NTTとOIST 線状降水帯・台風の発生メカニズム解明に向け気象研究所との共同研究を開始

海域での観測データを収集・活用し、極端気象の予測精度向上をめざす

発表のポイント

  • 線状降水帯や台風に伴う豪雨などの顕著現象の実態把握、メカニズム解明に向け、極端気象の発生・発達過程における海洋の役割を明らかにするため、海洋における台風観測技術・実績を有するNTTとOISTは、極端気象の知見を有する気象研究所と共同研究契約を締結しました。 
  • 現状の気象衛星によるリモートセンシングだけでは捉えることが難しい台風直下や線状降水帯の発生・発達に関わる海上気象や海洋表層のデータを直接収集し、大気海洋機構の解明に向けた観測研究を開始します。 
  • 海洋国家である日本に不可欠な超広域な大気海洋観測プラットフォームの実現を通じて、極端気象予測の精度向上への貢献をめざします。

日本電信電話株式会社(本社:東京都千代田区、代表取締役社長:島田 明、以下「NTT」)と沖縄科学技術大学院大学(本部:沖縄県国頭郡恩納村、学長兼理事長 カリン・マルキデス、以下「OIST」)は、気象庁気象研究所(茨城県つくば市、以下「気象研究所」)と線状降水帯・台風等の極端気象に関わる大気海洋機構解明のための大気海洋観測の共同研究契約を締結しました。

本共同研究では、線状降水帯や台風等の極端気象の発生・発達メカニズムを明らかにするため、線状降水帯・台風等の極端気象が発生する出水期※1に台風域等の海上気象や海洋表層の観測データを収集できるように調整した自律航行が可能な無人海上観測器※2や観測ブイ※3を用いて現場観測を実施します。また、収集した観測データを活用することにより、線状降水帯・台風等の極端気象に関わる大気海洋機構の解明に貢献します。

OIST Markides and NTT Kawazoe
(左) OIST 学長兼理事長 カリン・マルキデス、(右) NTT 代表取締役副社長 川添雄彦
(左) OIST 学長兼理事長 カリン・マルキデス、(右) NTT 代表取締役副社長 川添雄彦

1.背景

近年は極端化する台風や大雨など、これまでに経験したことのない大気現象が私たちの社会に大きな影響を与えています。このような極端気象がもたらす災害から人々の生命や暮らしを守ることが、重要な社会課題であることは言うまでもありません。NTTでは、台風などの極端気象を高精度に予測し、事前に適切な対応をすることで、自然災害が社会に与える影響を最小限に抑え、逆に適切な事前行動を行うことにより、新たな経済効果を生み出すことを目標に研究を行っています。

これまでは気象衛星の発展により、気象予測精度も向上してきました。しかし更なる予測精度向上をめざす上で、現状の気象衛星のみでは捉えることが難しい海上気象および海洋表層における観測データを直接収集し、線状降水帯や台風の発生・発達過程に重要である大気海洋機構を解明することが求められています。

NTTとOISTは、極端気象予測の精度向上に向けた台風直下等の海域における大気海洋観測手法の高度化をテーマに、2021年度から共同研究を実施しています。台風の予測精度向上に向け、沖縄近海において、海上気象や海洋表層の観測データを直接収集する技術の研究開発を推進し、実績を積み重ねてきました※4

また気象研究所では、線状降水帯や台風に伴う豪雨などの顕著現象の実態把握やメカニズムを解明するため、2025年5月下旬から10月にかけて、大気と海洋の双方をターゲットとした集中観測を実施することとしています※5

2.取り組みの内容

本共同研究では、海洋における台風の観測技術に関わる知見と観測実績を有するNTTとOISTが、極端気象に関わる知見を有する気象研究所と連携し、共同で線状降水帯・台風等の観測データを直接収集し、得られた観測データを活用した大気海洋機構の解明に貢献していきます。 具体的な取り組み内容は以下の通りです。

