太陽電池の新たな技術

コスト効率の良い再生可能エネルギー利用の夢がかないつつあります

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  エネルギー保全に伴う高い環境コスト、そして有限な化石燃料により、再生エネルギーの重要性は、近年ますます明白になっています。しかし、人類が使用する太陽光エネルギーを効率よくつくりだすことは困難な課題です。太陽光エネルギーを取り込むのにシリコン系太陽電池が使用されていますが、産業ベースで生産するにはコストがかかります。沖縄科学技術大学院大学(OIST)のヤビン・チー准教授が率いるエネルギー材料と表面科学ユニットでは、太陽電池に有機金属のハロゲン化ペロブスカイトフィルムを使用することに焦点を充てています。このペロブスカイトフィルムは、多くの異なる化学材料からなる非常に結晶度の高い材料で、低コストで作製することができます。チー准教授の研究ユニットから最近発表された複数の論文は、ペロブスカイトフィルム研究における3つの異なる領域において技術革新を示しています。一つ目はペロブスカイトの効率や安定性を改善するアニーリング(焼きなまし)と呼ばれる熱処理後の新たな処理工程、二つ目はある特別なペロブスカイトにおける分解生成物の発見、三つ目は大型化しても太陽光発電効率を維持するペロブスカイトを生産するための新たな手法です。

  太陽電池として役立つため、ペロブスカイトのフィルムは、コスト効率もエネルギー効率も良く、比較的製造が容易で、屋外環境でも長期にわたり耐え得るように太陽エネルギーを取り込む必要があります。チー准教授のユニットに所属するジャン・イェン博士は、有機金属のハロゲン化ペロブスカイトMAPbI3の太陽電池効率の改善に役立つ研究をMaterials Horizons誌に発表しました。ジャン博士は、アニーリング工程後にメチルアミン溶液を使用すると、結晶粒界に関わる問題を軽減できることを発見したのです。結晶粒界とは、結晶領域において隙間として現れるもので、電荷再結合につながってしまう可能性があります。これはペロブスカイトフィルムにおいてよくみられる問題で、効率が下がってしまうため、結晶粒界の問題の改善は、高い性能を維持するのに不可欠です。結晶粒界を融着させたジャン博士の新たなアニーリング工程後の処理は、荷電再結合を減らし、18.4%という卓越した変換効率を示しました。同博士が処理を行ったペロブスカイトフィルムはまた、他には見られない安定性と再現性を実現し、産業用の太陽電池製造に役立つことがわかりました。

ジャン博士の新しいアニーリング工程後の処理により結晶粒界が融着している
アニーリング工程後のMAPbI3ペロブスカイトフィルムにおける結晶粒界(a)、DMF溶媒を使用したアニーリング(b)、アニーリング工程後のメチルアミン処理の比較。アニーリング工程後のメチルアミン処理においては、結晶粒界が融着し、境界がより明瞭でなくなっており、最も改善が見られている。

  ペロブスカイトを使用する際の最たる難点の1つは、シリコン系の太陽電池に比べ、相対的に寿命が短いことです。長期間にわたり屋外環境に耐え得る太陽電池を作るためには、ペロブスカイトの分解生成物を測定することが決め手となります。MAPbI3ペロブスカイトフィルムに関するこれまでの研究では、この物質の熱分解による気体生成物は、メチルアミン(CH3NH2)とヨウ化水素(HI)という結果が出ていました。しかし、Energy & Environmental Science誌に掲載された、同じくチー准教授のユニットのエミリオ・ファレス・ペレス博士の非常に興味深い新たな研究結果によると、劣化によって生じた気体のほとんどがヨウ化メチル(CH3I)とアンモニア(NH3)だったことがわかりました。ペレス博士は、これらの物質の失われた質量と化学的特質を正確に測定するため、熱重量差動熱分析(TG-DTA)と質量分析器(MS)を用いました。分解生成物が正確に測定された結果、研究者らは、材質劣化を防ぐ方法を模索することが可能になり、今後より安定的に材料を使用できるようになりました。

MAPbI3ペロブスカイトフィルムが分解すると、ヨウ化メチルとアンモニアの気体が生じる
MAPbI3ペロブスカイトフィルムでは、分解に伴い、ヨウ化メチル(CH3I)とアンモニア(NH3)が生成されることが、熱重量差動熱分析と質量分析計により測定された。

  学術研究においてよくあることですが、実験レベルから産業に応用するための大型化ができないという問題が広く見られます。ペロブスカイトフィルムは研究室で小規模に作製するのは比較的容易ですが、大量生産に必要な大規模レベルでの複製には困難が伴います。この度、Journal of Materials Chemistry A誌に掲載されたマシュー・ライデン博士による新たな研究は、産業用のペロブスカイト生産をかなり容易にする可能性を持っています。ライデン博士は、大型の太陽電池とFAPbI3ペロブスカイトのモジュールの作製において、産業界でよく使われているコスト効率の良い手法である化学蒸着を用いています。本研究結果は、産業界で広く使われている手法を用いることでペロブスカイト太陽電池とモジュールの作製を初めて実証したことになり、ペロブスカイトフィルムの大量生産の実用化に近づいたことになります。学術会でよく研究されていたものは、<0.3cm2未満というサイズでしたが、今回作製された太陽電池とモジュールは、従来型よりもかなり大型で12 cm2といった例もあります。今回の太陽電池モジュールはまた、耐熱性も強化され、相対的に高い効率となっています。多くのペロブスカイト太陽電池は、サイズが大きくなると効率がかなり低くなるので、この特徴は特筆すべきものであり、これにより、本研究が商業目的に有用なものとなっているのです。

MAPbI3ペロブスカイトフィルムが分解すると、ヨウ化メチルとアンモニアの気体が生じる
上図はペロブスカイトフィルムが化学蒸着(CVD)技術を用いてどのように作製されるかが描かれている。左下図はCVD技術を用いて作製されたペロブスカイトの太陽電池モジュール、右下図は、同技術を用いたOISTのロゴ付きのペロブスカイトである。

  チー准教授の研究ユニットでは、効率、寿命、大型化の問題を解決することでペロブスカイトを大量生産に一歩近づけることができました。この分野におけるさらなる研究で、同ユニットは、コスト効率の良い再生可能エネルギー利用の夢を現実のものにしてくれるでしょう。

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