跳ぶジャンクの対処法

佐瀬英俊准教授らは、Nature Communicationsから発行された論文で転移因子の影響を隠すメカニズムをシロイヌナズナから発見したと発表しました。

 遺伝子は、タンパク分子を作ることによって私たちがどのような特徴を持つかを決めています。しかし、中には遺伝情報を含まないような遺伝子もあります。真核生物のゲノムの中には、はっきりとした役割を持たない「ジャンクDNA」が多く含まれます。実際、人間の場合ゲノム全体の98%もがジャンクDNAでできています。

 ではジャンクDNAはどこから来たのでしょうか。ジャンクDNAの多くは転移因子、もしくは「動く遺伝子」と呼ばれる遺伝子群に由来しています。他のDNA配列とは違い転移因子はゲノムの中を動き回り、無作為にゲノムの他の位置に自身を挿入することができます。転移因子の挿入は、遺伝子の発現を変えてしまうため、遺伝病の原因になるなど多くの場合は有害な影響を及ぼします。

 転移因子の影響を私たちは一体どのように抑えているのでしょう。OIST植物エピジェネティクスユニットを率いる佐瀬英俊准教授らは、8月12日付けのネイチャー・コミュニケーション(Nature Communications)から発行された論文で転移因子の影響を隠すメカニズムをシロイヌナズナから発見したと発表しました。彼らがIBM2と名付けたタンパクが転移因子に接合し、遺伝子が通常通り発現されるようになる、という内容です。

 普通の状態では、遺伝子はタンパク生成のコードとなるメッセンジャーRNA(mRNA)へ転写されます。転移因子が遺伝子の中へ跳び込むと、遺伝情報が変更され正しいコードを持つmRNAへ転写されなくなります。これに対抗するため、免疫システムのような防御メカニズムが働き始めます。入り込んできた転移因子に分子が足され、ヘテロクロマチンという不活性化したDNAへ変更されます。しかし、単に転移因子をヘテロクロマチンに変えるだけでは正常なmRNAは転写されません。転移因子に付け足された分子がmRNA生成の邪魔をするからです。正常なmRNAを生成するためには、また別の要因が必要になります。

 そこで活躍するのが今回発見されたIBM2です。IBM2は不活性化した転移因子に接合するタンパクです。IBM2が転移因子にかぶさることによって、転移因子が挿入されなかったかのように転移因子を無視しmRNAの転写が進みます。こうすることによって、mRNA転写を邪魔するヘテロクロマチンがあるにも関わらず正常なmRNAが転写されることができます。

 佐瀬准教授は、このような障害物を乗り越えるメカニズムがあることによって真核生物は複雑な遺伝子制御が可能になったと言います。今回の発見は遺伝子制御のメカニズムがいかに進化してきたかの理解をより一層深めることでしょう。

 

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