OISTから新たなスタートアップ「Kwahuu Ocean」が誕生

持続可能なイカの養殖を提案

沖縄科学技術大学院大学(OIST)の研究成果を基に、持続可能なイカ養殖システムの事業確立を目指すスタートアップ「Kwahuu Ocean株式会社(カフーオーシャン)」が2024年6月に設立されました。

Kwahuu Oceanは「海と人を繋げ7世代先の人類の安定と幸福を実現するための思想と社会システムを構築する」をミッションに掲げ、沖縄県に密着した事業を進めています。社名の「Kwahuu」は、沖縄の方言「かふー(果報)」に由来し、人々の幸せと海や自然環境の持続可能な未来への願いが込められています。現在、県内の漁業組合の協力を得ながら、世界初となるアオリイカ(沖縄ではシルイチャーとも呼ばれている)の陸上養殖施設の建設に取り組んでいます。

アートから科学へ
Kwahuu Oceanの創業者兼CEOである中島隆太博士は、もともと現代美術の分野でキャリアをスタートさせ、ミネソタ大学ダルース校美術学部教授を務めているという経歴を持つアーティストでもあります。中島博士は、イカやタコといった頭足類の行動に興味を抱き、アートの分野を超えて、生態学の世界へと探求の領域を広げました。2009年からは、アートと科学を通じて彼らの体色変化やコミュニケーション方法を探求し始めます。たとえば、イカやタコにピカソの絵を見せて反応を観察する実験を行うなど、芸術と科学が交わる新しいアプローチを展開しました。この経験を通じて、「視覚、認知と表現する」というアートの本質が、生物学的な視点と共通していることに注目し始めます。

そんな中、中島博士は、テキサス大学や琉球大学にて研究する機会を得て、2017年にはOISTでジョナサン・ミラー教授が率いる物理生物学ユニットの客員研究員として研究を開始しました。同時期にOISTの臨海実験施設「マリン・サイエンス・ステーション」が設立され、OISTでの実験に必要なイカやタコの飼育が始まりました。しかし、飼育には多くの技術的な挑戦が伴いました。例えば、飼育環境に適した餌を見つけることや、適切な水温や水質の管理といった細やかな調整、感染症、さらに、イカはストレスに非常に敏感であるため、飼育環境を常に最適化することが求められました。中島博士は「これらの課題は容易ではありませんでしたが、OISTの研究者たちの専門的な知見や、充実した設備や支援が課題解決に大きく貢献しました。ここでの取り組みが、イカの飼育技術を飛躍させました」と話します。

OIST発の養殖技術
2022年8月、OISTマリン・サイエンス・ステーションにおいて、イカの累代飼育10世代を達成するという快挙が成し遂げられました。この成果は、世界的に見ても例のない偉業であり、沖縄内外で大きな注目を集めました。イカは非常にデリケートな生物であり、長期間にわたる安定した飼育が困難とされてきましたが、それを10世代にわたって維持し、成功させたのです。

この成果は研究の枠を超え、社会的にも大きな反響を呼びました。沖縄県のアオリイカの年間漁獲高はその最盛期の98%減と壊滅的危機となっており、そんな中、漁業関係者や企業からも「近年イカの不漁で非常に困っている。この技術に大きな期待を持っている」という切実な声が数多く寄せられました。地域からの期待の大きさを目の当たりにし、中島博士は「この研究成果が、社会にとっても非常に大きな意義を持つことを実感した」と語ります。

そして2024年6月、このプロジェクトに携わっていた中島博士は、OISTで海洋研究の技術員をしていた高宮城大樹さんとともに、Kwahuu Oceanを共同創業しました。同社はライフタイムベンチャーズから資金調達を受け、さらなる技術開発と実用化に向けた取り組みを進めています。

持続可能なイカ養殖システムの構築へ
アオリイカの安定的な累代飼育を可能にする技術については、OISTが特許を取得しており、Kwahuu Oceanは、この特許技術と飼育管理のノウハウを活用し、持続可能なイカの生産システムの構築を目指しています。Kwahuu Oceanの特徴は、大量生産ではなく、より持続可能な産業を実現するための、自然資源の有限性と生物のライフサイクルに見合った、小型分散型の養殖システムの構築を目指す点にあります。将来的には、単なる養殖事業にとどまらず、生産から消費までを一体的に推進する「6次産業化」すること目指しています。具体的には、人工産卵礁の設置や藻場再生などの海の活性化といった整備や、漁業者に対し、同システムを活用した経営・事業形態を提案すること等、多角的なアプローチを検討しています。そうした取り組みを通して人と文化に寄り添ったものづくりによる自然の活性化とそれに伴う人と社会の成長の促進を目指していると中島博士は話します。また、中島博士は、「沖縄の伝統料理『イカ墨汁』も本物を味わうことが少なくなってきています。養殖イカの生産により、沖縄の限りある自然を大切にし、その海の恵みに感謝し、沖縄の伝統料理をいつまでも楽しめるようになってほしいです」と述べ、食文化を長く後世まで残すためにも、この事業には大きな意義があると話します。

Kwahuu Oceanの取り組みは、持続可能な海洋資源利用のモデルとして、世界への発信も視野に入れています。「イカは地域と世界をつなぐ架け橋になれる」と語る中島博士。このプロジェクトには、沖縄発の技術が持つ無限の可能性と未来への期待が込められています。

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