失敗が許されない細胞分裂:紡錘体はこうして作られる

新たに明らかになった段階的なプロセスにより、紡錘体形成を担うタンパク質が、適切な場所とタイミングでのみ活性化される仕組みが解明されました。

動物細胞の分裂では、染色体が正確で息の合った”ダンス”を繰り広げることで、二つの細胞に正しく分かれます。このダンスの振り付けを担う役割を持つのが、「紡錘糸」という複雑な装置で、細胞の両極から伸びて、染色体を押したり引いたりして分裂を進めます。しかし、この紡錘糸が、いつ、どこで作られるのかを細胞がどのようにコントロールしているかについて、まだ完全には解明されていません。 

このたび、沖縄科学技術大学院大学(OIST)とカリフォルニア大学サンディエゴ校の研究チームは、線虫C. elegansにおいて、SPD-5と呼ばれる重要なタンパク質が、紡錘糸の形成される場所とタイミングをどのように調節するのか、その分子機構を解明しました。学術誌『Science Advances』に掲載された本研究では、SPD-5が段階的な構造変化を経て活性化されることで、紡錘糸を作るために必要な結合部位が使えるようになることがわかりました。この発見は、細胞分裂がどのように制御されるかという基本的な仕組みへの理解を深めます。また将来的には、細胞分裂の異常によって引き起こされる病気の新しい治療法の開発につながることが期待されます。 

「細胞分裂を顕微鏡で観察すると、紡錘糸は分裂の特定の時期に、特定の場所からしか形成されないことが分かります。その一つが中心体です」と、本研究の筆頭著者であり共同責任著者の太田緑博士は述べています。太田博士は現在、OISTぶりぶし(群星)フェローであり、中心体動態・進化グループを率いています。 

「中心体は紡錘体の主要な形成場所であり、私の主な研究対象でもあります」と太田博士は続けます。「中心体が適切に形成・制御されない場合には、染色体が正しく分配されなくなります。その結果、細胞内の染色体数に異常が生じるほか、がんや、脳の発生に影響を及ぼす小頭症などの疾患を引き起こす可能性があります。」 

細胞が分裂する際、細胞の両端にある中心体から紡錘糸(緑色)が形成され、染色体(紫色)の動きを制御して、二つの新しい細胞へ正しく分配される。
© 太田緑(OIST)

SPD-5活性化の段階的プロセスを紐解く 

中心体は、中心小体と呼ばれる二つの基本構造と、それを取り囲む周辺物質(中心体周辺物質: PCM )から構成されています。周辺物質はタンパク質からなる網目のような形をした構造で、細胞分裂の時に大きく広がります。線虫では、この部分は主にSPD-5によって作られており、SPD-5は、γーチューブリン複合体に結合して活性化するという重要な役割を担っています。活性化されたγーチューブリン複合体は、紡錘糸を構成する微小管が形成される出発点として機能します。 

 図の左側には、中心体の中心に二つの円筒形の中心小体が描かれ、周囲の青い線が中心体周辺物質(PCM)を表している。右向きの矢印の先には、拡張したPCMが示され、紫色の円で表されたγーチューブリン複合体と結合している。灰色の線で示された微小管が、γーチューブリン複合体から伸びている。
細胞分裂の際、中心体周辺物質(PCM)(青色の線)が拡張する。線虫C. elegansにおいて、中心体マトリックスの主要な構造タンパク質はSPD-5であり、SPD-5が活性化されるとγーチューブリン複合体(紫色の円)に結合する。その後、γーチューブリン複合体は微小管(灰色の線)が形成される場所として機能し、紡錘糸の形成につながる。
© 太田緑(OIST)

「本研究の重要な課題の一つは、SPD-5がどのように活性化され、その結果としてγーチューブリン複合体への結合と活性化が中心体特異的に起こるのかを明らかにすることでした」と太田博士は述べています。 

研究チームは、SPD-5が活性化される前は、その構造によって不活性(オフ)状態が保たれ、握りこぶしのように内部に折りたたまれた構造をとっていることを発見しました。さらに、γーチューブリン複合体を捕まえる役割をするSPD-5の二つの領域が、互いの働きを抑制し合うことで、早すぎるタイミングで機能してしまうことを防いでいます。 

しかし、細胞が分裂の準備に入ると、この状態は変化します。SPD-5が中心体で拡張するタンパク質の網目に取り込まれると、別のタンパク質がSPD-5にリン酸基を付けます。これによりSPD-5の構造が変化し、握りしめた手が開くように、折りたたまれていた構造が緩み、結合部位の一つが露わになってγーチューブリン複合体に結合できるようになります。この結合がきっかけとなって、さらにタンパク質の構造変化を引き起こし、二つ目の結合部位も解放されてγーチューブリン複合体に結合できるようになります。その結果、結合はより強く安定したものになります。このように段階的な活性化プロセスによって、SPD-5に備わった安全装置が解除され、微小管が適切な場所とタイミングでのみ形作られるようになります。 

左の図は、細胞質内で折りたたまれた不活性型のSPD-5タンパク質と、不活性型のγーチューブリン複合体(ピンクの円)が示されている。右向きの矢印の先には中心体が示され、そこには黄色の星印で示されたタンパク質キナーゼ(PLK1)によりSPD-5にリン酸基が付加されている様子が描かれている。活性化したSPD-5はほどけた構造となり、γーチューブリン複合体(黄色の縁取りが付いたピンク色の円)に結合している。γーチューブリン複合体もまた、この時点で活性化されている。
SPD-5の構造は、タンパク質を自己抑制された「オフ」状態に保ち、γーチューブリン複合体(ピンクの円)ではなく、自身の別の部位に結合させている。中心体では、タンパク質キナーゼPLK1(黄色の星印)によってリン酸基が付加されることで、SPD-5は段階的に構造がほどける。この過程で、SPD-5はγーチューブリン複合体に結合してそれを活性化し、その後、γーチューブリン複合体は紡錘糸を形成する微小管の結合の足場として機能する。
© 太田緑(OIST)

線虫からヒトへ 

本研究は線虫を用いて行われましたが、中心体の基本的な構造はヒトを含む多くの動物で類似しています。これらの知見を踏まえ、太田博士らは現在、SPD-5に相当するヒトのCDK5RAP2ファミリータンパク質についても、同様の段階的なプロセスで制御されているかどうかを明らかにする予定です。 

太田博士は次のように述べています「これらのタンパク質は脳で重要な役割を果たしており、その変異は小頭症などの疾患につながる可能性があります。紡錘体形成をこれほど精密に制御している基本的な仕組みを理解することで、その異常がヒトの疾患にどのようにつながるのかについて、重要な手掛かりが得られると期待しています。」 

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