2021-05-07

手作りの酸素濃縮装置

インドでは、新型コロナウイルス感染者数がかつてないほど急増しており、医療用酸素の不足が深刻な問題となっています。これを受けて、マヘッシュ・バンディ准教授は、インドのハイデラバードで医療用酸素を生成する2種類の装置を開発しました。

この装置の作り方は、バンディ准教授のウェブサイトで公開されています。

医療用酸素とは、酸素濃度が95%以上の混合ガスのことで、新型コロナウイルス感染症により呼吸困難に陥った重症患者に対する救命治療として使用されています。拡大する需要に対して供給が大幅に遅れているインドでは、闇市場で酸素タンクの価格が市場価格の10倍にまで高騰しているといいます。

マヘッシュ・バンディ准教授は、次のように述べています。「インドは、これまで見たことがないような状況に陥っています。21世紀にこのようなことが起きていることが信じられません。誰もが知人を亡くしていて、友人や親族が酸素を緊急に必要としています。」

この危機を緩和するため、OISTの非線形・非平衡物理学ユニットを率いるバンディ准教授が、現地で調達した材料を使って大小2つの装置を設計・製作しました。大型の装置は1分間に100リットル強の医療用酸素を生成することができ、持ち運び可能な小型装置は1分間に9リットルの酸素を生成することができます。新型コロナウイルス感染症の重症患者は、毎分約5〜15リットルの酸素が必要とされています。

非線形・非平衡物理学ユニットのマヘッシュ・バンディ准教授が製作した2種類の酸素濃縮装置。左が大型の装置で、右が持ち運び可能な小型装置。

同装置は、化学反応を利用して酸素を生成するのではなく、空気中に含まれる酸素を濃縮します。私たちが吸っている空気は、約78.1%の窒素と約21%の酸素およびその他微量のガスで構成されており、その中から窒素を除去する処理を行うことで酸素を約95%まで濃縮した混合ガスを生成することができます。

「博士課程の学生だった頃、これに似た方法で安価に実験用の純酸素を作ったことがあります。しかし、今回の最大の課題は、実験室が無い場所でこれらの装置を作ることでした」とバンディ准教授は述べています。

同装置は、空気圧縮器で加圧した空気の流れを作り、シリカゲル製の空気フィルターに通して装置の効率を低下させる不純物や水蒸気を除去します。

加圧した空気をこのようにしてろ過した後、窒素除去のサイクルに進みます。このサイクルでは、4つの標準的なステップで、空気の流れがゼオライト(分子のふるい分けをする人工化合物)が入った2種類のシリンダー間を交互に行き来します。バンディ准教授が今回の装置に使用したのはゼオライト5Aと13Xで、窒素分子を付着させて酸素を通過させます。

窒素分子を構造体に付着させて酸素分子を細孔から通過させることで分子のふるいとしての役割を果たすゼオライト5A。

第一ステップでは、空気を最初のシリンダーでろ過し、濃縮酸素を酸素タンクに貯蔵します。しかし5分後には、シリンダー内のゼオライトがそれ以上の窒素分子を保持できなくなります。

第二ステップでは、ゼオライトに付着した窒素を除去します。これには、バルブを使用して加圧された空気の流れを2番目のシリンダーから最初のシリンダーへと100秒間誘導し、濃縮酸素でゼオライトから窒素を払い落として大気中に放出させます。

第三ステップでは、加圧された空気を引き続き2番目のシリンダーに通過させますが、今度は酸素貯蔵タンクに誘導します。5分後、2番目のシリンダーが窒素を保持できなくなるので、第四ステップで、最初のシリンダーから2番目のシリンダーに再び空気を送り込み、100秒間窒素を除去します。

バンディ准教授は、「このサイクルを何度も繰り返すことで、高濃度の酸素をほぼ継続的に供給することができます」と説明します。濃縮酸素はその後タンクに貯蔵されるため、窒素を除去する際に酸素供給が一時的に停止しても、患者に影響はありません。

4つのステップを繰り返して濃縮酸素を生成するサイクル。青と赤の矢印は、各ステップでの装置内の加圧空気の流れの変化を示している。

現在、この装置で使用されているバルブは手動式で、装置が作動している間は、誰かが継続して空気の流れを管理しなければなりません。バンディ准教授は、人為的なミスを防ぎ、動作時間を長くすることができる自動バルブが将来供給されることを期待しています。

バンディ准教授は、同装置は低温で効率的に作動することと、窒素の蓄積を防ぐために風通しの良い場所で使用することを付け加えています。

同装置の作り方をウエブサイトで発表してて以来、インド国内の5つのインキュベーター企業に3つの非政府組織、そして6つの研究チームが、医療用酸素を切実に必要としている人たちのためにこの酸素濃縮装置の製作と出荷を開始したと連絡がありました。

「すでに自分で装置を作り始めている人たちがいるという話を聞いて、驚いています。これらの装置は複雑に見えても実は非常に単純にできていて、新型コロナウイルス感染症の重症患者の生死を分けるものになります。これらの装置によって、失われていたかもしれない命が1人でも多く救われれば、努力の甲斐があったと思います」とバンディ准教授は語っています。

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ヘッダー画像:2021年4月22日、インドのニューデリーにある国内最大級の新型コロナウイルス感染者専用施設であるLok Nayak Jai Prakash Narayan(LNJP)病院の外で酸素マスクをつけて座る患者(ロイター/Adnan Abidi)

(ダニ・アレンビ)

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