排水から価値あるもの?新技術で環境にやさしい養豚業が可能に

新たな硝酸除去装置が沖縄で試験的に導入され、養豚場からの排水を浄化できることが最近の研究で明らかになりました。

本研究のポイント

  • OISTの生物システムユニットの研究チームは、養豚原水と曝気処理水の両方を処理する装置を開発した。

  • 同装置では、細菌群が養豚原水に含まれる有機物と曝気処理水に含まれる硝酸とリンを除去する。

  • 同装置は容易に組み立てられ、メンテナンスが少なくて済む。

  • 実験室および沖縄の養豚場の両方で行われた実証実験で、同装置が機能することが示された。

研究について

沖縄県において養豚業は、島の経済と文化にとって大きな役割を担っています。内閣府によると、2018年時点で、225,000頭以上の養豚が県内で飼育されています。豚肉は沖縄の食生活において重要な食材であり、沖縄料理店で提供される多くの料理にも使われています。しかし、養豚場が与える影響の中には、地域住民からあまり歓迎されないものもあります。それは、悪臭です。養豚場が多い地域を車の窓を開けたまま通過すると、窓を開けていたことを後悔することもしばしばです。

沖縄県内の養豚場で母豚が子どもに授乳する様子 写真提供:沖縄県畜産研究センター

この悪臭の原因の少なくとも一部は、養豚の副産物です。沖縄県全域で、畜産農場から大量の排水が発生しています。このような排水を処理するため、沖縄科学技術大学院大学(OIST)の生物システムユニットの研究チームが新たな装置を開発し、県内の養豚場での実証実験に成功しました。

Bioresource Technology誌に掲載された論文の筆頭著者であるアンナ・プロホロヴァ博士は、次のように説明しています。「私たちが開発した新装置は、2槽式(チャンバー)です。一方のチャンバーでは、養豚原水を処理して有機物、臭気や病原菌等を除去し、もう一方のチャンバーでは、従来の曝気槽で処理した排水から余分な硝酸とリンを除去します。私たちの知る限り、この技術を用いて2種類の排水を同時に処理することができるのは、この装置が初めてです。」

現在畜産農家で利用されている典型的な排水処理施設では曝気装置によって主に排水中の有機物処理を目的としており、また排水中のアンモニウムを硝酸に変換しますが、硝酸をさらに分解することはありません。今後日本政府は、畜産業の硝酸の排水基準の上限を、他の産業と同等の一般排水基準となるように現在の5分の1に引き下げる予定です(現在の硝酸性窒素等の暫定排水基準値は1リットルあたり500ミリグラム)。沖縄県の調査によると県内の35%以上の農場からの排水が新たな基準値を超えてしまうことになります。

生物システムユニットのグループリーダーである貝沼真美博士は、次のように説明しています。「放流された硝酸汚染は、人の健康と環境の両方に深刻な影響を及ぼす可能性があるため、大きな懸念事項です。硝酸は、人が摂取すると亜硝酸に変換され、血液の酸素運搬能力に影響をきたし、メトヘモグロビン血症やブルーベビー症候群を引き起こす可能性があります。」

主に有機物を処理してアンモニウムを硝酸に変換する従来の曝気施設

この度開発した新装置では、排水処理を開始するのに豊富な細菌群が必要です。第1チャンバー(アノードチャンバー)では、細菌が有機物と反応し、その工程で電子を放出します。この電子は、電極を介して第2チャンバー(カソードチャンバー)に移動します。カソードチャンバーには、既に曝気工程を経た排水が入っており、高濃度の硝酸が含まれています。カソードチャンバーの表面に付着している細菌は、この電子を受け取り、硝酸を窒素ガスに変換する動力源とします。この装置の利点は、すでに曝気処理された水のように有機物が少ない排水でも硝酸を除去できることです。

OIST生物システムユニットの研究チームは、2種類の排水を処理する独創的な方法を考案した。微生物を利用することで、排水処理を進めると同時に、排水から大切な栄養素も回収する。同装置は、イオン交換膜で隔てられた2つのチャンバーを持つポリアクリル製の反応装置と3つの電極で構成されている。

実験室での検証に成功した後、研究チームは沖縄県環境科学センターと(株)沖動薬の協力を得て、沖縄県畜産研究センター施設内の養豚場で最初の実証実験を行いました。そこで、曝気槽と養豚原水の両方を利用することができました。このプロジェクトは沖縄県から補助を受け、1年以上にわたってモニタリングを行いました。また、同装置では細菌群が重要な役割を果たすため、研究チームは、どの細菌類が存在し、時間の経過とともに細菌群の構成がどのように変化し、どの種が各段階を担っていたかを分析しました。

長期実験の結果、硝酸を除去する細菌の中で最も多くみられた脱窒菌は、電子を受け取って増殖できる種であることがわかりました。排水処理中に電極に-0.4V〜-0.6Vの範囲で電圧を印加すると、その細菌が活性化され、より効率的に排水処理を行うことができました。これらの細菌は、カソードチャンバー内の細菌群の60%以上を占め、その後も強い活性を維持して高い硝酸還元率を達成しました。また、養豚排水に含まれる有機物、特に揮発性脂肪酸が分解されることで、悪臭が緩和され、病原菌の数が減少したことも大きなメリットでした。

「これまでの成果にとても満足しています。この装置は、予想していたよりもはるかに効率的です。さらに拡張性があり、低コストで組み立ても容易で、メンテナンスも少なくて済みます。今後数年のうちに、県内の農家をはじめ、日本本土や東南アジアの農村部など、同様の問題を抱える地域で活用されることを期待しています」とプロホロヴァ博士は語っています。

本研究は、OISTの概念実証プログラム「POCプログラム」として継続される予定です。

論文情報

  • 論文名: Concurrent treatment of raw and aerated swine wastewater using an electrotrophic denitrification system
  • 掲載誌名: Bioresource Technology
  • 著者: Anna Prokhorova, Mami Kainuma, Rie Hiyane, Susan Boerner, Igor Goryanin
  • DOI: https://doi.org/10.1016/j.biortech.2020.124508

広報・取材に関するお問い合わせ:media@oist.jp

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