光ファイバーを伝搬する光を原子でオンオフ操作

OISTの研究チームが、光ナノファイバーを伝搬する光をオンオフ操作するスイッチを開発し、将来的に量子情報通信への応用が期待されます。

 沖縄科学技術大学院大学(OIST)のシーレ・ニコーマック准教授が率いる光・物質相互作用ユニットの研究チームが、将来的にデータ通信への応用が期待される、極細の光ファイバーを使用したオンオフ・スイッチの開発に成功し、その論文が科学誌 New Journal of Physics に掲載されました。

  1100101010101010110011011111110110110011110110001010010011001111110011001100110011000111111100101010010010100100 は二進法で「物理学は面白い」と読めます。コンピュータの世界では、全ての文字や数字、記号、空間、イメージ、音を8つの1と0の組み合わせで表現しま す。例えば、物理学の「物」は 1100101010101010と表します。通常、私たちがキーボードで文字を打つと、それをパソコンが光でコード化した1と0の羅列として標準的な光 ファイバーを介して、離れたところにある別のコンピュータに送ります。そして、光ビームを高速でオンオフすることで1と0を作り出しています。このような ビット単位の情報が、通常はルータやサーバといったノードで電子信号に変換されることで、送信先のコンピュータ上に文字として表示されます。これが従来の 情報通信の方法ですが、OISTの研究者たちは、光と物質の量子特性を利用した、より効率的なデータ転送の方法を模索しています。このたび、OISTの研 究チームは異なる波長の光が存在する条件下でルビジウム原子の量子特性を活用したオンオフ・スイッチの開発に成功しました。このプルーフ・オブ・コンセプ ト(概念実証)システムはインターネットの将来を担う量子ネットワークの構成要素となる可能性を秘めています。

 本研究チームの実験装置 は、異なる波長の光を発生させる2つのレーザーとなる、光を伝送する光ナノファイバー、及びそれを取り巻くルビジウム原子から構成されています。光ナノ ファイバーの特徴はその直径が極めて小さいことです。この実験で使用されたファイバーの直径は350ナノメートル、紙一枚の300分の1の薄さです。これ はファイバーを伝送する光の波長よりも小さいものです。そのため、光の一部はナノファイバーの外に漏れ、ファイバーを取り巻くルビジウム原子と相互作用を 起こします。こうした原子が、現在のサーバにあたるネットワーク上の転送ポイントである量子ノードとして機能します。

 スイッチオフの状態 は、780nmの光を発生させるレーザーのみを使用した際に保たれます。この場合、光ナノファイバーの外に光が漏れる時点で、ルビジウム原子が吸収する光 が最大となり、ファイバーに沿って通過する光はほぼなくなります。これに対し、776 nmと780 nmの両方の波長の光がある際に、スイッチはオンとなります。この条件下では、ほとんどの光が光ナノファイバーを通過し、ルビジウム原子が吸収する光は最 小となります。

 光ナノファイバーが標準的な光ファイバーと直結しているため、基本的に、私たちが自分のパソコンから別の場所にいる友達にメールを送信するときと同じ仕組みで、光を離れた場所にある別の量子システム又はノードに転送することが可能になります。

  シーレ・ニコーマック准教授は、「光ナノファイバーを用いることで、このシステムを既存の光ファイバー通信ネットワークに完全に統合することが可能となり ます。現在の研究が実際に量子情報処理の解決策となるには遠い道のりですが、量子力学に基づいた実用的な装置を原子と光を使って開発するという概念の実現 性を高めたと言えます」と説明します。

 OISTでの実験では今のところ、0/オフ、1/onの連続した列しか作れませんが、原子の量子力 学的ふるまいを更に研究することで、光をオン/オフの組み合わせとして同時に送信することが可能になると考えられます。これが実現すれば、将来的に、量子 ネットワークが同時に多量のデータを処理することが可能となり、情報伝達の効率化、及びサイバーセキュリティの向上につながります。

 本論 文の著者のひとり、ラヴィ・クマール研究員は、アイルランドのユニバーシティ・カレッジ・コークの博士課程に在籍し、OISTの特別研究学生として同研究 チームに参画しています。クマール研究員は、「光の波長よりも直径が小さいにも関わらず、極めて効率的に光を伝送できる光ナノファイバーを使った研究はと ても興味深いです。こうしたシステムは、今後の量子ネットワークの発展に大きく寄与するものだと確信しています」と今後の展望を力強く語ってくれました。

広報・取材に関するお問い合わせ:media@oist.jp

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