取り組んでいる課題
頭足類は世界的に重要な食料資源であり、その需要は増加を続けています。一方、乱獲や環境変化の影響により、天然資源量は減少しています。しかし、数十年にわたる取り組みにもかかわらず、大規模化が可能で、経済的にも成り立つ頭足類の養殖はいまだ実現していません。
現在の頭足類養殖では、餌にかかるコストが非常に高く、多くの人手を必要とするため、商業化が困難です。特に幼体期の頭足類は生餌しか食べないため、餌の確保にコストがかかるだけでなく、栄養価や入手しやすさにもばらつきがあります。また、寄生虫や微生物による汚染を通じて病原体が持ち込まれるリスクもあります。
また、頭足類の飼育には、継続的なモニタリングや手作業による給餌など、人による頻繁な対応が必要で、多くの労力を要します。こうした制約により、既存の飼育システムを商業生産に必要な規模まで拡大し、採算の取れるコストで運用することが困難となっています。
図1. OISTマリンサイエンスステーションで産卵されたアオリイカ(Sepioteuthis lessoniana)の卵
私たちの解決策
私たちのチームは、頭足類の行動、神経科学、飼育に関する長年の研究で得られた知見を生かし、商業化を見据えた新たな飼育システムの開発に取り組んでいます。その中心となるのが、3つのアプローチです。コストを削減し、大規模な養殖を実現するためには、既存の手法を少しずつ改善するのではなく、飼育システム全体を根本から見直す必要があります。
1つ目は、人工飼料や配合飼料の開発です。これにより、コストを大幅に削減し、安定した栄養を供給するとともに、病原体が持ち込まれるリスクを低減します。2つ目は、給餌、排泄物の除去、日常的な飼育作業の自動化です。人件費を抑えながら、安定した飼育環境を維持し、動物福祉の向上を図ります。3つ目は、高度なろ過、消毒、隔離の仕組みを備えた閉鎖循環式陸上養殖システム(RAS)の活用です。これにより、バイオセキュリティを確保し、飼育環境を適切に管理します。
これらを組み合わせることで、これまで人の経験や技術に大きく依存していた研究レベルの飼育から、大規模化が可能で、持続可能かつバイオセキュリティにも配慮した頭足類養殖への移行を目指します。
図2. 生餌から人工・配合飼料への切り替えを進めているイカの幼体