iH₂O₂: 鉄触媒によるH₂O₂の生産

取り組んでいる課題

過酸化水素(H2O2)は、製紙における漂白工程、化学物質の合成、排水処 理、消毒など、さまざまな分野で用いられる重要な化学物質です。現在、過酸化 水素はほぼすべてアントラキノン法(図1)で生産されていますが、この方法では 大量の有機化合物とパラジウム(Pd)触媒を使用してこの非常に単純な分子を 合成しています。その結果、アメリカでは最もエネルギー集約的な化学物質トップ 10 のひとつに数えられており、生産は大規模な集中型施設でのみ経済的に実現 可能となっています。 触媒的な水素(H2)と酸素(O2)の反応は過酸化水素を合成する最もシン プルな方法の一つはとして知られています。現在、パラジウムがこの反応における最 も活性の高い触媒とされていますが、パラジウム触媒の高価格が、このプロセスの障 壁の一つとなっています。このプロセスと水の電気分解を組み合わせることで、遠隔 地での水処理に向けた過酸化水素の現地生産が可能になると考えられています。

POC project (73 - Takebayashi): figure 1
図1 既存の手法

私たちの解決策

本プロジェクトでは、酸素と水素から過酸化水素を合成するための、シンプルで安 価な有機金属鉄(Fe)触媒の開発に取り組んでいます(図2)。鉄は地球の 地殻に最も豊富に存在する遷移金属であり、ハーバー・ボッシュ法やフィッシャー・ト ロプシュ法などの重要な工業プロセスで使用されています。しかし、これまで過酸化 水素の生成においては利用されていませんでした。私たちは、水素と反応し鉄-水 素(Fe-H)種を形成できる触媒を合成することを目指しています。鉄触媒の特性 を調整することで、パラジウム-水素(Pd-H)種と同様の反応性を持つ Fe-H 種を 生成し、水素から酸素へと2つの水素を移動させて過酸化水素を形成します。予 備実験では、私たちの鉄触媒がこの種の Fe-H 種を生成できることを確認していま す。現在、この触媒を用いて水素と酸素から過酸化水素を生成するプロセスの開 発に取り組んでいます。

POC project (73 - Takebayashi): figure 2
図2 本プロジェクトのの手法