大きさ、電力、安定性を向上させたペロブスカイト太陽電池モジュールを開発

欠陥が少なく、寿命が長い次世代ソーラー技術の商業化に近づきました。

ポイント

  • ペロブスカイト太陽電池は、将来の太陽電池技術を大きく変えると予測されているが、現在のところ、動作時間が短く、大型化すると効率が低下するという課題がある。
  • 製造過程で前駆体材料に塩化アンモニウムを混合することで、太陽電池モジュールの安定性と効率を向上させた。

  • 改良された太陽電池モジュールのペロブスカイト活性層は、厚みが増し、粒が大きくなり、欠陥が低減した。

  • 5 x 5 平方センチメートル と 10 x 10 平方センチメートルのペロブスカイトモジュールは、いずれも 1000 時間以上にわたって高い効率を維持した。

プレスリリース

沖縄科学技術大学院大学(OIST)の研究者らは、欠陥を低減した新しい製造技術を用いて、安定性と効率を向上させたペロブスカイト太陽電池モジュールを作製しました。本研究成果は、1月25日付のAdvanced Energy Materials誌に掲載されました。

ペロブスカイトは、次世代の太陽電池技術として最も有望な材料の一つであり、この10年あまりで効率が3.8パーセントから25.5パーセントへと急上昇しています。ペロブスカイト太陽電池は製造コストが安く、柔軟性をもつ可能性があるため、汎用性が高まっています。しかし、長期的な安定性の欠如とスケールアップの難しさという2つの障害が商業化への道を阻んでいます。

「ペロブスカイト材料は壊れやすく分解しやすいため、ペロブスカイトをベースにした太陽電池は長時間にわたって高い効率を維持するのが困難です。また、小型では効率が高く、シリコン系太陽電池とほぼ同等の性能を持っていますが、大型にスケールアップすると、効率が低下します」と、ヤビン・チー教授率いるOISTのエネルギー材料と表面科学ユニットのポスドク研究員で、論文の筆頭著者でもあるグオチン・トン博士は述べています。

機能的な太陽電池デバイスでは、ペロブスカイト層が中央に位置し、2つの輸送層と2つの電極に挟まれています。ペロブスカイト活性層が太陽光を吸収すると、電荷キャリアが発生し、輸送層を介して電極に流れて電流を発生させます。

しかし、ペロブスカイト層のピンホールや個々のペロブスカイト粒子間の境界の欠陥によって、ペロブスカイト層から輸送層への電荷キャリアの移動が乱れ、効率が低下する可能性があります。また、これらの欠陥部位では、湿気や酸素によってペロブスカイト層が劣化し始め、デバイスの寿命を縮める可能性があります。

ペロブスカイト太陽電池デバイスが機能するためには、複数の層が必要である。ペロブスカイト活性層は太陽光を吸収して電荷キャリアを発生させる。輸送層は、電荷キャリアを電極に輸送して電流を流す。ペロブスカイト活性層は、多数の結晶粒で形成されている。これらの結晶粒同士の境界や、ペロブスカイト膜のピンホールなどの欠陥によって、太陽電池デバイスの効率と寿命が低下する。

「モジュールのサイズが大きくなると、ペロブスカイト層を均一に作ることが難しくなり、欠陥がより顕著になるため、スケールアップをすることが困難です。私たちは、これらの問題に対応した大型モジュールの製造方法を見つけたいと考えていました」とトン博士は説明しています。

現在、製造されている太陽電池のほとんどは、厚さわずか500ナノメートルの薄いペロブスカイト層でできています。理論的には、ペロブスカイト層が薄いと、電荷キャリアが上下の輸送層に移動する距離が短くなるため、効率が向上するはずです。しかし、より大きなモジュールを製造する場合、薄い膜にはしばしばより多くの欠陥やピンホールが発生することが明らかになりました。

そこでチームは、厚さが2倍のペロブスカイト膜を持つ5×5平方センチメートルと10×10平方センチメートルの太陽電池モジュールを製作することにしました。

研究者チームは、5x5平方センチメートルと10x10平方センチメートルの太陽電池モジュールを製作した。これは、従来研究室で作られていた1.5x1.5平方センチメートルのものよりもはるかに大きいが、市販のソーラーパネルよりは小さい。

しかし、より厚みのあるペロブスカイト膜を作るには、独自の課題がありました。ペロブスカイトは、通常、多くの化合物を一緒に反応させて溶液を作り、結晶化させることで形成される物質の一種です。

ペロブスカイトの厚い膜を形成するには、使用する前駆体材料であるヨウ化鉛を、十分な濃度で溶解する必要がありますが、それは容易ではありませんでした。また、結晶化が速くて制御できないため、厚い膜には小さな粒が多く含まれ、粒界が多くなってしまうことも判明しました。

そこでチームは、ヨウ化鉛の溶解度を高めるために塩化アンモニウムを添加しました。これにより、ヨウ化鉛の有機溶媒への溶解度が向上し、より均一なペロブスカイト膜を得ることができました。その後、ペロブスカイト溶液からアンモニアを除去し、ペロブスカイト膜内の不純物の量を削減しました。

塩化アンモニウムを添加することで、ペロブスカイト膜の粒が顕著に増大し、個数が減少した。その結果、粒界の数も減少した。

全体として、5×5平方センチメートルの太陽電池モジュールの効率は14.55パーセントを示し、塩化アンモニウムを使用しないモジュールの13.06パーセントを上回りました。さらに、この80パーセント以上の効率で1600時間(2ヶ月以上)も作動させることができました。

より大きな10×10平方センチメートルのモジュールでは、効率が10.25パーセントで、1100時間以上、つまり約46日間、高い効率を維持しました。

「この大きさのペロブスカイト太陽電池モジュールの寿命測定値が報告されたのは、今回が初めてです」と、トン博士は述べています。

本研究は、OISTの技術開発イノベーションセンターのプルーフ・オブ・コンセプト(概念実証)プログラムの支援を受けて行われました。これらの成果によって、シリコン系太陽電池に匹敵する効率と安定性を備えた太陽電池モジュールを商業化可能なサイズで製造するために着実な一歩を踏み出しました。

研究の次の段階では、溶液ではなく蒸気を使用する方法でペロブスカイト太陽電池モジュールを製作して技術をさらに最適化する予定でおり、現在は15×15平方センチメートルのモジュールへスケールアップを試みています。

「実験室サイズのモジュールから5×5平方センチメートルへのスケールアップは大変でした。10 x 10 平方センチメートルは、さらに困難でした。そして、15 x 15 平方センチメートルへのスケールアップは、さらに難しいでしょう。しかし、チームはこの挑戦を楽しみにしています」とトン博士は話していました。

ペロブスカイト太陽電池モジュールが作動し、扇風機とおもちゃの車に電力を供給する様子を披露するOISTエネルギー材料と表面科学ユニットの科学者たち。

論文情報

掲載誌: Advanced Energy Materials
論文名: Scalable Fabrication of >90 cm2 Perovskite Solar Modules with >1000 h Operational Stability Based on the Intermediate Phase Strategy
著者: Guoqing Tong, Dae‐Yong Son, Luis K. Ono, Yuqiang Liu, Yanqiang Hu, Hui Zhang, Afshan Jamshaid, Longbin Qiu, Zonghao Liu, Yabing Qi
DOI: 10.1002/aenm.202003712

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