2022-07-02

150年来解釈が分かれていた古代の無脊椎動物の進化の関係に最適解を出した最新の分子遺伝学

本研究のポイント:

  • 曲形(きょくけい)動物(あるいは内肛動物)と苔虫(コケムシ)動物は、小型の水生無脊椎動物で、これら2つの系統は、カタツムリやミミズ・ヒル、ヒモムシなどの近縁である。
  • これらの系統が生物の系統樹で正確にどこに位置づけられるかということや、他の動物とどの程度近い関係にあるのかということに関しては、動物進化生物学者たちも頭を悩ませてきた。
  • これらの疑問に答えるため、本研究において、4種の曲形動物と2種の苔虫動物のトランスクリプトームの塩基配列を、これまでよりもはるかに高い品質で決定した。過去のデータセットの完全性が20〜60%であったのに対し、今回の研究ではトランスクリプトームの完全性が96%以上であった。その結果、これまでの研究で示唆されていたよりも早く、この2つの系統が近縁種から分岐し、「ポリゾア」と呼ばれる別のグループに属することも明らかになった。
  • このデータセットを利用して、その他のグループに属する動物の進化関係の正確な位置づけや、生物がどのように多様化したかなど、進化に関するその他の基礎的な疑問も解明することが可能となる。

プレスリリース:

曲形(きょくけい)動物(あるいは内肛動物)と苔虫(コケムシ)動物は、小型の水生無脊椎動物で、これら2つの系統は、カタツムリやアサリなどの軟体動物や、多毛類・ミミズ・ヒルなどの環形動物、そしてヒモムシなどの紐形動物の近縁です。しかし、これらの動物が生物の系統樹で正確にどこに位置づけられるかということや、他の動物とどの程度近い関係にあるのかということに関しては、動物進化生物学者たちも頭を悩ませてきました。これまでの研究では、常にその位置づけが変わってきています。さらに、曲形動物と苔虫動物はもともと1つのグループに属していると考えられていましたが、その外見や体のつくりに基づいて別々のグループに分類されました。今回、沖縄科学技術大学院大学(OIST)の研究チームは、サンクトペテルブルク大学および筑波大学の研究チームと共同研究を行い、遺伝子に含まれるDNAを構成する「塩基」という物質の配列を解明する最先端のシーケンシング技術と高度なコンピューター解析により、これら2つの系統がこれまでの研究で考えられていたよりも早い時期に軟体動物やミミズから分岐し、実際に別のクレード(分岐群)に属していることを明らかにしました。

OISTマリンゲノミックスユニットのスタッフサイエンティストで、科学誌Science Advancesに掲載された本論文の筆頭著者であるコンスタンチン・カールツリン博士は、次のように述べています。「高品質のトランスクリプトームデータを用いることで、長年の疑問に対する答えを、現在の技術ができる最大限の解明ができました。」

すべての細胞には、ゲノムと呼ばれる一組の遺伝情報が存在し、その中には遺伝子という小さな構成要素が含まれています。遺伝子はDNAの塩基が対になってできています。それぞれの遺伝子には、タンパク質を作るのに必要な指示が含まれているのですが、これによって、細胞が適切に維持管理されています。これらの指示を実行するためには、まずDNAがRNAに転写される必要があり、それによって「トランスクリプトーム」が作られます。トランスクリプトームは、DNAではなくRNAの塩基対に書かれたゲノムの写し絵のようなものです。

この遺伝情報は、生物の種によって異なります。近縁の生物同士は非常に似た遺伝情報を持ち、進化において関係が遠い種は遺伝情報に大きな違いがあります。このデータを用いることで、動物の進化に関してより多くのことが分かってきましたが、いまだ解明されていない謎もあります。

曲形動物と苔虫動物は、軟体動物、環形動物、紐形動物と近縁であるため、遺伝子データに少しの誤りがあったり、データが欠けたりしていると、進化系統樹で誤った位置づけになる可能性があります。さらに、このような小さな動物を採集する際に、藻類などの他の生物が試料に不純物として混ざり込んでしまうこともあります。カールツリン博士は、不純物を注意深く避け、その後集まったデータから藻類や小さな動物のRNAをふるい分けて、それらに由来する可能性のあるものを取り除きました。

研究チームは、合計で4種の曲形動物と2種の苔虫動物のトランスクリプトーム配列を解析しました。その解析は、これまでの研究とは比較にならないほど質の高いものでした。これまでの研究では、データの20〜60パーセントしか揃っていなかったのに対し、本研究では、トランスクリプトームのデータが96パーセント以上揃いました。

これらのトランスクリプトームを利用して、タンパク質を予測し、他の31種の類似データと比較しました。この中には、曲形動物や苔虫動物に近縁のアサリや多毛類などの種や、カエル、ヒトデ、昆虫、クラゲなどの遠い種を含む質の良いデータがあり、これらのおかげで、数多くの種類の遺伝子やタンパク質を同時に比較することができたのです。カールツリン博士は、「OISTでは、研究者が高度なコンピューター解析を利用できる」と研究環境を高く評価します。

本研究で曲形動物と苔虫動物の関係と、生物の系統樹での位置づけが明らかになった。本研究では、これらがこれまで考えられていたよりも早い時期に軟体動物やミミズから分岐し、「ポリゾア」と呼ばれる別のグループに属することが明らかになった。

カールツリン博士は、次のように述べています。「最大の発見は、この2つの門が同じ系統に属しているということです。この結果は、元々、19世紀に動物を外見に基づいて分類していた生物学者らによって提唱されたものです。」

本研究に携わったコンスタンチン・カールツリン博士と佐藤矩行教授。

カールツリン博士は、この疑問に対する可能な限りベストな答えを出すことができたと述べ、さらにこのデータセットを利用して、軟体動物と環形動物の系統関係や、生物がどのように多様化したかなど、進化に関するその他の基礎的な疑問も解明することができると強調しました。

論文情報:

論文タイトル: Polyzoa is back: The effect of complete gene sets on the placement of Ectoprocta and Entoprocta
発表先:Science Advances
著者:Konstantin Khalturin, Natalia Shunatova, Sergei Shchenkov, Yasunori Sasakura, Mayumi Kawamitsu, Noriyuki Satoh
DOI: 10.1126/sciadv.abo4400
発表日:2022年7月1日

(ディッキー・ルシー)

広報や取材に関して:media@oist.jp