光で機能を自在に切り替える多機能分子スイッチを開発

紫外線に応答して構造を変化させ、蛍光のオン・オフや反応生成物の制御を実現。分子エレクトロニクスやデータストレージ技術への応用が期待されます。

神経細胞が電気信号に応答したり、植物が光の方向へ伸びたりするように、自然界には外部環境に応答するさまざまな生体材料が存在します。研究者たちは現在、センシング技術や省エネルギー技術など、幅広い用途に向けた新たな応答性材料の開発を進めています。しかし、複数の望ましい性質を分子レベルで両立させることは容易ではありません。

沖縄科学技術大学院大学(OIST)の研究チームは、紫外線を当てると構造が変化する新しい多機能化合物を設計・合成しました。この分子は、照射する光の波長に応じて環状構造が開いた状態と閉じた状態の間を可逆的に行き来する「分子スイッチ」として機能します。また、構造が変化すると蛍光を発するため、分子がどちらの状態にあるかを容易に判別できるなど、さまざまな有用な特性を備えています。研究成果は学術誌『Chemical Science』に掲載されました。

化学反応式が示されている。左側には四つの環構造を持つ分子が描かれており、右側には285 nmの光を照射した後の構造が示されている。炭素-酸素結合が切断されて、三つの環構造を持つ蛍光性の状態へと変化している。
波長285 nmの光を照射すると、一つの炭素-酸素結合が切断され、分子骨格が「開いた」状態へと変化する。この開環状態(B-OH)では分子が蛍光を発するため、構造が変化したことを容易に検出できる。この反応は波長325 nmの光を照射すると逆向きに進行し、分子は元の構造へと戻る。反応式左側の分子(DHB)は本質的キラリティーを持つ。互いに鏡像関係にある二つのエナンチオマーは、左円偏光と右円偏光の吸収差を測定する円二色性(CD)スペクトルにおいて、互いに反対のシグナルを示す。
© Hassan et al., Chemical Science, 2026, DOI 10.1039/d6sc04288k

本研究の責任著者であり、OISTパイ共役ポリマーユニットを率いるクリスティーヌ・ラスカム教授は次のように述べています。「光学技術やスマートマテリアル技術では、光やその他の外部刺激に応答する材料が求められています。新しい分子スイッチを設計し、それらの構造や性質がどのような仕組みで変化するのかを理解することで、本研究は多機能な光応答性材料の開発に向けた新たな知見を提供します。」

研究チームはさらに、環が開く反応の進行方向を制御できることも実証しました。出発分子に異なる置換基(側鎖)を導入することで、異なる生成物を選択的に得られることを示しています。

反応スキームと結合解離エネルギー(BDE)計算の結果が示されており、右側のインセットには生成物が検出された箇所を示す部分NMRスペクトルが掲載されている。
さまざまな開環反応の結果が示されている。出発構造に含まれる環の一つに導入する側鎖の位置を変えることで、どの結合が切断されるか、またどの生成物が形成されるかを制御できることを示した。
© Hassan et al., Chemical Science, 2026, DOI 10.1039/d6sc04288k

本研究は、OISTの複数の研究ユニットとコアファシリティのメンバーによる学際的な連携によって実現しました。筆頭著者であり、OISTパイ共役ポリマーユニットのファトヒ・ハサン博士は次のように語ります。「有機合成、計算化学、分光法、結晶学、そして高度な特性評価技術を組み合わせることで、この分子スイッチの構造や反応機構、特性について、より深く理解することができました。」

研究チームは今後、分子構造の改良によって収率の向上を図るとともに、こうした分子スイッチを高分子材料へ組み込み、新たな機能性材料の創出を目指します。

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