カオスから生じる秩序・・・でもどのように?

  「本質的に予測不可能な事象が数多く集まった結果、心臓が血液を送り出したり、脳が決定を下したりしていると思うと、びっくりしてしまうのです」と話すのは、2011年10月にOISTに着任したばかりのタティアナ・マルケス-ラゴ博士です。同博士が率いるのが統合システムバイオロジーユニットです。

マルケス-ラゴ博士。OISTのオフィスにて。

  同ユニットは確率論的モデリング、マルチスケール法、数値解析、合成生物学、システム生物学を組み合わせた学際的なユニットです。「確率性、つまりノイズとは一言で言えば予測できない、ということです」と同博士は話します。「遺伝子の発現や細胞内シグナル情報伝達、組織運動などの構造化された秩序のあるシステムは、通常、一見無秩序な相互作用から発生します。私たちが解き明かしたいのは、このような『カオス』から秩序がどのように発生するのかという問題です」とマルケス-ラゴ博士は語ります。

  生物学における確率性は分子衝突や化学反応が本質的に予測不可能であるために生じます。これらの過程は無秩序で、いつ起きるのか、明言できません。細胞レベルでも特定の挙動は無秩序で、この混沌としたシステムからどのようにして秩序が生まれるかは、より単純な生物学的レベルでも把握することは難しいのです。

  マルケス-ラゴ博士のユニットでは、数学モデルに基づいて実験を行う実証的アプローチと、実験結果に基づいて数学モデルを練り直す理論的アプローチの2つを取り入れ、生物実験を行うウェットラボと、計算機により理論を構築するドライラボとの間を何度も行き来しています。具体的には、外部から制御したり利用したりすることができる生物学的システムの合成回路を作り出すことを目指しており、合成回路が作成できれば、ノイズの役割や生物学的決定がどのようになされているのかについて理解を深める上で役立つことが期待されます。それにより、理論的アプローチを活用して生物学的機能を構築したり理解したりすることが可能になるわけです。

  この技術を習得することができれば、原理としては、数学モデルで予測された生物的機能を必要に応じて作り出すことができるようになります。これがまさに、現在発展しつつあるオーダーメイド医療の主要概念です。タンパク質の生成やシグナル伝達のレベルを制御することは、合成生物学やシステム生物学の目標の1つであり、薬学研究にも役立つと期待されます。

  マルケス-ラゴ博士はその研究が認められ、数多くの賞を受賞しています。2011年9月、メキシコ政府からマルケス-ラゴ博士のもとに、同博士の専門分野において最も優れた若手研究者の1人であることを表彰して、メキシコ科学技術会議(CONACyT)のNational System of Researchers (SNI) Level 1賞を授与したいという知らせが飛びこみました。このような優れた研究者をOISTに迎えることが出来て光栄です。マルケス-ラゴ博士、ようこそOISTへ!

(ジュリエット・ムセウ)

広報・取材に関するお問い合わせ:media@oist.jp

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