大規模量子コンピューティングに向けたイオントラップと共振器の開発
取り組んでいる課題
トラップ型イオンを用いた量子コンピュータは、従来型コンピュータでは解くことが極めて困難な問題に取り組むための、最も有望なプラットフォームの一つです。しかし、大きな課題となっているのが拡張性(スケーラビリティ)です。現在のイオントラップシステムで扱えるイオンは数十個程度ですが、実用的な量子計算には数百万個のイオンが必要です。研究者は実際の実験を始める前に、専用のイオントラップや小型光共振器(キャビティ)の設計・製作に1年以上を費やす必要があり、本来の研究に充てる時間やリソースが奪われています。
大学・研究機関と産業界の双方のニーズに対応できる商用イオントラップは容易に入手できず、既存の製品も大型で高価であったり、設計上の根本的な制約があったりします。イオントラップの拡張性という課題を克服することは、量子コンピューティング、量子通信、精密計測の進歩を加速し、量子技術を広く普及させるために不可欠です。
私たちの解決策
本プロジェクトでは、イオントラップの拡張性という課題を解決するため、相互に補完する2つの技術、「バリアレスXジャンクション(ポテンシャル障壁のないX字型接合部)」と小型光共振器を開発しています。この研究は、量子電荷結合素子(QCCD)アーキテクチャにおける10年来の課題を解決する画期的な技術を基盤としています。
また、効率的に光子を集め、光チャネルを介して複数のイオントラップを相互接続する高フィネス小型光共振器(キャビティ)の開発にも取り組んでいます。これら2つの技術を組み合わせることで、大規模なトラップ型イオン量子プロセッサの実現を目指します。
さらに、3Dプリンティングを活用した迅速な作製手法とOIST内の専門知識を組み合わせることで、性能を検証したイオントラップや光共振器を短期間で提供し、量子コンピューティング、計量学(メトロロジー)、基礎物理学の研究を加速させます。
図1. 加工に使用したガラス基板上に置かれた、金メッキを施した3Dプリント製イオントラップ