生命の核心を探る細胞分裂研究

OIST研究者が、最先端のイメージングと技術を駆使してヒト細胞内の紡錘体が正しく機能するために必要なタンパク質を明らかにしました。

清光智美准教授は、沖縄科学技術大学院大学(OIST)で、最大の細胞小器官の一つである紡錘体の研究を行っています。

2020年4月にOISTに着任し、細胞分裂動態ユニットを率いることになった清光准教授は、ヒトの細胞内に存在する紡錘体に注目しています。紡錘体は最大の細胞小器官の一つではありますが、肉眼では見えない小さなものです。それでも、根本的に重要な役割を果たしています。紡錘体は、ヒトを含むすべての真核生物において、ゲノム情報を維持したり、細胞分裂の際に娘細胞の運命を制御したりするのに不可欠です。

清光准教授は、次のように説明しています。「細胞が2つに分裂するときには、染色体に含まれるすべての遺伝物質も分かれなければなりません。染色体は常に2つの娘細胞の間で均等に分配されなければならず、そのためには紡錘体が非常に重要であることが分かっています。」

清光智美准教授

清光准教授は、細胞分裂の分野には、未解決で重要な疑問が非常に多くあると強調しています。「根本的に、細胞分裂はすべての生命の基礎となっています。本当に素晴らしいものです。」

ヒトの細胞中の紡錘体

紡錘体は微小管繊維の集合体であり、細胞分裂の際に集合して、2つの極を持つ菱形構造を形成します。染色体は、紡錘体の中心に整列し、両側に1つずつ、2つのグループに分かれます。これにより、2つの娘細胞の基礎ができあがります。紡錘体はまた、分離した染色体の間で細胞が分裂する部位を決定します。

細胞が分裂して2つの娘細胞を作るとき、すべての遺伝物質が均等に2つに分かれなければなりません。これが正しく行われるためには、紡錘体形成が非常に重要です。

分裂が正しく行われるように、紡錘体の適切な形成および配置がどのようにして行われているのかに清光准教授は興味をかき立てられています。研究グループはこれまでに、ヒト細胞を用いて、細胞の端に位置するDynein-Dynactin-NuMA (DDN) clusterと呼ばれるタンパク質複合体を同定しました。研究チームは、このクラスターが、細胞が分裂する際に紡錘体の位置を制御する力を発生させていることを発見しました。最近では、メダカという魚類の細胞を使って、発生中の細胞分裂を可視化し、この複合体やその他のメカニズムが胚の初期分裂でどのように作用しているのかを理解することにも着手しています。

Ran経路に着目

紡錘体が正しく形成されるためには、まず染色体は何百ものタンパク質を制御するシグナルを発生させる必要があります。次いで、これらのタンパク質は、微小管繊維のクラスターを引き起こします。これまでに、DDNが紡錘体形成と配置において重要であることは明らかになっていましたが、重要なタンパク質の少なくとも一部を制御するRan経路という別の因子が存在することもわかっています。しかし、Ran経路が各タンパク質をどのようにして、どの程度制御しているのかについては、まだあまり分かっていません。

今年、清光准教授のユニットは、これらのタンパク質のいくつかを活性化するためにRan経路がいかに重要であるかを調べた論文をCurrent Biology誌に発表しました。

研究グループはまず、紡錘体の両極に存在するDDN複合体中のタンパク質の一種であるNuMAの活性化に着目しました。これまでの研究で、NuMAは各極の繊維を組織化するために不可欠であることがわかっています。しかし、どのようにして正確なタイミングで活性化し、組織化を開始するのかは、いまだに謎に包まれています。清光准教授は、それがRan経路と関係しているのではないかと推測し、研究グループはOISTの最先端イメージング技術とリソースを駆使して詳細に調べました。

オーキシンデグロン法(AID)と呼ばれる手法を用いることで、任意の標的タンパク質を30分以内に分解除去することができ、それらがどのような役割を果たしているかを正確に判断することができました。驚くべきことに、Ran経路はNuMAの活性化に必須ではないことが明らかになりました。実際、Ran経路は、染色体に近接していない紡錘体のどの部分(極を含む)の形成にも関与していませんでした。

このことを念頭に置いて、同じ手法でもう2つのタンパク質であるHURPとHSETを調べることにしました。この2つのタンパク質は、細胞分裂の際に紡錘体の長さが正しく保たれるようにするために重要です。研究チームは、この2つのタンパク質が正しく機能するためには、Ran経路が不可欠であることを発見しました。Ran経路は、2つのタンパク質が確実に局在するか、動きを制限され、必要な領域にとどまるようにしていたのです。

RAN経路の分解除去によって、NuMAタンパク質は影響を受けなかったが、HURPタンパク質は影響を受けたことが明らかになった。

今回、この技術をヒトの細胞で確立したことで、清光准教授と彼のユニットは、DDNクラスターと紡錘体に含まれるその他のタンパク質を研究し、ヒトの培養細胞だけでなく、マウスの幹細胞やメダカの初期胚で果たす役割も明らかにする予定です。この研究は、すべての生物の構成要素である細胞の生物学的理解をさらに深めるものです。

「細胞の有糸分裂は何十年にもわたって研究されてきましたが、これらの新技術により、より詳細なレベルでの研究が可能になりました。OISTのような環境と研究費が整っている場所は他にはありません。この研究は細胞分裂の分野において真に最先端を行くものです。今後もOISTのイメージングセクションのリソースを利用したり、専門家と協力したりして、多くの新しいタンパク質やタンパク質複合体を可視化し、紡錘体内や細胞内での機能を発見していきたいと考えています」と清光准教授は抱負を語ります。

研究ユニット

広報・取材に関するお問い合わせ:media@oist.jp

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