動物福祉の向上と生産性の改善を両立する魚養殖システムの開発
世界の食糧需要が増大するなか、魚やエビなどの水生生物を育てる水産養殖は年々拡大し、年間推定数十億ドル規模の産業へと成長しています。2022年だけでも推定9440万トンの水生生物が養殖によって生産されたと報告されています1。しかし、病気の発生、環境変動、ストレスに伴う高い死亡率など、初期発育段階におけるボトルネックが課題となっており、産業全体の生産性向上を妨げています。
このたび、沖縄科学技術大学院大学(OIST)の研究チームは、こうした課題解決を目的とした拡張性のある水生生物の飼育用プラットフォームを開発しました。本システムは、ふ化や移送といった、飼育において特に繊細な工程を自動化し、病原体への曝露(ばくろ)、生物のストレス、人的労力を最小限に抑えることが可能です。
拡張可能な自動飼育システムの開発
このシステムはもともと、イカやタコなど、飼育が特に難しい頭足類の研究を支援するために開発されました。プロジェクトを率いるズデニェク・ライブネル博士は、「頭足類のふ化直後の幼体は、人が水の中に物を入れたりして直接的に誘導することを嫌います。本システムでは、光と水流でやさしく誘導することで、ストレスと労力を軽減しながら、生存率を向上させることができます」と話します。
ズデニェク・ライブネル博士、中島隆太博士、メメット・アリフ・ゾラル博士、Peter Babiak博士、ジョーン・パーカー博士、モイス・ラゾウド博士、そしてジョナサン・ミラー教授からなるチームは、モジュール式の試作機を設計し、複数の頭足類での試験に成功しました。さらに、このシステムがより幅広い生物にも利用できることを確認しています。ライブネル博士は、「魚類やエビなど、幼生期に光と水流に反応する水生生物であれば、同じ原理で誘導することができます」と述べています。
光と水流を用いたアプローチにより、生物が自発的に移動するよう促すことで、ストレスを最小限に抑え、動物福祉の向上を実現しました。チームはさらに、IoT対応センサーを導入し、温度、塩分濃度、酸素量などの主要な環境指標を継続的に計測できます。これらのデータはリアルタイムで取得でき、リモートユーザーへの通知にも対応しています。移送される個体ごとに、自動で詳細なリアルタイム特性評価を行い、その結果に基づいて、即時に自動で判断を下すことが可能になります。
「モジュール式設計により、このシステムは既存の施設への導入や、独立した循環式ユニットとしての使用、あるいは移動式システムとしても対応できます」とライブネル博士は話します。
さらに、AIを統合することで、自動カウント、サイズ別の選別、行動モニタリング、健康評価などを実現でき、初期段階での個体品質の把握が容易になります。飼育の初期段階の取り扱いと評価方法を標準化することで、従来の人手に頼った主観的な観察から、迅速で正確なデータに基づく判断をすることができるようになります。
動物福祉の向上と生産性の改善を両立
ふ化や移送の際に生じるストレスは、死亡率を高めるだけでなく、養殖の場合、長期的な生産性にも影響します。初期生存率がわずかに改善するだけでも、経済効果は大きくなり2、飼料ロスや労働時間、タンク停止時間も削減されます。
「1960年代以降、世界の水産物消費量は480%以上増加しています。気候変動や乱獲による天然資源への負荷が高まっています。こうした状況の中、規模に応じて拡張できる自動化養殖技術は欠かせません」とライブネル博士は強調します。「私たちの試算では、初期生存率が15~25%向上すれば、養殖場全体の実効的な生産量は大幅に増加します。」
OISTのチームは現在、商業ふ化場でのシステム検証、対象生物種の試験拡大、大規模養殖事業向けプラットフォームの拡張に向け、産業界パートナーを募集しています。
References
1 – Food and Agriculture Organization of the United Nations (FAO), The State of World Fisheries and Aquaculture 2024
2 - Chary K, Brigolin D, Callier MD (2022) Farmscale models in fish aquaculture–An overview of methods and applications. Reviews in Aquaculture 14(4):2122-57.
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