2026年10月19日
訃報:OISTマリンゲノミックスユニット教授 佐藤矩行博士
沖縄科学技術大学院大学(OIST)は、OISTマリンゲノミックスユニットを率いた佐藤矩行教授の訃報に接し、謹んで哀悼の意を表します。佐藤教授は10月18日に逝去されました。81歳でした。
佐藤教授は2008年、開学前のOIST(当時、沖縄科学技術研究基盤整備機構)に着任しました。当時の理事長シドニー・ブレナー博士が導入した次世代シーケンサーをいち早く研究に取り入れ、海洋生物のゲノム情報から、その進化の歴史や生物どうしの関係を読み解くなど、生物全体についての理解を深める研究を精力的に進めました。
それまで、脊索動物のホヤをモデル生物として、動物の体がつくられる仕組みと進化の関係を研究してきた佐藤教授ですが、OISTでは対象を多様な海洋生物へと広げ、主要な動物群のゲノムを比較することで、それぞれの系統がどのように生まれ、多様化してきたのかを明らかにしようとしました。アジアナマズ、ギボシムシ、シャミセンガイ、ヒモムシ、ホウキムシ、ニハイチュウ、ヒトデなどのゲノムを解析し、動物進化をたどるための重要な基盤情報を蓄積しました。さらに、アコヤガイ、クルマエビ、モズク、ウミブドウなど、水産業上重要な生物のゲノム解読にも取り組み、水産業の生産性・持続可能性・環境保全などにおけるゲノム科学の応用の可能性を開きました。
なかでも、2011年に造礁サンゴの一種、コユビミドリイシの全ゲノムを世界で初めて解読した成果は、サンゴ礁研究に新たな基盤をもたらしました。佐藤教授はその後、サンゴへの理解をさらに深めるため、研究を多方面に展開。サンゴと共生する褐虫藻や、サンゴを捕食するオニヒトデなどのゲノム解読プロジェクトを率いたほか、遺伝的な色の違いがサンゴの温暖化への耐性を示すことを示しました。また、サンゴの細胞を研究室内で培養し、共生藻である褐虫藻を取り込む瞬間を捉えることにも成功しました。こうした研究を通じて、サンゴ礁を形づくる生物どうしの相互作用を、遺伝子、細胞、個体、生態系という複数の階層から解明しようとしました。さらに、海水中に含まれる生物由来の微量なDNAを分析し、そこに生息するサンゴの種類を特定する環境DNA技術を確立しました。これにより、従来はダイバーが潜水して目視で行っていたサンゴ礁のモニタリングを、少量の海水から効率的かつ高精度に行える可能性を示しました。こうした知見を保全に生かすため、「OISTサンゴプロジェクト」も立ち上げました。企業や個人の支援を受けながら、サンゴの植え付けや沖縄近海に生息するサンゴの種の同定を進めるとともに、サンゴ礁に対する社会の理解を深める活動にも力を注ぎました。
私たちは、佐藤教授という、卓越した研究者であり大切な同僚を失ったことに深い悲しみを覚えています。佐藤教授が生涯を通じて示された基礎研究への真摯な姿勢、若手研究者を温かく支える包容力、そして次世代の研究者の育成に注がれた情熱は、OISTにとってかけがえのない財産です。残された私たちは、その精神を受け継ぎ、国際的に卓越した教育研究をさらに発展させていくことを目指します。佐藤教授の功績を称え、ダニエル・ザイフマン臨時学長は次のように述べました。「佐藤教授のご逝去に接し、深い悲しみを感じています。佐藤教授は卓越した科学者であり、その多大な功績は、これからも長く人々の記憶に残り、深い敬意とともに語り継がれていくことでしょう。ご遺族の皆様に心よりお悔やみ申し上げます。」
佐藤教授は、1994年から2009年まで京都大学大学院理学研究科動物学教室の教授を務めました。2005年には、動物の進化発生学に大きく貢献した研究者に贈られる国際賞「アレキサンダー・コワレフスキー・メダル」を、2010年には発生生物学分野の国際賞「エドウィン・コンクリン・メダル」を、いずれも日本人研究者として初めて受賞しました。また、2006年に紫綬褒章、2018年に瑞宝中綬章を受章しました。
佐藤教授の率いたマリンゲノミックスユニットの研究成果については、こちらからご覧いただけます。