アリはどう動き回るのか? 物理学で迫る探索の仕組み

個々のアリの移動を再現・予測するモデルを開発。都市環境におけるアリの行動解明に新たな道筋。

アリは地球上で最も多様性に富んだ動物群の一つです。その種の豊富さについては哺乳類をはるかに上回っています。さらに、多くの種が他の動物には見られないような驚くべき身体能力や社会行動を示します。種中には、自らの体重の100倍もの重さを運んだり、巣から数百メートル離れた場所まで餌を探しに行ったりする種もいます。これは人間に例えると、数千キログラムの荷物を担いだり数百キロメートル歩くようなものです。こうした驚異的な能力に着目し、研究者たちは、それを可能にする体の構造だけでなく、アリがそれらの能力をどのように生かして採餌や探索を行うのかについても研究してきました。沖縄科学技術大学院大学(OIST)の研究チームは、実験室内で個々のアリの動きを記録することで、アリがどのように環境内を移動するのかを説明する物理学に基づくモデルを構築しました。この研究成果は学術誌『PLOS Computational Biology』に掲載されました。 

動物の運動は長年にわたり科学者たちの関心を集めてきましたが、物理学者がこの分野の研究に本格的に取り組むようになったのはここ数十年のことです。OIST非線形・非平衡物理学ユニットの博士課程学生であるジャック・フェザストーンさんは次のように説明します。「生命は、最も興味深い謎の一つであり、その複雑さは量子力学や天体物理学が扱う極限的な現象にも匹敵します。近年、物理学者たちは、もともと無生物を対象として発展してきたさまざまな定量的手法を応用して、動物がなぜそのような行動をとるのかを解明しようとしています。」 

アリを採集するために向かったのは、意外にも駐車場 

動物行動の研究は通常、生きた個体を観察し、その行動に関する定量的なデータを集めることから始まります。OISTの研究チームが対象としたのは、侵略性の高い外来種として知られるアシナガキアリ(A. gracilipes)です。世界各地に分布を広げるこのアリは、都市部への定着も進んでおり、人為的な環境の中でどのように移動し、探索するのかを理解することがますます重要になっています。 

沖縄では広く見られるアリであるため、研究チームはアリの採集にほとんど苦労しませんでした。キャンパス周辺の駐車場や歩道、休憩スペースなどで採集した100匹以上のアリを実験室内のアリーナに1匹ずつ入れ、新たな環境をどのように探索するのかを記録しました。研究チームは、アリが単独でどのように行動するのかを理解することの重要性を強調していますが、この視点はしばしば見過ごされがちです。 

「アリはフェロモンや高度なコミュニケーションシステムによる集団行動で有名ですが、その集団行動は、1匹1匹のアリの移動によって成り立っています」とフェザストーンさんは話します。 

沖縄県内の駐車場で、コンクリート構造物の周辺を歩き回りながら餌を探すアシナガキアリ。
© ジャック・フェザストーン

実験後、研究チームはニューラルネットワークを用いてアリの動画を解析しました。このネットワークは、探索中のアリの体の各部位の位置を追跡し、研究チームが定量的に解析できる移動軌跡データを生成しました。 

研究者が実験室内のアリーナにアシナガキアリを1匹ずつ置き、カメラを用いて探索行動や移動パターンを記録する様子。
© ジャック・フェザストーン
研究者がニューラルネットワークを用いて、アリーナを探索するアリ1匹ごとの位置を追跡する様子。
© ジャック・フェザストーン

ランダム性を取り入れた物理モデルで動物行動を読み解く 

研究チームは、アリの行動データを理解しモデル化する鍵が、「確率論的モデリング」と呼ばれるアプローチにあることを突き止めました。小さな粒子の拡散運動を理解する上で重要な役割を果たしたこの手法は、個々の不規則な動きから系全体の振る舞いを構築します。 

「動物の行動は、脳内の個々のニューロンの状態から、気候環境、さらには朝何を食べたかに至るまで、膨大な数の要因に左右されます。関係しそうな要因をすべて測定することは不可能です。その代わりに、確率論的なアプローチを用いることで、細かな要素にとらわれることなく、包括的に行動を理解することができます」とフェザストーンさんは話します。 

研究チームが提案したモデルは、細菌の運動や拡散過程を研究する際によく用いられる複数の手法を組み合わせたもので、実験で得られた移動軌跡データの特徴を再現することができます。また、このモデルを用いることで、アリが新たな環境でどのように行動するのかを予測することも可能です。研究チームは今後、このモデルを活用して、アリが捕食者あるいは被食者として他の生物とどのように関わりを持つのかを調べたいと考えています。 

今回の研究は、アリの探索行動をこれまでで最も厳密に記述した研究の一つであり、アリらしい移動パターンをシミュレーションできる点も特徴です。食物や水、捕食者、障害物といった外部刺激によって、本研究で示された基準的な行動パターンからどのように変化するかを調べれば、移動行動がアリの生活のさまざまな側面とどのように関わっているのかを理解する助けとなります。さらにこの手法はアリにとどまらず、様々な動物の移動や採餌、探索行動の研究にも応用できると期待されています。 

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