2026年9月1日
多機能ファイバー中に「ねじれた」三次元マイクロ流路
【発表のポイント】
- 回転型熱延伸技術(注 1) を用いて、「ねじれ型」三次元マイクロ流路を多 機能ファイバー内部に連続的に形成することに成功しました。
- 高い混合効率と低圧力損失を両立するマイクロミキサー(注 2) を実現し、 その性能を数値シミュレーションと実験で実証しました。
- 「ねじれ」構造が生み出す旋回流と 、「螺旋」の遠心力が生み出す渦によ り、 混合が大幅に促進されることを解明しました。
【概要】
髪の毛ほどの細さの流路で微量の液体を精密に操作する「マイクロ流体デバイス」は、生命科学、化学、材料工学、医療診断など幅広い分野で注目されて います。 なかでもマイクロミキサーは、複数の試薬を迅速かつ均一に混合する重要な構成要素です。しかし、マイクロ流路内では液体が層流(注 3)として流れるため自然には混ざりにくく、高効率な混合には複雑な流れを生み出す三次元 構造が必要です。一方、従来技術では三次元マイクロ流路の作製が難しく、量 産性、形状設計の自由度、他の機能との統合が大きな課題となっていました。
東北大学学際科学フロンティア研究所・大学院医工学研究科の郭媛元准教授と工学部電気情報物理工学科の加藤駿典学部生(研究当時・ 学際科学フロンテ ィア研究所ジュニアリサーチャー)を中心とした、沖縄科学技術大学院大学、フランスINSA Lyonとの国際共同研究チームは、この課題を解決するために、 回転型熱延伸技術を用いて、「ねじれ型」三次元ファイバーマイクロミキサーの開発に成功しました。 開発したマイクロミキサーは、75 %以上の高い混合効率と低圧力損失を両立し、その優れた性能を数値シミュレーションと実験の 両面から実証しました。本研究成果は、学術誌 ACS Applied Materials & Interfaces に2026年8月31日付で掲載されました。
研究の背景
マイクロ流体デバイスは、液体をマイクロリットル(1リットルの100万分の1)スケールで操作することを可能とし、生命科学、化学、材料科学など多岐に渡る分野で利用されています。マイクロミキサーはその主要な構成要素であり、試薬の高速かつ均質な混合を担います。マイクロ流路内部の流れは極めて穏やかであるため、二種類の液体の混合は遅い分子拡散に支配されます。 そ のため、流路の形状を工夫することで、 混合に適した流れを形成する必要があ ります。従来のマイクロミキサーの多くは、 平らな面に微細な模様や構造を作り込む製造技術により作成されます。螺旋型のマイクロミキサーは従来型の代表例であり、遠心力に起因するディーン渦(注 4)を利用して混合を促進します。しかし、遠心力が弱い低レイノルズ数(注 5)の領域では、混合効率が低いという課題が存在します。三次元のマイクロミキサーは、形状の複雑さから幅広い流速で高い混合効率を示すことが期待されていますが、製造手法が限られており、形状の自由度や量産性、他システムとの統合において課題を抱えています。
今回の取り組み
本研究では、これらの課題を解決するために、「回転熱延伸技術(rTDP)」を活用して、ポリマー製のファイバーの内部に「ねじれ型」のマイクロ流路を製 造する手法を開発しました(図 1A) 。X線CTや光学顕微鏡による断面観察で、流路が高い精度で形成されていることを確認しました(図 1B) 。
「ねじれ型」のマイクロ流路は、三次元のマイクロミキサーの 1 つとして高 い混合効率を示すことが知られており、断面の回転により形成される旋回流が、 低レイノルズ数の領域でも混合を促進します。さらに、流路の配置を工夫する ことで、「ねじれ」と「螺旋」の両方を備えたマイクロ流路を製造することが 可能です(図1C) 。この場合、中〜高レイノルズ数の領域では、「螺旋」に起因 するディーン渦による混合効果を利用することができ、幅広いレイノルズ数で 高い混合効率を示します。
T字型の注入口を備えたデバイスを作成し(図 2)、数値シミュレーションと 実験の両面から評価したところ、1~30のレイノルズ領域において75%を超える混合効率を、大きな圧力損失を伴わずに達成しました。
今後の展開
今後は、流路の設計パラメータを最適化することで、混合効率の向上をめざ します。加えて、ファイバーの柔軟性を利用して、ファイバーそのものを螺 旋・蛇行・織り構造に配置することで、ファイバー内部のねじれ構造と外部の 立体構造を組み合わせた階層的な混合強化の可能性を探ります。 熱延伸法は電極や光導波路、流路、化学センサーを一本のファイバーに集積できる多機能な技術です。将来的にバイオ分析や化学合成、環境モニタリング などを、小さな空間の中で連続的に実行できる新たなプラットフォームの創出をめざします。
A)延伸中に回転を加えることで、ねじれパターンを生成する。
B)マイクロ流路は製造誤差が小さい。また、ファイバーは高い伸縮性を持つ。
C)「ねじれ」により旋回流が、「螺旋」によりディーン渦が発生する。
A)デバイスは混合が進まない直線領域と混合が進むねじれ領域を備えており、各領域の末端を撮影した画像から、混合効率を計算した。
B)直線では混合が進まない一方、「ねじれ+螺旋」では混合が進む様子が数値シミュレーションにより確認された。
謝辞
本研究は 、 国立研究開発法人科学技術振興機構(JST)FOREST(JPMJFR205D)および公益財団法人三菱財団 自然科学研究助成の支援を受けて実施されました。また、本共同研究は、OIST × J-PEAKS「研究卓越・イノベ ーション創出・地域貢献」プログラムの一環として実施されました。本論文のオープンアクセス掲載にあたっては、東北大学 2026年度オープンアクセス推進のためのAPC支援事業の支援を受けました。また、共著者のDanessia Zan氏(Georgia Institute of Technology, USA)は 、公益財団法人中谷財団(Nakatani RIES)の支援を受けて東北大学学際科学フロンティア研究所・郭 研究室に滞在し、本研究を推進しました。
用語説明
注1. 回転型熱延伸技術: 材料を加熱して柔らかくした状態で引き伸ばすことで、センチメートルサ イズの材料を、設計した断面構造を保ったまま、マイクロメートルからナ ノメートルサイズまで細く加工できる製造技術。もともとは光ファイバー製造に用いられてきたが、近年では電極やセンサー、流路など複数の機能を一本の柔軟なファイバー内に集積できる技術として発展してきた。本研究では、延伸中にプリフォームを回転させる「回転型熱延伸技術」を用いることで、ファイバー内部にねじれた三次元マイクロ流路を連続的に形成した。
注2. マイクロミキサー: 数マイクロメートルから数百マイクロメートルの極小な流路(マイクロ空 間)を利用し、液体や気体を瞬時にかつ均一に混合・反応させるための装置。マイクロメートルは、1 ミリメートルの1000分の1の大きさ 。
注3. 層流: 流体が乱れることなく、規則正しく整った状態で流れる流れ方。流体の各 部分が互いに混ざり合わず、層状に並んで滑らかに進むのが特徴で、レイノルズ数が小さいときに現れる。
注4. ディーン渦: 曲がった流路を液体が流れる際に、遠心力の働きによって断面内に生じる一対の渦状の二次流れ。流れの主方向に対して垂直な面内で互いに逆向きに回転する渦が形成され、流路内での物質の混合に影響を与える。
注5. レイノルズ数: 流体の流れにおける慣性力と粘性力の比を表す無次元数。この値が小さいときは流れが規則正しい層流となり、大きくなると乱れた乱流へと移り変わる。
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