2021-02-22

高温に耐えられるサンゴと耐えられないサンゴは色に違いがある

ポイント

  • 成長が早いミドリイシ属のサンゴは、サンゴ礁の形成および海岸の保護などに重要な役割を果たしているが、地球規模の環境変化により減少傾向にある。
  • ミドリイシ属の1種のサンゴには、茶色、黄緑色、紫色の3色の種類があり、それぞれが高温に対して異なる反応を示す。
  • 本研究において、異なる色のサンゴに発現するタンパク質の違いが、環境の変化に対する耐性に関係しているかどうかを調べた。
  • 黄緑色のサンゴは、夏期に熱波を受けた際、多量の緑色蛍光タンパク質を維持し、茶色、紫色のサンゴよりも白化しにくいことがわかった。
  • この発見は、高温ストレスへの耐性がサンゴの遺伝的な影響を受けていることを示唆するが、それは偶然にも、サンゴの色の違いにも関連している。

プレスリリース

オーストラリアのグレートバリアリーフ、東南アジアのコーラルトライアングル、または中央アメリカのサンゴ礁を訪れたことがある人なら誰もが、その環境がいかに美しく、活気に満ちたものであるかを知っているでしょう。実際、サンゴ礁は地球上のどの生態系よりも生物多様性が高いと言われており、何百種類もの海の生物を保護する避難場所となっています。

しかし、その生態系が今、脅威にさらされています。海水温の上昇など地球規模でのストレスにより、サンゴが幽霊のように白く変色(白化)し、死滅しています。その中でも特に影響を受けやすいと考えられているのがミドリイシ属というサンゴの仲間で、その数は今後さらに減少すると予想されています。ミドリイシ属のサンゴは成長が早く、サンゴ礁の構造上重要な役割を果たしているため、特に注意が必要です。研究チームはこの度、茶色、紫色、黄緑色の3色の種類があることで知られるミドリイシ属の仲間であるウスエダミドリイシ(Acropora tenuis)を詳しく調査しました。G3: Genes|Genomes|Genetics誌に掲載された新たな論文では、これらの色の違いがサンゴの高温への耐性を表していることが示されており、その原因であると考えられる根本的な遺伝的要因が明らかにされています。

沖縄周辺でよく見られるウスエダミドリイシには茶色、黄緑色、紫色の3色がある 写真提供:毛塚大輔さん

沖縄科学技術大学院大学(OIST)でマリンゲノミックスユニットを率いる佐藤矩行教授は、次のように述べています。「サンゴ礁はとても美しく、多彩な色をしています。ウスエダミドリイシの色の違いを調べ始めたとき、同じサンゴの種の中でも、ある色のものが他の色のものに比べて白化しやすく、死滅しやすいことに気づきました。2017年の夏には、茶色と紫色のサンゴの多くが白化し、茶色の方が高い割合で死滅しましたが、黄緑色のサンゴは夏の高い気温に対して耐性があるようでした。」 

この度の研究は、地元の方々の協力も得て行われました。その中の一人が、有限会社 海の種を運営する金城浩二さんです。私設水族館である有限会社 海の種では、約 20 年前から様々な色のサンゴの飼育が行われてきました。研究チームにとって金城さんは過去20 年に渡るサンゴを調べ、その種が気候変動に対してどの程度の耐性を持ち、またその根本的な原因は何かを明らかにするこの研究になくてはならない存在です。

沖縄県で3色のサンゴを20年間飼育してきた私設水族館「有限会社 海の種」は本研究に欠かせない役割を果たした。

2020年、佐藤教授と共同研究者らはウスエダミドリイシのゲノムを解読しましたが、今回の研究では、その成果を利用してサンゴの色の違いをもたらす遺伝的基盤を調べることができました。

