2017-03-07

小惑星「イトカワ」の謎の解明-太陽系研究に大きな一歩

 概要 

 沖縄科学技術大学院大学(OIST)の研究員らは、米国ニュージャージー州ラトガース大学と共同で、小惑星イトカワの表面の岩や砂礫(砂や小石)がふるいわけられる仕組みを研究しました。その結果、これまで謎とされていたイトカワの特殊な地形が、小さな砂礫が大きな岩にぶつかると大きく跳ね返り、砂礫の多い場所では砂礫の中に沈み込むためにできているという説を提示し、これを「反跳選別(はんちょうせんべつ)現象 (ballistic sorting)」と名付けました。

 科学誌 Physical Review Letters に掲載された本研究成果は、小惑星の形成とその変遷についての理解をより深め、太陽系に関する研究を進めるための好機をもたらしたと言えます。

 研究の背景と経緯 

   宇宙航空研究開発機構(JAXA)が開発した小惑星探査機「はやぶさ」が、2005年に地球近傍小惑星イトカワに到着しました。ロケット開発で有名な日本人研究者の糸川英夫博士にちなんで名付けられた小惑星です。このミッションの目的は、イトカワから、研究・分析のためのサンプルを地球へ持ち帰ることでした。イトカワは、科学者たちの事前予測に反し、表面に砂礫が堆積する滑らかな地域と、ごつごつした岩の集まる地域の二つに極端に分かれていました。さらに不思議なことに、高地には大きな岩が集まり、低地には砂礫(砂や小石)が集まっているという、重力に対して横方向のふるい分け現象が見られました。

   イトカワ表面のこのふるい分けは、これまでは「ブラジルナッツ効果」によって起きたと考えられてきました。これは、大きさの異なる粒子を混ぜて重力のある場所で垂直に振動させると、粒子がその大きさによって分離するという現象です。オートミール入りのシリアルの箱を振ると、大きな粒は表面に持ち上がり、小さい粒のオーツ麦は箱の底へ沈む様子(縦方向のふるい分け現象)と似ています。イトカワでも同様に、大きな岩は表面近くに集まり、砂礫は下の方に沈みこみます。ただ、この効果だけでは表面に浮き上がった岩と小さな砂礫とが重力に対して横方向に分離する現象は説明できませんでした。

   そこで、OISTの流体力学ユニットを率いるピナキ・チャクラボルティー准教授は、この度ラトガース大学のメンバーと共に、イトカワの表面で起こる岩や砂礫のふるい分けのメカニズム解明をめざして研究を行い、単純でありながらも有望な理論に到達しました。

 研究内容 

 はやぶさが撮影した写真からは、イトカワの表面に見られる岩や砂礫の面積はほぼ同等であることが見てとれます。つまり数の上では大きな岩よりも小さな砂礫のほうが多いわけですが、言い換えれば小惑星上で発生する衝突の多くは小さな砂礫によるものであるということです。これは非常に重要なことです。なぜなら砂礫は岩にぶつかると大きく跳ね返り、砂礫の面に落下するとその勢いが吸収されてとどまるためです。研究者たちはこのメカニズムを「反跳選別現象 (ballistic sorting)」と名付け、これがイトカワ表面の岩や砂礫の横方向のふるい分けが起こる理由であると予測しました。

砂礫(砂や小石)が岩にぶつかると大きく跳ね返って遠くまで飛ばされ、似た大きさの砂礫のかたまりにぶつかるとそこで止まる。研究者らはこれを「反跳選別現象(ballistic sorting)」と名付けた。(クレジット:OIST)

   この現象を実験に基づいて検証するため、ラトガース大学の研究者らは砂粒をセラミック皿の上に落とし、砂粒が、岩や砂のかたまりに衝突する様子を再現しました。砂粒が皿に直接落ちた時には岩と同様に跳ね返りが生じましたが、砂のかたまりにぶつかると吸収されて砂山と一体化します。

 「これらの初期実験で、砂は岩にぶつかると跳ね返りますが、砂の面に落ちるとそこにとどまることがわかりました。」と、ラトガース大学の教授で、本研究論文の筆頭筆者であるトロイ・シンブロット教授は説明しています。

 次にシンブロット教授と研究チームは、箱の中で不規則に並べた石の上に砂粒を落とす実験を行いました。時間をかけて砂山の大きさを測定すると、砂山は「ヒルの微分方程式」という法則に従って大きくなっていくことを示しました。これはつまり、最初に山が形作られるとその後に落ちる砂粒がその山に堆積して成長が加速されていく、ということを意味します。

 地球よりも重力が大幅に弱いイトカワの表面でもこの現象が同様に働くのかを確かめるため、OIST連続体物理学研究ユニットのタパン・サブワラ博士は、さまざまな重力の強さの中で小石を岩や砂礫の表面に落下させ、その軌跡を追うというコンピュータシミュレーションを行いました。このシミュレーションで、岩にぶつかった小石は重力の強さに関係なく、砂礫にぶつかった場合よりも遠くに跳ね返ることが実証されました。

 サブワラ博士は「このシミュレーションから、砂礫が集まっている場所には岩から跳ね返ってきた砂礫が付け加わり、非弾性的に他の砂礫と互いに衝突し合うため、その面積が拡大していくことが確認されました。」と述べ、さらに、「反跳選別現象によって重力の谷間に砂礫の平らな「海」が形成されることが確認できました。」と続けています。

 今回の研究成果のインパクト・今後の展開 

 研究チームは実験とシミュレーションの結果にもとづき、砂礫がゆっくりと堆積した場合には予想通り砂礫の海が形成されるという結論を出しました。

 シンブロット教授は、「反跳選別は、イトカワのような小惑星の上で岩と砂礫がより分けられる現象の根底をなす主要なメカニズムである可能性があります。より大きな小惑星でも反跳選別が起こるかもしれません。しかしそこでは大規模の衝突が起き、さらに地形の要因による影響も受けやすいため、状況はもっと複雑です。」としています。

 事前調査で得た、イトカワと同等サイズである小惑星ベンヌの映像からは、その表面でも横方向分離により大きさの異なる礫岩が分かれている様子を示しています。NASAを中心に2018年から始まるベンヌの探査によって、反跳選別に関するさらなる見解がもたらされるでしょう。

 チャクラボルティー准教授は、「今回の私たちの研究成果は、今後の宇宙探査、特に探査機が小惑星に着陸する場所を決定するのに重要な意味をもつと言えます」と述べた上で、「小惑星ベンヌや、はやぶさ2が向かっている小惑星リュウグウ、さらに2021年にNASAが打ち上げを予定している木星のトロヤ群小惑星の探査にも役立つでしょう」と締めくくりました。

(左から)OIST連続体物理学研究ユニットのタパン・サブワラ博士と流体力学ユニットのピナキ・チャクラボルティー准教授

(クレジット:OIST)

小惑星探査機はやぶさが観測したイトカワの画像(クレジット:JAXA)

(キーナン・グレタ)

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