2025年のOISTの軌跡
成長の一年
2025年には、OIST史上最多の博士課程入学生を迎えました。また、卒業生は累計で200名に達しました。
さらに、数学から応用材料、エネルギー科学まで、幅広い分野で6名の新教授が着任しました。
ここでは、OISTが歩んだこの一年間の成長を振り返ります。
- 1月:新設された「Buribushiフェローシップ」の初の受賞者3名を発表。このフェローシップは、優れた研究者がテニュア獲得に向けた次の飛躍を支援する制度です。
- 2月:日本全国の大学から130名以上の研究者が署名したNature誌のオピニオン記事において、OISTのモデルが日本の研究の未来を切り拓く存在として紹介されました。
- 4月:「OIST Energy」を開設。持続可能性とエネルギーをテーマに、キャンパス全体で学際的な科学を推進する新たな枠組みが始動しました。
- 6月:「Innovation Core 1」と「Innovation Core 2」が完成。研究成果の社会実装に取り組む企業や新興企業向けのオフィス、共有設備、ラボスペースなどを備え、OISTと沖縄におけるイノベーション創出の新たな拠点となります。
- 8月:OISTが日本で初めて米国水中科学アカデミーの組織会員に認定され、海洋安全と科学倫理の分野における国際的な評価を確立しました。
- 9月:入学式では54名の博士課程新入生を迎え、1月入学生を含めた2025年度の入学者は60名となり、OIST史上最多となりました。
- 10月:海外研究者の日本での活躍を支援するJSTの「EXPERT-J」事業にOISTが採択されました。
- 11月:「OIST Sea neXus」を開設。既存の臨海研究施設マリン・サイエンス・ステーションを補完するもので、10の独立した実験室を備え、それぞれで環境条件を調整できる設計となっています。
大きな反響を呼んだ最先端研究
2025年、OISTの研究は世界中で注目を集め、ニュースやSNSを通じて広く発信されました。ここでは、今年特に大きな反響を呼んだ研究ハイライトを10件ご紹介します。
英語圏で注目された研究トップ5
- 島しょに生息するアリ群集に「終末」の兆し
The Guardian、 Smithsonian Magazine、日経などで紹介。生物多様性・複雑性ユニットが、島の生態系における生物多様性の脆弱性に注目しました。 - 遺伝子技術でサンゴを守る
NHK Worldのドキュメンタリーにおいて、マリンゲノミックスユニットが取り組む環境DNAの研究が取り上げられました。 - 脳内の化学反応からひもとく人類の進化の謎
ヒト進化ゲノミクスユニットと知覚と行動の神経科学ユニットが、人類進化におけるADSL酵素の重要性を明らかにし、この成果はCNN、The Washington Post、朝日新聞などで紹介されました。 - 菌類は、これまで考えられていたよりも数億年早く、陸上生命の舞台を整えていた
モデルベース進化ゲノミクスユニットが生命の起源に迫りました。沖縄のTVニュースから国際的なニュースまで、幅広いメディアで報道されました。 - 幼児の学習を再現する新しいAIモデル
認知脳ロボティクス研究ユニットが、幼児の学習プロセスを模倣するモデルを開発しました。この成果はArs TechnicaやAsian Scientistなどで紹介されました。
国内で注目された研究トップ5
- 極端気象の理解を深める新しい共同研究
NHK、日経、テレビ朝日、読売新聞などで報道。海洋生態物理学ユニット、NTT、気象研究所が、より高度な極端気象の予測を目指す共同研究を開始しました。 - 回転乱流のパラドックスを「実験室のハリケーン」で解決
流体力学ユニットが長年の謎を解決。この話題はOISTウェブサイトで今年最も読まれた記事となりました。 - クマノミがイソギンチャクに刺されない理由を解明
ナショナルジオグラフィック日本版や読売新聞などで紹介。計算行動神経科学ユニットと海洋生態進化発生生物学ユニットが長年の謎を解決しました。 - 数学的証明が「組み合わせ」の効果に新たな視点をもたらす
幾何学的偏微分方程式ユニットが重要な数学的不等式に関する新しい証明を発表しました。 - アオリイカから新種の寄生虫、サナダムシを発見 「イカチュウチュウ」の話題は世界中のアーティストの想像力を刺激し、SNSで大きな反響を呼びました。