「当初、私たちはこの耐性の違いは、サンゴに共生し、光合成から得たエネルギーをサンゴに供給する褐虫藻の種類に関係しているのではないかと考えていました。これまでの研究で共生褐虫藻類の中には気候変動に強いものがあることがわかっています。しかし、3色のサンゴを調べてみると、どれも非常によく似た褐虫藻が共生していることがわかりました」と佐藤教授は説明します。

そこで研究チームは、サンゴの色に関係すると考えられているタンパク質の発現量に注目しました。これらのタンパク質には、緑色蛍光タンパク質(GFP)、赤色蛍光タンパク質(RFP)、シアン蛍光タンパク質(CFP)、蛍光タンパク質には属さない青紫色素タンパク質(ChrP)の4つのグループがあります。チームは、各色のサンゴの数種類を対象に5種類の 緑色蛍光タンパク質、3種類の 赤色蛍光タンパク質、2種類の シアン蛍光タンパク質および7種類の 非蛍光青紫色素タンパク質の遺伝子の発現率を調査しました。 

予想通り、緑色のサンゴでは 緑色蛍光タンパク質遺伝子が大量に発現していることがわかりましたが、5種類のうち2種類の 緑色蛍光タンパク質が特に多く発現していることが判明しました。さらに驚くべきことは、この2種類の 緑色蛍光タンパク質遺伝子が夏になるとさらに多く発現していたということです。この結果は、これらの 緑色蛍光タンパク質がサンゴの温度上昇に対する耐性に寄与していることを示しています。具体的に言うと、これらの 緑色蛍光タンパク質が共生藻類を保護すると考えられ、そのためこの色のサンゴはほとんど白化しなかったのだと思われます。

対照的に、これら2種類の 緑色蛍光タンパク質遺伝子の発現がはるかに少なかった茶色のサンゴは、2017年7月から8月にかけて約50%が白化してしまいました。

紫色のサンゴにおいてもまた異なる結果が判明しました。このサンゴでは蛍光タンパク質遺伝子はほとんど発現しておらず、非蛍光青紫色素タンパク質が非常に多く発現しており、茶色のサンゴと緑色のサンゴの中間の割合で白化現象が起きました。

「サンゴ礁は生物多様性にとって非常に重要です。サンゴ礁について知識を深めることが、その保全につながります。今のところ、サンゴ礁の現状に対して私たちが直接的にできることはあまり多くありませんが、このような基礎的な知識を集め、サンゴの働きを理解することは、長期的な保全の観点で非常に重要です」と佐藤教授は締めくくっています。

今回の研究によって、サンゴの高温に対する耐性にその色が大きく関与していることが明らかになりました。緑色蛍光タンパク質が共生を保護する仕組みなど、この性質の根本的要因が今後の研究課題となることは間違いありません。

緑色のサンゴ(写真の右下)は紫色(その上)や茶色のサンゴよりも海水温の上昇に対する耐性が高く、その背景にあると考えられるタンパク質の遺伝的要因が今回の研究で明らかになった 写真提供:新宅航平さん

Credit: 
Kohei Shintaku

本研究は、有限会社 海の種、いであ株式会社、沖縄環境調査株式会社、および東京大学の研究者の方々と共同で行われ、OIST の DNA シーケンシングセクションおよびイメージングセクションも関わっています。 なおこの研究は、その一部を今野晴夫氏ご家族からの寄付金による支援を受けて行われました。

論文情報

  • タイトル: Color morphs of the coral, Acropora tenuis, show different responses to environmental stress and different expression profiles of fluorescent-protein genes
  • 掲載誌: G3: Genes|Genomes|Genetics
  • 著者: Noriyuki Satoh, Koji Kinjo, Kohei Shintaku, Daisuke Kezuka, Hiroo Ishimori, Atsushi Yokokura, Kazutaka Hagiwara, Kanako Hisata, Mayumi Kawamitsu, Koji Koizumi, Chuya Shinzato, Yuna Zayasu
  • DOI: https://doi.org/10.1093/g3journal/jkab018
(ディッキー・ルシー)

広報や取材に関して:media@oist.jp