2019-08-26

DNAの成長過程をリアルタイムでモニタリングする新型バイオセンサー

     DNAシーケンシングは医療に欠かせないテクノロジーですが、結果が出るまでに時間がかかるという技術的な課題があります。沖縄科学技術大学院大学(OIST)はDNAと酵素が相互作用する様子をリアルタイムでモニタリングする技術を異分野間の研究者らによる共同研究で開発することに成功しました。今後DNAシーケンシングへの応用が期待されます。

     研究チームがBiosensors and Bioelectronics誌に掲載した論文では、マイクロ流路チップと光センシング技術を用いてリアルタイムで化学反応の進行状況を表示できる、実証用のバイオセンサーについて説明しています。チップ上で化学反応が起こると光センサーが感知します。この光センサーを用いると標識を使う必要がなくなるため時間を短縮できます。一方,この小さなチップは従来のバイオセンサーと比較して高い感度も有します。

     「マイクロ流体力学、DNAと酵素、ナノ製造の各分野の研究者たちの協力によって、このバイオセンサーを開発することができました。このような異分野間の学際的な連携が可能だったのはOISTならではのことです。」とOISTマイクロ・バイオ・ナノ流体ユニットのポストドクトラルスカラーであり、本論文著者のニキル・バーラ博士は話します。

     「今後は、チップの感度やスループットの向上に取り組み、バイオテクノロジー分野での応用の可能性を探りたいと考えています。」

小型のプラスチック製チップに試料を流し込んだ際に起きる化学反応をチップの上方に設置した光センサーで感知し、リアルタイムで結果を読み取る。

「ラボ・オン・チップ」シーケンシング

     DNAと酵素がどのように反応するのかを理解できれば、反応によりできた生成物を単に評価して得られる情報と比較して,より詳細で有益な情報を得ることができます。しかし最近まで、化学反応中の相互作用の観察は標識を使用する手法に頼っていました。標識を用いると時間がかかり、また観察対象の化合物を傷つけてしまうこともあります。

     局所表面プラズモン共鳴(LSPR)は、ラベルフリー(非標識)の検出技術で、標識化合物の代わりに光センシングを用います。小型のセンサー装置は反応物に光を照射し、化学反応に伴って変化(シフト)する吸光度を検知します。このセンサー装置で読み取られた結果はリアルタイムでスクリーンに表示されます。

     研究チームはこのLSPRとマイクロ流体力学を組み合わせて、LSPR装置に取り付けた小型のプラスチックチップ上に反応物をセットしました。本研究では、この装置の実用性をDNAの複製実験で試しました。DNA複製は、細胞分裂のたびにDNAのコピーを作成する重要な反応です。チップ上には無数のキノコ型構造が配列した領域があり、そこに反応物(この場合はDNA)が付着します.その間も酵素は作用しています。

     酵素がDNAに結合してコピーを合成すると、装置は吸光度の変化を検出します。この吸光度の変化は化学反応が起こっていることを意味します。実験結果は、装置に取り付けられたスクリーン上に、バイオセンサーの読み出し情報としてリアルタイムに表示されます。

DNA、酵素、その他DNA複製に必要な化合物を一つの液体の中に溶かし、プラスチックのチップ上に流し込む(「fluid in」)。チップ上でDNA(「基質(substrate)))がキノコ型ナノ構造に付着、同時に化学反応が起こる。反応に伴う吸光度の変化をセンサーが検知し、結果がスクリーンに伝送される。

     結果をリアルタイムでその場で表示できる感度の高いセンサー装置が利用できることは、様々な状況で大変有益なことです。本研究で開発したような「ラボ・オン・チップ」デバイスは、特に患者の疾患に関する遺伝的リスクを診断する際に役立ちます。患者の試料を特定の実験施設に送り、結果を何週間も待つことなく、迅速かつ正確な遺伝子検査を患者の前で行い、即座に意思決定を行うことが可能になるのです。

     患者の診断だけでなく、臨床、薬学、科学研究および法科学の分野においても、迅速かつ操作が簡単な診断機器が求められています。OISTの研究チームが開発したバイオセンサーは、リアルタイムモニタリング技術の現状と今後の可能性を示しています。将来的には、この技術をDNA複製だけでなく、DNAシーケンシングなど他のプロセスに応用できるかもしれません。

     今後、研究チームは、チップ上の反応物の割合を最適化し、装置の感度の向上に取り組みます。また、温度制御などの機能も追加する予定です。これらの改善は、チームが同時並行で進めている臨床現場即時検査(POCT)の研究の助けにもなり、患者と医療従事者に新たな恩恵をもたらすかもしれません。

     本論文は、沖縄科学技術大学院大学(OIST)とドイツのカールスルーエ工科大学(KIT)の共著論文です。