチドPHDP5の開発を進めています。PHDP5は、ADの初期かつ重要な特徴のひとつである、シナプス前部における微小管(MT)とダイナミンの異常な相互作用を阻害することで、シナプス機能を回復させます。PHDP5は分子量が約3 kDaと小さいため、BBBを通過して海馬に到達することが可能です。さらに、私たちの研究結果から、PHDP5はADモデルマウスにおける空間学習および記憶障害を改善することが示されており、ADに関連する認知機能障害を改善する治療薬としての可能性が示唆されています。今後のステージとしては、PHDP5がADの進行と認知症状の重症度とより強く関連するタウ病理に対して、生体内でどのように作用するのか、そのメカニズムの解明に取り組みます。また、PHDP5の長期的な認知機能改善効果をADモデルマウスで評価するとともに、安全性、有効性、薬物動態などの主要な前臨床プロファイルについても検証を行っていく予定です。
図2. PHDP5を経鼻投与することで、ADモデルマウスの学習および記憶障害が改善されました。