沖縄のイノベーションエコシステムを強化
技術移転から起業家育成、産学連携まで―ここでは、OISTのイノベーションに関する注目すべき5つの成果をご紹介します。
- 経済同友会との関係強化:OISTは、経済同友会・沖縄経済同友会と第2回合同シンポジウムを共催しました。沖縄経済同友会は、OISTを世界の科学技術、そして沖縄と日本の発展を牽引する原動力として位置づける政策提言を発表しました。この提言では、OISTの規模拡大、日本国家の財政支援の確保、持続可能な財政基盤の構築が求められています。
- 世界中からディープテック起業家を誘致:2025年には、Strout、Tlaloc Blue、CancerFree、Perseptiveの4チームがOISTイノベーションアクセラレータプログラムに参加しました。2018年以降、このプログラムは19チームの事業構築と成長を支援しており、その中には今年シリーズBラウンドで26億3,000万円を調達したEF Polymerも含まれます。
- 特許出願と商業化の推進:12月1日時点で、OISTの専任チームによって16件の発明開示が提出され、研究者がイノベーションを市場に届けるための道が開かれました。
- Proof-of-Concept(POC)プログラムの進展:2025年には、将来有望な技術を検証するための資金とメンタリングを提供し、科学的発見の社会実装を加速するPOCプログラムに9件のプロジェクトが選ばれました。
- 産業界との連携強化:2025年には、企業との共同研究プロジェクトや委託研究プロジェクトが18件実施され、産業界とのパートナーシップをさらに拡大しました。
地域とともに未来を共創
この一年、OISTは教育から文化交流までアウトリーチ活動を拡大し、幅広いコミュニティとともに新しいアイデアを生み出し、未来を形づくる「共創ハブ」としての役割をさらに強化しました。
- 読谷村にOISTサイエンススタジオを開設:読谷村の新しい図書館内に、学外では初となる常設の科学体験スペース「OISTサイエンススタジオ」をオープンしました。
- 漁業者のウェルビーイングへの取り組み:地域コミュニティと協力し、気候変動と漁業者のウェルビーイングに焦点を当てた学際的研究を進めています。沖縄全域の漁業者から得た知見をもとに、漁業者、行政関係者、研究者を集めたワークショップを開催し、沖縄の漁業の未来と持続可能な社会生態システムを議論する新しい場を創出しました。
- 沖縄の農業を支える学生たち:iGEM沖縄チームは、沖縄のマンゴー農園を脅かす害虫を検出するDNAベースのシステムを開発しました。地元農家の協力を得たこのプロジェクトは、パリで開催されたiGEM大会でゴールドメダルを獲得しました。
- 伝統の知恵を未来へつなぐ:OISTの科学者は、地元の職人と協力し、沖縄の伝統的な織物「芭蕉布」と、その原料植物であるイトバショウを研究。通気性や柔軟性といった特性の科学的根拠を明らかにしました。このプロジェクトは沖縄の職人技を保存しながら、持続可能な繊維素材を探求し、伝統の知恵と最先端科学を結びつけています。
【番外編】
…「イカチュウチュウ」がSNSでバズりました。
OISTの科学者は、野生のアオリイカの胃や腸から2種の新しい寄生虫を発見し、命名しました。学名ではないものの、和名については、研究チームの一人が二人の娘の助けを借りて「イカチュウチュウ」という名前を考案。新種のサナダムシの特徴を絶妙に表現したこの名前はX上で大きな話題となり、アート作品、限定ビール、さらには専用の楽曲まで生み出されることに。
…OIST研究者のトレーディングカードがあることをご存知でしたか?
OISTのCOI-NEXTプロジェクトに参加する17名の研究者とその研究テーマを紹介するトレーディングカードを制作しました。科学を楽しく、身近に感じてもらうことが目的で、限定配布されました。
…サンゴの死滅をくい止めるには氷が何個必要でしょうか?
大阪・関西万博での展示では、「科学の質問コンテスト」を実施しました。合計で164の質問が寄せられました。「なぜ自然を見ると泣きたくなるの?」から「海の水はなくなることがあるの?」まで、多彩な問いが投げかけられました。選ばれた質問にはOISTの研究者がInstagramで回答しましたので、ぜひチェックしてみてください。