スピンを用いた極低温マイクロ波量子デバイス

取り組んでいる課題

量子コンピュータの研究開発の著しい進展は、Google、IBM、Microsoft、Amazon、 Alibabaなどの大手IT企業からの投資を引き寄せています。超伝導体または半導体 ベースのハードウェア・システムは、特に拡張性の点で優位なプラットフォームです。重要な のは、これらのシステムは希釈冷凍機と呼ばれる特別な冷凍機内のミリケルビン温度 環境下においてマイクロ波周波数で動作することです。ミリケルビン温度で、ノイズを重 畳することなくマイクロ波信号を増幅することは、量子コンピューティングや関連技術にと って不可欠な基幹技術のひとつです。ただし、現行の最先端デバイスである超伝導ジョ セフソン・パラメトリック増幅器は、飽和入力が約0.1ピコワットと限られており、さらには 10ミリテスラ程度の静磁場下でも動作を停止してしまいます。

POC project (Kubo - 58): Figure 1
図1.ミリケルビンでのメーザー増幅の最初のデモンス トレーション。(a)セットアップ概略図、(b)得られた利 得(約36 dB)

私たちの解決策

マイクロ波共振器に配置されたダイヤモンド結晶中の常磁性不純物スピンを使用し て、最初のコンセプト実証実験に成功しました(図1参照)。しかし、共振器のためこ の増幅器の帯域幅が狭く(約100キロヘルツ)、メーザー増幅の利得-帯域幅積が制 限されます。この帯域幅の問題を緩和するため、今回のPOCプロジェクトでは、進行波 形状のスピン・メーザー装置の実現を目指し(図2参照)、これは圧倒的な性能(ギ ガヘルツ程度の帯域幅で100以上のパワーゲイン、マイクロワット以上の飽和入力) が見込まれます。この新技術は、特に量子ビットの集積や検出回路の設計において、 極低温マイクロ波量子技術におけるパラダイムシフトにつながる可能性があります。さら に、メーザー増幅器は、電子スピン共鳴などの磁気共鳴分光器の初段増幅器として実 装され、検出感度が大幅に向上することが期待されます。

POC Project (Kubo - 58): Figure 2
図2.進行波メーザー増幅の模式図。広帯域の2 次元マイクロ波導波管がスピンと相互作用する