気候変動とハリケーンによる内陸部への被害増加の関係

内陸部の広い範囲での台風被害予測に期待 –

概要

沖縄科学技術大学院大学(OIST)の研究者はこの度、上陸したハリケーンの勢力が弱まるまでに以前より時間がかかるようになっているのは、気候変動の影響による、との研究を発表しました。本論文は11月12日に学術誌「ネイチャー」に掲載されました。

気候変動の影響で、海上でのハリケーンの勢力が強力になっている可能性があることは、これまで多くの研究で示されています。しかし今回の研究は、気候の温暖化と、上陸したハリケーンとの間に明確な関連性があることを示した初の研究となります。

研究の背景

最近、ハリケーン(世界では地域によってサイクロンや台風と呼ばれている)が沿岸部だけでなく内陸部に壊滅的な量の雨を降らせ、該当地域に大きな被害を与える例が目立っています。

この度、OIST流体力学ユニットの研究者2名が、気候の温暖化と、上陸したハリケーンとの間に明確な関連性があることを初めて示しました。

より暖かい海の上で発達したハリケーンは、より多くの水分を蓄えるため、上陸した後も長期間にわたってより勢力の強い状態を維持することができます。このことは、将来、世界が温暖化し続ける場合、ハリケーンが内陸のより広い範囲に到達し、より破壊力を持つ可能性が高くなることを意味します。

「この研究は、特に地球温暖化に対処するための政策を考える上で、非常に重要な意味を持ちます。沿岸部では、強力なハリケーンに備える必要性が浸透している一方、内陸部では、そのような強風や大雨に対処するためのノウハウやインフラを持っていないかもしれません」と本研究の責任著者であり、OIST流体力学ユニットを率いるピナキ・チャクラボルティ教授は話しています。

研究内容

本研究では、過去半世紀に上陸した北大西洋のハリケーンを分析し、現在のハリケーンが、上陸後の最初の1日の間に、50年前と比較して勢力が弱まる速度が約2倍もゆっくりであることを発見しました。

左のグラフは、50年前のハリケーン(青)に比べて、現在のハリケーン(赤)は平均的な勢力の衰え方がゆるやかになっていることを示す。右のグラフでは、現在のハリケーン(赤)の減衰が遅いことで、より強い勢力を持って内陸に侵入することを意味する。ハリケーンが陸地に突進し、標準的な速度として秒速5メートルで前進していることを示す。

「データを調べてみると、ハリケーンが減衰するまでにかかった時間が年々長くなっていることが明白になりました。ただしその増加は直線ではなく起伏があり、これらの起伏が海面水温の起伏と一致していることがわかりました」と、本論文の筆頭著者で流体力学ユニットの博士課程の学生であるリー・リンさんは話します。

ハリケーンが上陸してから弱まるまでの時間と海面水温の間に強い相関関係があることを発見

研究チームは、4つの異なるハリケーンをコンピュータ上でシミュレーションし、さらにそこに海面の温度を組み込むことで、海面温度の上昇に伴い、上陸後の減衰速度が遅くなることの関連性をテストしました。

そして、それぞれの仮想ハリケーンがカテゴリー4の強度に達した時、下方からの水分供給を遮断して上陸するようにシミュレーションを行いました。

「ハリケーンは自動車のエンジンと同様、熱機関です。車のエンジンでは、燃料が燃焼され、その熱エネルギーが機械的な仕事に変換されます。ハリケーンの場合、海面から取り込まれた水分が、ハリケーンの破壊力を強めて持続させる 『燃料』となり、水分からの熱エネルギーが強力な風に変換されます。ですから、ハリケーンが上陸することは、車のエンジンへの燃料供給を止めることに等しいのです。燃料がなければ車は減速し、水分源がなければハリケーンは減衰します」と、リンさんは説明します。

研究では、シミュレーションされたハリケーンが同じ強度で上陸したとしても、より暖かい海域で発達したハリケーンの方が、減衰に時間がかかることを発見しました。

「これらのシミュレーションは過去のハリケーンの分析が示唆していた、より暖かい海域がハリケーンの減衰速度に強く影響し、ハリケーンが海面から離れて上陸した後もその影響が続く、ということを証明しました。問題は、なぜそうなるのか、ということです」とチャクラボルティ教授は語っています。

そこでチームは、追加のシミュレーションを行い、これまでの研究で欠けていた要素である「蓄えられた水分」が重要であることを発見しました。すなわち、ハリケーンが上陸し、海からの水分供給ができなくなっても、上陸前に蓄えた水分をゆっくり使っていくと説明しています。

さらに、水分を蓄えていない仮想ハリケーンが上陸した場合のシミュレーションを行うと、海面温度は減衰速度に影響を与えないことを発見しました。このことは、貯蔵された水分が、シミュレーションの中の各ハリケーンに独自の個性を与える重要な要素であることを示しています。より暖かい海上で発達したハリケーンは、より多くの水分を取り込んで蓄えることができるため、より長く持続し、上陸後の急速な減衰が阻害されるのです。

蓄積する水分量が増加するということは、ハリケーンがより濡れた状態であるということです。最近のハリケーンが沿岸部や内陸部に壊滅的な量の雨を降らせていることから、このことが及ぼす結果はすでに実感されています。

今回の研究成果のインパクト・今後の展開

本研究は、水温の上がった海がハリケーンに与える影響を予測する際に、蓄積された水分量を考慮することの重要性を浮き彫りにしています。

また、ハリケーンがどのように減衰するかを理解するために現在広く用いられている理論モデルの課題についてもチャクラボルティ教授は以下のように指摘しています。

「ハリケーンの減衰に関する現在のモデルは水分量を考慮しておらず、上陸したハリケーンは乾燥した渦が陸地でこすれた摩擦によって減速するとしか考えていません。我々の研究では、このモデルが不完全であることを明らかにしました。」

チームは現在、世界の他の地域のハリケーン(サイクロン、台風)のデータを研究し、温暖化した気候がハリケーンの減衰に与える影響が世界中で起きているかどうかを見極める計画を立てています。

チャクラボルティ教授は、以下のように締めくくっています。「全体を通して、この研究の意味することは明らかです。地球温暖化を抑制しなければ、今後も上陸するハリケーンは、よりゆっくりとしか勢力を落とさないでしょう。ハリケーンがもたらす被害は、もはや沿岸地域に限定されるものではなく、より高いレベルの経済的損害をもたらし、より多くの命を犠牲にすることになると考えます。」

研究ユニット

広報・取材に関するお問い合わせ
報道関係者専用問い合わせフォーム

シェア: