ウィスパリングギャラリー現象に基づいた新マイクロレーザー作製法

OISTの研究チームは、単一の構造上に複数のマイクロレーザーを素早く簡単に作製する新手法を開発しました。

 沖縄科学技術大学院大学(OIST)光・物質相互作用ユニットのシーレ・ニコーマック准教授らは、このたび、ガラスマイクロレーザーを作製し、それらを圧縮空気で調整する新技術を開発しました。本研究成果は、ネイチャー・パブリッシング・グループが発行する電子ジャーナル「Scientific Reports」で発表されました。これにより、ガラスマイクロレーザーの連続生産が簡単にできるようになり、光通信や化学・バイオセンシングといった幅広い分野における応用が期待されます。

 マイクロレーザーは、直径数十マイクロメートル単位の微小な光学素子で、たった1色および1種類の波長が強い光を作り出します。OISTの研究チームは、「ウィスパリングギャラリー・マイクロレーザー」と呼ばれる特殊なガラスマイクロレーザーを作製するための新たな手法を開発しました。ウィスパリングギャラリー(ささやきの回廊)は英国ロンドンにあるセントポール大聖堂のドームに由来し、楕円形のホールなどで話し声が反射して遠く離れた人の耳まで声が届く現象を指します。ウィスパリングギャラリー・マイクロレーザーはドーナツや球のような形をした装置で、エルビウムやイッテルビウムといった希土類元素を添加したガラスからできています。繰り返し光を反射させると、砂一粒ほどの小さい装置内に、長さ10~100メートルの光の通り道ができあがります。

 

緑色の蛍光は、円形空洞に閉じ込められた光がウィスパリングギャラリー効果を示している(左画像)。マイクロレーザーから集めたレーザー光は全て同一同種の色と波長を有していることが分かる(右図)。

 研究チームは、石英(二酸化ケイ素)ガラスとリン酸塩ガラス(エルビウムもしくはイッテルビウムを添加剤として使用)の融解温度の違いを上手く利用し、ガラス基板にガラスを付着させるガラスウェッティング方式を用いた新マイクロレーザー作製法を開発しました。この作製法では、1本の糸状のリン酸塩ガラスを溶かし、それをケイ素の中空毛細管の溝に流し込みます。このようなことが可能なのは、ケイ素とリン酸塩ガラスの融解温度が、摂氏1500度と摂氏500度とそれぞれ異なるためです。この技術を使えば、直径およそ170マイクロメートルの瓶型マイクロレーザーを作り出すことができます。そこからさらに瓶型を、直径わずか数マイクロメートルの薄膜に加工し、ケイ素の中空毛細管にコーティングします。

 

ガラス基板上にガラスを付着させるマイクロレーザーの新作製法
ガラスウェッティング新方式でマイクロレーザーを作製。イッテルビウムもしくはエルビウムを添加したリン酸塩ガラス(融解温度:摂氏500度)を溶かし、ケイ素(溶解温度:摂氏1500度)の中空毛細管の周囲に流し込む。

 

薄膜(厚さ約1マイクロメートル)を毛細管周囲にコーティングしたもの。レーザー光は毛細管のあらゆる部分にコーティング可能(白い矢印)。薄膜コーティングによりさらに微小なマイクロレーザーの作製を実現。

 従来の作製法は、球状のマイクロレーザーを1つずつガラス管に付着させるといった骨の折れる作業でしたが、今回開発されたガラスウェッティング技術を用いれば、複数のマイクロレーザーを素早く連続的に作製することができます。

 今回の新技術により、マイクロレーザーの光の波長と色を調整することも可能になります。最適な波長と色は、圧力と温度の最適な組み合わせで決まります。毛細管を通る圧縮ガスで管構造の壁を冷却すると、マイクロレーザーの直径が縮小し、レーザー出力の波長を変えることができます。

 このような技術で作製されたマイクロレーザーを使って、マイクロ流体装置内の空気流量の測定もおこないました。その結果、マイクロレーザーは市場の電子流量計の1万分の一の大きさであるにも関わらず、より高感度で流量を検知できることが分かりました。

 「高品質を保ちながらシステムのサイズと複雑さを変えることなく、レーザーをマイクロスケールで調整することを追及しました」と、本研究論文の第一著者であるジョナサン・ワード博士は振り返り、「この研究成果が、バイオセンシングや光通信機器のスピーディーで容易な製造法実現に向けた一歩となるかもしれません」と期待を込めて語りました。

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