「水やり」で太陽電池の性能を伸ばす

OISTの研究チームが、ペロブスカイト太陽電池を空気にさらすことで電気特性が向上する原理を解明しました。

 ペロブスカイト太陽電池は太陽光発電業界の希望の星と言えます。開発されてから10年に満たないにも関わらず、エネルギー効率は開発当初の2倍になり、現在では22%を超えるという、再生可能エネルギー部門において目覚ましい発展を遂げています。ペロブスカイト太陽電池の特徴は、その名前の通り、光をエネルギーに交換するペロブスカイト層にあり、従来の結晶シリコン太陽電池より軽く、安価で、柔軟性があります。

 ペロブスカイト太陽電池は通常、作製後に数時間、空気に触れさせる工程を伴います。これは電池の発電効率を向上させるためですが、その原理は必ずしも明確にはなっていませんでした。この度、沖縄科学技術大学院大学(OIST)のヤビン・チー准教授が率いるエネルギー材料と表面科学ユニットの研究チームがこのプロセスに科学的な解釈を与える発見を行い、その研究成果をAdvanced Materials Interfacesに発表しました。

 論文の筆頭著者で、OISTの博士課程の学生、ザファー・ハワッシュさんは、「ペロブスカイト太陽電池の効率を向上させるために、なぜ空気にさらす必要があるのか、とても興味深いです。」と言います。研究チームは、まず空気のどの成分がこの現象に関連しているのかを解明するために、太陽電池の一番上の層に着目しました。

 これは理にかなっていると言えます。というのは、ペロブスカイトを構成する各層が電池効率に関連しているとしても、空気に直接触れるのは最上層だからです。つまり、最も外的環境の影響を受けると考えられるのはこの層です。「ホール輸送層」と呼ばれるこの最上層は、材料の導電性を向上させるドーパントという物質を含んでいます。「ホール輸送層のドーパントがペロブスカイト太陽電池の性能に重大な影響を及ぼしていることが知られていますが、その原理は明確になっていませんでした。」とハワッシュさんは言います。

 研究チームは、酸素と窒素、そして空気中の水蒸気に着目し、条件を変えながらホール輸送層を気体にさらす実験を行いました。それから様々な手法を用いて、ホール輸送層の電気特性を調べ、輸送層の内部に変化が生じたか、また、それがどのような変化であったかを検証しました。「その結果、酸素と窒素はドーパントの再配分には影響していないことが分かりました。」とハワッシュさんは言います。「しかし、水蒸気の場合は太陽電池の効率が上昇しました。材料全体にドーパントの再配分を生じさせ、太陽電池の電気特性の向上をもたらしていた空気の成分は水蒸気だったのです。」

 研究チームは、この現象は輸送層の構造にあると説明します。輸送層には、小さなピンホールが多数存在し、気体がそこから下の層へ通過します。輸送層に添加されているドーパントはリチウム塩 、LiTFSIです。塩であることから、このドーパントは吸湿性の性質を持っています。太陽電池が水蒸気にさらされると、輸送層によって吸収された水分がドーパントの再配分を引き起します。しかし、水蒸気にさらす時間が長すぎると、逆に太陽電池に悪影響がもたらされます。

 実験の過程で、研究チームは太陽電池の性能における酸素の役割りについても確認をすることができました。ハワッシュさんは、「酸素も輸送層の導電性の向上に貢献しています。しかし、その効果は持続しません。一方、水蒸気に適切な時間さらすことで、電気特性は恒久的に向上します。」と説明します。

  太陽電池を作製後に水蒸気にさらすことが、性能を向上させる最も効果的な方法と言えます。直観的な印象とは異なり、ペロブスカイト太陽電池が正常に機能するために水分が必要だということが判明しました。この発見はペロブスカイト太陽電池の未来にとって重要な意味を持つと言えます。水分の有効性を裏付ける原理が解明されたことで、ペロブスカイト太陽電池の更なる性能向上がもたらされると期待できます。

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