2015-11-26

アリの性別決定メカニズム

 陰と陽、金星と火星、月と太陽など、男女の関係を表すシンボルは様々ですが、性別の決定はヒトに限らず全ての生物にとって重要な意味を持ちます。沖縄科学技術大学院大学(OIST)生態進化学ユニットの元メンバーで、現在基礎生物学研究所の特別協力研究員である宮川(岡本)美里博士と同ユニットを率いるアレクサンダー・ミケェエヴ准教授が、太古の昔から引き継がれてきたアリの性決定に関わる2つの遺伝的要因を発見しました。本研究成果はこのたび、PLOS Genetics 誌に掲載されました。

 多くの生物の性別は性染色体によって決定されます。ヒトの場合、Y染色体があれば男性になります。しかし、アリやハチなど数十万種の昆虫にはYやXといった性染色体がなく、代わりに精子を卵子と受精させない「単数倍数性」と呼ばれる産み分け法が存在します。このような生殖を行う生物は一般的に「相補的性決定」と呼ばれる性決定機構を有しています。これは、雌は両親からそれぞれゲノムを受け継ぎ、2タイプの性決定遺伝子を持つのに対して(2倍体・ヘテロ型)、雄は母親のみのゲノムを受け継ぐため、1タイプの性決定遺伝子をもちます(単数体・ヘミ型)。

 しかし、近親交配が行われた場合、通常とは異なる状況が生じます。性決定遺伝子はいくつかのバリエーションが存在しますが、血縁集団ではそのバリエーションが減少します。両親からゲノムを受け継いだ2倍体の個体でも、1タイプの性決定遺伝子しか持たなければ雄に成長します。多くの場合、この2倍体の雄は繁殖能力を持ちません。アリの社会における雄アリの主要な役割は労働よりも生殖活動であることから、不妊の雄の誕生は、単数倍数性の性決定機構における欠陥となります。OISTの研究チームは、相補的性決定機構に関わる遺伝子の特定を目指しています。これまで唯一ミツバチを用いた研究が行われていましたが、アリや他の近縁昆虫類を対象とした研究への進展はありませんでした。

 OISTの研究チームは、日本に生息するウメマツアリ(Vollenhovia emeryi)を用いてアリの性決定に関わる遺伝子の特定に挑んだ結果、その答えとなる一部を発見しました。兄弟姉妹間で遺伝的交雑を繰り返すことで不妊の雄アリを生み出すことに成功し、その現象に関わっている遺伝領域の特定を行いました。その結果、近親交配で生まれた子孫の25%に不妊が見られ、これにはウメマツアリのDNA中にある2ヵ所の異なる性別決定領域が関わっていることが分かりました。1つ目の領域は1億年以上も前から存在しており、2つの遺伝子を含んでいます。同領域はミツバチの性決定システムにも関わっています。2つ目は、これまで科学的に明らかにされていなかった新しい領域で、その機能についてはよく分かっていません。

 ミケェエヴ准教授は、「性決定機構は急速に進化すると考えられていますが、今回のデータによると、ミツバチやアリに見られる性決定機構の起源は恐竜時代にまで遡ることが示唆されています」と説明しました。そして、「性決定機構の分子多様性については未だ解明すべき謎が多く残されています」と、付け加えました。