①台風域等の海上気象や海洋表層に関わる観測データの収集

  • 出水期(6月~9月頃)における海域の大気や海洋表層に関わる大気海洋観測データの直接収集
  • 各研究機関が保有する無人海上観測器や観測ブイ等の観測装置を南西諸島海域に投入し、線状降水帯・台風の分析に必要な観測データ(気圧、気温、湿度など)の取得
  • NTTの通信技術、IoTセンシング技術の活用による海域での超広域な観測データの収集

②線状降水帯・台風等の極端現象に関わる大気海洋機構の解明

  • 海表面観測データ基礎分析
  • 海表面観測データによる大気海洋相互作用分析
  • 洋上大気観測データと海表面観測データによる大気海洋相互作用分析
取り組みイメージ
取り組みイメージ
取り組みイメージ

線状降水帯・台風やそれに伴う顕著現象の実態把握・メカニズム解明のためには、データの乏しい海洋上における大気下層の水蒸気や海水温などを直接観測することにより、顕著現象に対する海洋の役割を理解することが鍵となります。線状降水帯や台風に伴う顕著現象の形態は極めて多様で、発生場所や要因、台風の経路などが事例ごとに異なるため、多数事例での観測データの収集と分析が必要となります。そのため、2025年度から4年間にわたって観測研究を実施し、各年次において段階的に観測領域と解析対象を拡張していく計画です。

まず、2025~2026年度は、「線状降水帯・台風 海表面観測実証」とし、自律航行が可能な無人海上観測器や観測ブイを駆使し、観測データを収集します。 続いて、2027年度以降は、線状降水帯・台風の観測対象を海表面から洋上大気(海面〜対流圏下層)にまで拡張し、「線状降水帯・台風 洋上大気観測実証」とし、大気観測センサなどを併用し、観測データを収集します。

大気海洋機構の解明に関しても、段階的に分析を進め、予測技術向上のための研究を促進します。

スケジュール
スケジュール
スケジュール

3.今後の展開

共同研究を通じ、NTTとOISTは気象研究所と連携して線状降水帯や台風等の極端気象の発生・発達過程を明らかにするため、海域における海上気象や海洋表層の直接観測データを収集し、観測データを活用することにより、大気海洋機構の解明に貢献します。また、共同研究の実施を通じて、線状降水帯や台風等の予測精度向上につなげ、防災情報が高度化した社会の実現を、めざします。

NTTでは、共同研究を通じ、気象研究所との連携を強め、超広域な大気海洋観測プラットフォームの実現を通じて、収集した観測データを活用することにより、線状降水帯・台風等の極端気象の予測精度向上へ貢献するとともに、大気海洋機構の解明と学術的な発展にも貢献していきます。

将来的には、衛星IoT、HAPSを活用した地球規模での大気海洋IoTセンシング基盤※6の研究を促進し、海洋国家である日本に不可欠な海洋観測プラットフォームの実現をめざしていきます。 また、地球規模の観測データとシミュレーションを組み合わせ、高精度な極端気象予測のユースケースに応じた活用技術の研究開発※7を進めます。

【用語解説】

※1.出水期   河川において降雨や融雪などの影響で水位が上昇しやすい時期
※2.Wave Glider(Liquid Robotics社) https://www.liquid-robotics.com/wave-glider/how-it-works/
※3.Spotter Platform (SOFAR社) https://www.sofarocean.com/products/spotter
※4.2023年5月23日「世界初、NTTとOISTが北西太平洋で、カテゴリ5の猛烈な台風直下の大気・海洋の同時観測に成功」  https://group.ntt/jp/newsrelease/2023/05/23/230523a.html
※5.令和7年度 気象研究所報道発表資料  https://www.mri-jma.go.jp/Topics/R07/070528/070528_press.html
※6.超広域大気海洋観測技術(NTT宇宙環境エネルギー研究所) https://www.rd.ntt/se/technology/iot_satellite.html
※7.極端気象予測技術(NTT宇宙環境エネルギー研究所) https://www.rd.ntt/se/technology/weather_forecast.html

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