2014-07-25

不可視領域のシミュレーション

   OISTナノ粒子技術研究ユニットのパナジオティス・グラマティコプロス研究員は、見るにはあまりに小さすぎ、可視化するにはあまりに複雑すぎる粒子の相互作用をシミュレーションしています。これらの粒子の挙動の研究には、分子動力学と呼ばれる計算手法を用います。これは、1兆分の1秒ごとに、粒子の位置とそれに作用する力に基づき、粒子の各原子の位置を計算することを意味します。同研究員は、コンピュータプログラムを用い計算を行い、可視化ソフトウェアを用いて、原子の動きをアニメーション化しています。得られるアニメーションは、例えば二つのナノ粒子が衝突する際に起きる事象を原子単位で明らかにします。

   グラマティコプロス研究員は、これらの計算を仮想実験と呼んでいます。この実験は、実験開始前の原子の初期状態と、これらの原子の運動がニュートン物理学の法則に従うことを前提としています。ナノ粒子技術研究ユニットでは、衝突後の粒子の挙動を実験的に研究することもしています。グラマティコプロス研究員は計算で得られたシミュレーションの結果と実験で得られた結果を比較することにより自らの計算の精度を確認しています。

   この度、同研究員はパラジウムナノ粒子がどのように相互作用するかをシミュレーションし、7月22日付けのScientific Reports誌に発表しました。パラジウムは高価ですが、多くの化学反応を起こすのに必要な反応エネルギーを下げることが可能な、非常に有用な触媒です。より性能の高いパラジウム触媒を開発するためには、同じ質量のパラジウムナノ粒子であっても表面積が大きい粒子をデザインする必要があります。なぜならば触媒はその表面積が増すほど、元素同士が接触して反応を起こしやすくする反応の起点となるアクティブサイトが増え、より高い性能になるからです。

   しかしながら、わずか数ナノメートルまで物質を小さくすると、その物質の特性が一部変化する場合があります。たとえば、すべてのナノ粒子は、通常の粒子よりも低温で溶融し、このことは二つの粒子が衝突したときに生じる現象を変化させます。通常、二つの粒子が衝突すると、少量の熱を放出しますが、その二つの粒子は、たいていは同じ状態のままです。しかし、二つ のナノ粒子が衝突すると、放出熱が粒子の表面を溶融し、その粒子が互いに融合する場合があります。

   グラマティコプロス研究員は、様々な温度で衝突して融合するパラジウムナノ粒子をシミュレーションしました。彼は、粒子が融合するごとに、その原子は規則正しい面と列に結晶化し始めると判断しました。高い温度では、粒子同士は融合して1つの均質構造になります。低い温度で融合したものは、様々な向きに結晶化した2、3個のかたまりからできた雪だるまのように見えます。

「シミュレーションにより物理的プロセスを理解することができます」と、グラマティコプロス研究員は述べています。同研究員は、本研究に取り組む前には、彼の研究室の同僚がつくったパラジウムナノ粒子のすべてが、なぜ結晶構造をしているのか、その理由を説明できませんでした。さらに、彼は、多くのパラジウムナノ粒子が突起部を成長させて、でこぼこした形状になることに気づきました。「突起部があるので、他の分子と容易に結合します」と、説明した上で、「この突起部が有益かどうかはまだわかりませんが、明らかに触媒特性に影響を与えているようです」とグラマティコプロス研究員は述べました。

   本研究では、いくつかの基本原則を確立し、パラジウムナノ粒子の一定の特性を明らかにしています。こうした特性を理解することは、パラジウムの触媒としての能力に匹敵するかもしれない他の物質からナノ粒子を設計する際に役立つでしょう。パラジウムは、薬剤をつくることから新たなバイオ燃料をつくることに至るまで何千もの重要な反応に関与しています。例えば、OISTではムックレス・ソーワン准教授のナノ粒子技術研究ユニットとイゴール・ゴリヤニン教授の生物システムユニットは、微生物燃料電池の効率を向上させるために、パラジウム触媒反応に関する研究を行っています。より優れたパラジウムナノ粒子がこの研究を前進させることになるでしょう。

「我々は、基礎科学を理解する必要があります」と、グラマティコプロス研究員のアドバイザーであるソーワン准教授は語っています。同教授によると、ナノ粒子の特性に関してはまだ学ぶべきことが非常に多く、ナノサイエンスの分野はやっと研究の応用に向けて動き始めたところです。「基本を理解せずに、何かを構築するならば、結果について何も説明できないでしょう」と、ソーワン准教授は締めくくりました。

ラッシュ ポンツィー

(ポンツィー・ラッシュ)

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