マイクロ波量子技術のためのスピンを用いた超低ノイズ増幅器

取り組んでいる課題

マイクロ波周波数で動作し、ミリケルビン温度環境下にある量子コンピューティングハードウェアシステム、例えば超伝導体や半導体のシステムでは、雑音を加えずにマイクロ波信号を増幅する必要があります。超低雑音のマイクロ波増幅器は大規模な量子コンピューティング技術の開発に不可欠です。しかし、現在最高水準の超伝導ジョセフソンパラメトリック増幅器は、量子コンピューターがさらに大規模化するにつれ、近い将来、飽和電力の限界に直面する可能性があります。さらに、これらの増幅器は静的な磁場下で動作しなくなるため、ミリケルビン温度での超高感度磁気共鳴分光などの他の応用にも障害となる可能性があります。

POC Project (68 - Kubo): figure 1
図1. 希釈冷凍機に取り付けられたテストデバイス。このデバイスは約10ミリケルビン(約マイナス273℃)まで冷却される。

私たちの解決策

現行技術の限界を克服するため、私たちは宝石結晶中の不純物スピンの誘導放出を利用した新しい極低温超低ノイズ増幅器の開発に取り組んでいます。この増幅原理はレーザーと同じ原理であり,マイクロ波周波数帯ではメーザーと呼ばれています。私たちの解決策は、大幅な広帯域化を可能にするする進行波型メーザー装置を実現することであり、既存の超伝導ジョセフソンパラメトリック増幅器と比べて、何桁も大きな飽和電力を実現することができます。この方式において、約1GHzの帯域幅と1マイクロワット以上の飽和電力で100倍を超える電力利得を目指しています。そして特に量子ビットの集積やセンサー回路設計において、超伝導マイクロ波量子技術のパラダイムシフトをもたらす可能性があります。さらに、このメーザー増幅器は、電子スピン共鳴などの磁気共鳴分光計の初段の増幅器として実装でき、検出感度を大幅に向上させる可能性もあります。

POC project (68 - Kubo): figure 2
図2. 試作した進行波型メーザー増幅器。広帯域超伝導導波管の上にルビー結晶が置かれている。