2026年5月21日
メタロセンの形成過程を究明
金属原子が二つの炭素環にサンドイッチ状に挟まれた構造を持つ化合物である「メタロセン」は、1950年代に発見されて以来、有機金属化学の中核的存在として、触媒、材料設計、エネルギー、センシング、ドラッグデリバリー(薬物送達)など幅広い分野で応用されてきました。しかし、不安定な中間体は一時的にか存在しない性質であるため、その形成の仕組みについての知見は限られていました。
沖縄科学技術大学院大学(OIST)の研究チームは、この度、学術誌『米国化学会誌(Journal of the American Chemical Society, JACS)』に掲載された論文において、メタロセン形成過程における「二重リングスリップ」反応中間体の完全な構造特性評価を世界で初めて報告しました。この特異な構造の解明により、メタロセンがどのように生成し、分解し、反応するのかについて新たな知見が得られました。さらに本成果は、幅広い応用が期待される刺激に応答するメタロセン系材料の設計に向けた新たな可能性を広げるものです。
乱れたサンドイッチ構造が安定した中間体の発見につながる
フェロセンは、最もよく知られたメタロセンのひとつであり、発見者は1973年にノーベル化学賞を受賞しています。二つの五員環(シクロペンタジエニル環)の間に鉄原子が挟まれたサンドイッチ構造をとり、安定した遷移金属錯体は最外殻に18個の電子を持つという、有機金属化学の「18電子則」を体現しています。
竹林智司博士が率いるOIST有機金属化学グループは、18電子則を超えた新しいサンドイッチ型錯体の創製に取り組んでおり、昨年には20電子フェロセン誘導体を報告しました。同研究では、ルテニウムを用いた同様の20電子錯体の合成も試みましたが、反応の結果として得られたのは18電子錯体でした。この結果が、現在の研究のきっかけとなりました。
「ルテニウム錯体形成反応の過程で中間体の単離に成功し、単結晶X線回折法を用いてその構造を解析しました。驚いたことに、その構造は二重リングスリップ構造であることが分かりました」と竹林博士は述べています。
リングスリップとは、環状分子が金属に結合する際に、結合に関与する原子の数が増減する現象です。今回のケースでは、通常、一つの環につき五つの炭素原子が関与する結合が、わずか一つにまで減少しています。本研究は、二重リングスリップを起こしたサンドイッチ型中間体の分子構造を初めて解明したものであり、メタロセン錯体の形成メカニズムの理解において大きな飛躍をもたらすものです。
研究チームはさらに、NMR(核磁気共鳴)や質量分析など多様な分析手法を用いてルテノセン誘導体の完全な構造解析を行いました。また、計算化学と実験の両面から生成経路を検討し、二重リングスリップ構造から不安定な単一リングスリップ型の中間体が生成することを明らかにしました。
竹林博士は次のように述べています。「近年、メタロセンを材料に組み込むことで新たな特性を引き出そうとする研究が再び注目されています。その反応性や変形挙動を理解することで、ドラッグデリバリー、触媒、センサーなどに応用可能な、特性を自在に調整できる構造の設計が可能になります。」
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