地域と科学をつなぐ新たな挑戦

海ぶどうの夏場の生育不良解決に向けた地域課題解決支援パイロットプロジェクト

Sea grape rice bowl prepared with healthy sea grapes
健康な海ぶどうを使った「海ぶどう丼」 

OISTでは、J-PEAKSの取り組みの一環として、地域課題の解決に科学の力で貢献する「地域課題解決支援パイロットプロジェクト」を実施しています。現在取り組んでいるのは、恩納村の主要な養殖水産物である海ぶどうの夏場の生育不良の解決を目指すプロジェクトです。 

プロジェクト始動のきっかけ 

OISTの事務職員が業務上で交流のある恩納村漁業協同組合の関係者との雑談の中で、「夏場になると海ぶどうの不作が続いている」という課題を耳にしました。数か月後に改めて状況を尋ねたところ、「依然として困っている。課題解決に協力してくれる研究者はいないだろうか」と相談を受けました。当時、学内には地域から寄せられたこうした課題を研究者につなぐ仕組みがなく、J-PEAKSの枠組みを活用し地域課題の解決を目指すパイロットプロジェクトとして立ち上げることになりました。学内で関連分野に強みを持つ研究ユニットについて助言を受けながら研究者へ協力を呼びかけ、これまでに3つの研究ユニットが参画しています。 

また、本プロジェクトは、2018年6月に恩納村、恩納村漁業協同組合、OISTの三者が締結した覚書の趣旨とも合致しています。同覚書では、自然環境の保全・育成、地域資源を活かした恩納ブランドの確立、海洋生物やサンゴ、海ぶどうなどの地域資源に関する知見の共有を通じた連携を目指しています。  

解決を目指す地域課題 

海ぶどうは恩納村を代表する特産品の一つであり、陸上養殖技術も同地域で確立されています。しかし近年、特に夏場に深刻な生育不良が発生しており、海ぶどうの粒に網目状の模様が現れた後に組織が溶けてしまう現象や、収穫後の切片が黄色く変色し、その後脱水してしぼんでしまう現象が確認されています。これらの症状はいずれも商品として出荷できなくなるため、生産者にとって大きな課題となっています。さらに、夏場は観光需要が高まる時期でもあることから、生育不良による供給不足は地域産業にも大きな影響を及ぼします。同様の問題は恩納村以外でも確認されており、原因の解明と対策の確立が実現すれば、沖縄県全体への波及効果も期待されています。 

産学官が連携した推進体制 

本プロジェクトは、地域との協働で進められています。 

連携・協力機関: 

  • 恩納村漁業協同組合
  • 沖縄県水産海洋技術センター 

OIST: 

  • 3つの研究ユニットの研究者、インターン 
  • 海洋・陸域科学、シーケンシング、実験動物セクションなどのコアファシリティ 
  • プロボストオフィス 

また、文部科学省「地域中核・特色ある研究大学の連携による産学官連携・共同研究の施設整備事業」により整備されたオープンサイエンス・オープンイノベーション施設である「OIST Sea neXus」および「OIST Land neXus」も、本プロジェクトの推進に活用されています。  

これまでの取り組みと進捗 

2025年3月には、プロジェクトの背景や経緯、推進体制について関係者と議論を行うとともに、恩納村漁業協同組合の海ぶどう養殖場を視察しました。 

Visit to a sea grape cultivation facility
養殖場の視察
養殖場の視察

また、2025年6月には、網目症状や溶解現象の発生を確認し、養殖環境データの収集を開始。7月には黄化現象に関する初期分析結果を共有し、8月には水温や塩分濃度などの環境データの初期解析結果について関係者間で共有を行いました。さらに11月には網目症状に関する初期サンプリングを完了し、解析計画を共有しました。2026年1月には意見交換会を実施するとともに、関係者がOIST Sea neXusおよびOIST Marine Science Stationを視察し、今後の連携について議論を深めました。サンプルの分析は現在も続いています。 

Sampling activities at a cultivation facility
養殖場でのサンプリング
養殖場でのサンプリング

プロジェクトを通じて見えてきたこと 

プロジェクト開始から約1年半の活動を通じて、地域課題解決における大学の役割や可能性について、いくつかの重要な気付きが得られています。まず、研究サンプルの提供などで日頃から支えられている地域への恩返しとして、「科学の力で地域課題の解決に貢献したい」と考える研究者は少なくありません。また、地域課題への取り組みの中にも、新たな研究テーマや学術的発見の可能性を見出し、論文化を視野においている研究者もいます。一方で、地域課題解決が必ずしもインパクトの高い研究業績につながるとは限らず、多くの研究者は主となる研究活動の合間を縫って調査や解析を進めています。特に若手研究者にとっては、限られた任期の中で研究成果を上げることがキャリア形成に直結するため、研究時間の確保は極めて重要です。 

持続可能な地域課題解決モデルの構築に向けて 

本プロジェクトは、海ぶどうの生育不良という地域課題の解決を目指すだけでなく、大学と地域が協力して課題解決に取り組む持続可能な仕組みづくりにも挑戦しています。地域の課題解決に貢献したいという思いと、研究者が最先端研究を推進し世界的な研究成果を創出するという使命。その両立を組織としてどのように実現していくのかは、今後の大きなテーマです。 

Project meeting with participating stakeholders
関係者会議の様子
関係者会議の様子

J-PEAKSでは、本プロジェクトを通じて得られる知見を活かしながら、地域と大学が共に価値を創出する新たな連携モデルの構築を目指していきます。