2016-06-13

新たなナノ粒子構造「浮き球」構造の発見

 時として、極めて小さなものが、とてつもなく大きな変化を世界にもたらします。その一例がナノ粒子です。ナノ粒子は非常に小さいものですが、医薬、製造、エネルギーなど様々な分野で重要な役割を果たしています。この度、沖縄科学技術大学院大学(OIST)の研究チームが、ひとつの元素を核とし、別の元素がその周りを「カゴ」のように取り囲む、銅-銀ナノ粒子のユニークな構造を発見しました。この「カゴ」は、核の特定の場所を避けて核を覆い、見た目は、日本の漁業で使用されてきた伝統的なガラス製の浮き「浮き球」の網と似ています。

 これまで知られていなかったこの「浮き球」構造により、本研究チームが目指す最適なナノテクノロジーの開発に役立つ特性がもたらされる可能性があります。この度、その研究成果が、Nanoscale に発表されました。

 本論文の筆頭著者で、OISTナノ粒子技術研究ユニットのグループリーダーを務めるパナジオティス・グラマティコプロス研究員は、「この浮き球(と呼ぶナノ粒子)の構造は珍しいものです。つまり、他には無い特性を持っている可能性があります。」と述べ、「その構造が明らかになることで、応用目的に合わせて微調整を行うことができるようになると考えられます。」とその可能性を語りました。

日本製のガラスの「浮き球」

日本の漁業に用いられてきたガラスの浮き球に似た新たなナノ粒子構造が発見されました。このナノ粒子は、ひとつの元素(銅)を核とし、別の元素(銀)がその周りを「カゴ」のように取り囲む構造を持っています。銀が核となる銅の特定の場所を避けて覆う様子が、浮き球に掛かる網と類似しています。

 OISTの研究チームは生物医学技術に応用可能なナノ粒子の作製・設計に取り組んでいます。特に、研究チームは、体内の状態をスマートフォンに送信することで、病状の診断の精度を高めるスマートガスセンサーなどのような技術への応用に最適なナノ粒子の設計を目指しています。他の応用例として、蛍光マーカーや放射性マーカーを用いずに化学物質を検出できるマーカーを用いないバイオセンサーがあげられます。こうした研究において、新たな構造の発見は技術進歩の可能性を広げるものであり、「浮き球」構造の発見は重要な意味を持ちます。

 本論文の著者のひとりであり、ナノ粒子技術研究ユニットを率いるムックレス・ソーワン 准教授は「より多くのパラメータが制御可能となることで、応用や機器への活用の幅が広がります。こうしたことから、ナノ粒子のサイズや、化学的組成、結晶化度、形状、構造といった多くの特性を目的に合わせて最適化する必要があります。」と説明します。

 「浮き球」構造は、マグネットを用いて磁場の中に電子を囲い込むことで濃いプラズマ領域を作り、ターゲットの原子を飛び出させ、対向する基板上に付着させることが可能なマグネトロン・スパッタリング装置を用いて、銅と銀のそれぞれのターゲットを高温で同時にスパッタリングした際に発見されました。原子の温度が下がると共に、それぞれの原子が結合し、二元金属ナノ粒子となります。銀と銅のターゲットをスパッタリングする出力を制御することにより、銀と銅の比率を制御することができます。研究チームは、「浮き球」構造は、銅の原子が銀の原子に比べて多い際に生じることを発見しました。これは、銀原子の方がナノ粒子の表面に拡散する性質が強いからです。研究チームはこうした実験結果から、どのように「浮き球」構造のナノ粒子が形成されるかを分かりやすく示すシミュレーションを作成しました。

2016-06-10

<p>銀(青色)が銅(赤色)に付着し、銅の周りに広がっていきます。その際、銀が、核となる銅の「四隅」に当たる場所を避けて取り囲む特徴的な構造を形成します。この構造が、日本の漁業で使用されてきた伝統的なガラス製の浮きと似ていることから、「浮き球」構造と名付けられました。</p>

 研究チームは、現在、この構造が他の種類のナノ粒子でも再現できるか調べています。この研究は、生物医学やナノテクノロジーへの応用に向けたナノ粒子の最適化を大きく前進させる可能性を秘めています。

 「私たちは、生物医学やナノテクノロジーへの応用に向けたナノ粒子の設計及び最適化を図っています。「浮き球」構造の発見により、こうした目的に活用できる新たな特性がもたらされるかもしれません。」とソーワン准教授はその可能性に言及しました。

 本研究の実験を担当した共著者のアントニー・ガレアさんは、現在はOISTの技術移転セクションにて、このような研究成果が産業として応用できるように技術移転を支援しています。

 ガレアさんは、「私たちの役割りは、OISTの研究室で生まれた成果を実社会に橋渡しすることです。それにより、ナノ粒子技術研究ユニットの研究を含むOISTの研究活動を社会に役立てることができます。」とその意義を語りました。

(ホフランド レベッカ)

広報や取材に関して:media@oist.jp

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