将来のカタチ

鉄ナノキューブが、将来的に二酸化窒素センシングの鍵になる可能性が見い出されました。

  ナノ粒子が発見されたのは、ごく近年だと思われるかもしれませんが、この微細な物質は何世紀も前から利用されてきました。ローマの職人が4世紀に作ったとされる、有名なリュクルゴス・カップは、二色性のガラスを特徴とし、金と銀のナノ粒子を全体に散りばめてあり、正面から光が当たると緑色を放ち、後ろから光を照らすと赤く発色します。

The Lycurgus cup is an example of ancient artisans’ use of nanoparticles in works of art. The gold component is thought to be responsible for the red color when illuminated from behind, and the silver particles are responsible for the green appearance when light is shining on it from the front.

古代の職人たちがナノ粒子を利用した芸術作品の例であるリュクルゴス・カップ。カップの後ろから光を照らすことで、金の成分により赤色に見え、正面から光が当たると銀の成分により緑色になる。

  古代の職人たちが活躍した時代から長い年月を経て、科学者たちはナノ粒子について理解しようと試みてきました。その中でもナノキューブの作製は、バイオセンサーやガスセンサーとして応用できる可能性があることから、とりわけ注目されてきました。ナノ粒子は、物理的または化学的手法で作製することができますが、物理的手法の有利な点は、化学的手法で通常見られる有機物質による汚染がない点です。ただ、物理的手法では均一な大きさのナノキューブを必要な量作製するのは困難という課題があります。そこで、沖縄科学技術大学院大学(OIST)のナノ粒子技術研究ユニットの研究員らはこの課題に取り組み、この困難を打開する新しいアプローチを発見しました。この研究成果は、この度Advanced Functional Materialsに掲載されました。

Nanoparticles by Design Unit members: (from left to right) Dr. Stephan Steinhauer, Dr. Jerome Vernieres, Prof. Mukhles Sowwan, and Dr. Panagiotis Grammatikopoulos

ナノ粒子技術研究ユニットのメンバー。(左から)ステファン・シュタインハワー博士、ジェローム・ヴェルニア博士、ムックレス・ソーワン准教授、パナジオティス・グラマティコプロス博士

  「キューブという形は、鉄ナノ粒子にとって最もエネルギー的に低い構造ではありません。」と、本研究論文の筆頭筆者であるジェローム・ヴェルニア博士は説明します。「このことから熱力学的平衡の結果、鉄ナノ粒子が自律的にナノキューブの形を構築することはありません。」その代わりOIST研究者らは、ムックレス・ソーワン准教授の指導の下、マグネトロン・スパッタ不活性ガス凝集法を用いて独自の鉄ナノキューブを作製する方法を導き出しました。その方法とは、最初にアルゴンガスを熱し、プラズマイオン化します。そして、今回目的の物質は鉄であるため、鉄のターゲットの後ろに磁石を適切に設置します。これによりプラズマの形状を操作し、アルゴンイオンが確実にターゲットに照射するように定めます。マグネトロンという名前はこの操作に由来して命名されました。この結果、ターゲットから鉄原子がはじき出され(スパッタが起こる)、アルゴン原子と、また鉄原子同士が互いに衝突することでナノ粒子を形成します。磁場を制御することで、プラズマの精密な操作をし、均一なナノキューブを作製することを可能にします。「センサーへの応用には、均一であるということが要となります。ナノキューブの作製段階において、そのサイズ、形状そして数量をコントロールする方法が必須です。」と、ステファン・シュタインハワー博士が解説します。

This schematic depicts the production of iron nanocubes using magnetron-sputtering inert-gas condensation and the use of these cubes in NO2 sensors.

マグネトロン・スパッタ不活性ガス凝集法を用いた鉄ナノキューブ作製及び、二酸化窒素センサーにナノキューブを利用する様子を図解で表している。

  ナノキューブのサイズおよび形状を制御するために、研究者らはシンプルであるにもかかわらず重要な洞察を得ました。それは、鉄そのものが磁気をもつ物質であるということです。言い換えれば、研究者らはターゲットに本来備わっている磁性を、マグネトロンの磁場を修正するためにそれ自身を利用する、革新的な方法を見出したのです。この方法により、粒子が形成される位置のプラズマを操作し、その結果、形成段階にあるナノキューブの大きさをコントロールすることが可能になったのです。「大量生産に応用可能な、物理的手法による均一な鉄ナノキューブを作製するのはこれが初めての試みでした。」と、ヴェルニア博士が明らかにします。

  研究者らが大きさの統一された鉄ナノキューブの作製方法を見出した後に次のステップとして目指したのは、このようなナノキューブをセンサーとして活用できる電子デバイスを組み立てることです。シュタインハワー博士は「これらのナノキューブが二酸化窒素のあらゆる気体レベルに対して非常に感度が強いことに目を付けました。二酸化窒素を感知する機能は、喘息を持つ患者の診断や環境汚染物質の検出など、さまざまな目的で利用されていることからここに、私たちの研究を応用できると見極めました。」と説明します。ナノ粒子技術研究ユニットの研究者らは、フランスにあるトゥールーズ大学の研究チームと協力し、二酸化窒素ガスに触れることで鉄ナノキューブの電気抵抗の変化を測定する二酸化窒素センサーの試作品を組み立てました。ごく微量の二酸化窒素への暴露であっても、他の大気中の汚染物質よりも電気抵抗に大きな変化を生み出すことから、製作する鉄ナノキューブを用いたセンサーは非常に敏感で特殊です。「このナノキューブは、多様なものに活用できる可能性があります。一般的な合成手法を使って比較的大量かつ均一サイズのナノキューブを作製できるという事実は、この研究が産業への応用として非常に有望であることを示唆します。」とヴェルニア博士は強調しました。

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