液体内部で見つかったらせん渦

十字形の流路に液体を押し流したところ、予想外にもらせん渦が形成されていることが分かりました。

 通常多くの配管システムには、水などの液体を異なる方向に送る交差点や結合部が備わっています。交差点に達した流体が実際にどのように流れるかを考えたことがあるでしょうか?沖縄科学技術大学院大学(OIST)の研究者らは、十字形流路装置の各流路に特定の方法で流体を流すと、交差するところで予想もしていなかったらせん渦が形成されることを見出しました。本研究成果は米国物理学会が発行する科学誌「Physical Review E」に掲載されました。

 研究チームはまず、十字形に交差する流路装置の向かい合う流路に水を同時に流し、それらが交差点で対面するようにしました。向かい合った流路から流れてきた水が交差点で出会うと、流れの力によって水は圧縮され別の2つの流路へ引き伸ばされるように流れます。この時、水の内部にらせん渦が形成されます。

 

十字形の装置
OIST研究チームが実験に使用した十字形流路装置の一例。矢印は水の流れの方向と色素(Dye)の有無、そしてどこにらせん渦が形成されるかを示しています。

 「見た目はとても単純な構造をしていますが、このような決定的な流れの構造を認識し、可視化したのは今回が初めてです」と、論文著者で、OISTマイクロ・バイオ・ナノ流体ユニットを主宰するエイミー・シェン教授は言います。

 研究チームは、蛍光色素で着色した水を1つの流路から流し共焦点顕微鏡で観測することで、らせん渦の3次元構造を実験的に可視化することができました。また数値シミュレーションによっても、この渦現象を再現することに成功しました。水が流れ始めると、時計回りと反時計回りのらせん渦が同じ確率で発生します。このような実験と数値シミュレーションの組み合わせにより、研究チームはこの挙動が珍しい種類の流体不安定性に分類されることを見出しました。

 

らせん渦は流れの速さに比例して発達する。(ビデオをクリックすると日英両言語にて説明をご覧いただけます。)

 「この種の不安定性はいかなる交差点形状にも見られることが分かってきました」と、論文の筆頭著者で同ユニットのグループリーダーを務めるサイモン・ハワード博士は説明します。

 研究チームはまた、液体の流速を上げるとらせん構造が形成され、下げると消失することを突き止めました。しかしながら、この形成と消失が起こる流速は必ずしも一致しません。そして、流路のアスペクト比(つまり流路の深さを流路の幅で割った値)を変化させることで、形成する流速と消失する流速に違いが生じることが分かりました。特に、アスペクト比が小さい場合、らせん構造の形成と消失は同じ流速で起こるのに対し、アスペクト比が大きい場合は、らせん構造が形成される流速より遅い流速で消失することが明らかになりました。この現象をヒステリシス(履歴効果)といいます。さらに、研究チームは「三重臨界点」に相当する特別なアスペクト比の値を割り出し、そこでは流速の狭い範囲でらせん渦の成長と減衰を引き起こすことができることを見出しました。これら全ての情報は、流体の輸送に関する理解を深めたり、流体の不安定性状態を推測したり、流体の混合を促進させるのに役立つ可能性があります。

 ハワード博士は、「どのような流路をもってしても、渦がいつ発生するか、どのくらい大きく成長するか、そして出口での混合の程度を推測することができます」と胸を張ります。

 今回の研究で得られた知見は他の研究にも役立つことが期待されています。「マイクロ流体装置上で混合過程を発生させることは容易ではありません」とシェン教授は実験の難しさに触れたうえで、「しかし私たちの研究では、流路を深くすれば混合を誘導しやすくなることが示唆されました」と、課題解決に向けた今後の可能性について語りました。

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