2021-07-14

サンゴの細胞が褐虫藻を飲み込んだ瞬間を観察

本研究のポイント:

  • サンゴは生きていく上で単細胞の光合成藻類・褐虫藻と共生することが必須であるが、本研究で初めて、造礁サンゴの細胞が褐虫藻を取り込む瞬間を観察した。
  • 本研究では、先行研究で培養に成功した造礁サンゴ・ウスエダミドリイシの細胞系である培養株「IVB5」を使用したが、この細胞はサンゴの内胚葉細胞の性格を持っている。
  • サンゴ細胞の約40%が30分以内に褐虫藻を取り込み、この状態は良好なまま約1ヶ月維持された。
  • これらの研究成果はサンゴと褐虫藻の共生関係を理解し、将来サンゴの白化がどのように起こるのかを理解するための一つの重要なステップと考えられる。

プレスリリース

沖縄科学技術大学院大学(OIST)と高知大学の研究者から成る研究チームはこの度、世界で初めて、造礁サンゴの細胞が、光合成をする単細胞生物の褐虫藻を取り込むことを観察することに成功しました。研究チームは7月14日に科学誌Frontiers in Marine Scienceに掲載された論文の中で、褐虫藻として知られる微細藻類が造礁サンゴの一種ウスエダミドリイシの培養細胞に取り込まれていくことを報告しています。

「褐虫藻はサンゴが健全に生きていく上で必須な藻類です」と、本研究の責任著者の一人で、OISTマリンゲノミックスユニットを率いる佐藤矩行教授は語ります。「サンゴは褐虫藻を取り込んで、褐虫藻に安全な住処を提供します。褐虫藻はそこで光合成で生きていくことができます。その見返りに、褐虫藻は自分で作った栄養をサンゴに提供します。」

しかし、この20年ほど、サンゴと褐虫藻の共生関係が危機的状況に陥っています。海水の汚染、酸性化、海洋温度の上昇などの環境ストレスによって、褐虫藻がサンゴから抜け出してサンゴが白化し、美しいサンゴ礁が白一色のサンゴの墓場と化しているのです。

キャプション:海水上昇の波が世界のあちこちで起き、サンゴは微細藻類である褐虫藻を失い、白化しています。オーストラリア、スコット・サンゴ礁。2016年4月。

Credit: 
オーストラリア海洋科学研究所提供

ミドリイシの仲間は亜熱帯・熱帯の海で最も普通に見られる成長の早い造礁サンゴですが、環境ストレスに特に敏感で、サンゴ礁の白化要因の鍵となっています。

「これからのサンゴ礁の保全には、サンゴと、この動物の細胞の中で生きる褐虫藻との相互関係をできるだけ完全に理解することが絶対に必要です」と、この論文の筆頭著者である高知大学の川村和夫名誉教授は語ります。「しかし、今日に至るまでそういう研究は極めて困難でした。」

まず、サンゴの細胞を培養するということが至難の技です。そこでこれまでの研究では、褐虫藻がどうやってサンゴ(動物)の細胞に入りまた抜け出るのかのメカニズムを研究するためには、サンゴと近縁なイソギンチャクを使った実験系などに頼らざるを得ませんでした。

そのような中、2021年4月に科学誌Marine  Biotechnologyに本研究と同じOIST・高知大学の研究チームが、造礁サンゴのウスエダミドリイシの幼生から幾つかの異なった培養細胞株の樹立に成功したことを発表し、これが本研究につながりました。

今回の研究では、「IVB5」という名前の培養株のサンゴ細胞に焦点を当てています。この株の細胞の多くは、その形、行動、遺伝子発現から判断して、サンゴの内胚葉細胞の性格を持っています。つまり、サンゴの中で褐虫藻を取り込むのはまさにこの内胚葉の細胞だということが大切な点です。

研究チームは、このIVB5サンゴ細胞を含むペトリ皿(培養皿)にブレビオラムという褐虫藻(以前クレードBと呼ばれていました)を加えました。すると直ぐに、約40%の培養サンゴ細胞が長い指のような突起(仮足)を伸ばして褐虫藻に取りつきました。そして褐虫藻はサンゴ細胞に「飲み込まれ」ました。その間わずか30分もかかりません。

2021-07-08

キャプション:ペトリ皿(培養皿)中のサンゴ細胞に褐虫藻を加えると、サンゴ細胞は素早く褐虫藻を取り込む。

Credit: 
高知大学:川村和夫名誉教授、関田諭子准教授

「こんな現象が見られるとは、『驚き』の一言です。まるで夢を見ているような気分です」と佐藤教授は言います。

取り込まれた後の細胞の様子をさらに2、3日観察すると、取り込まれた褐虫藻のあるものは断片化して壊れてしまいますが、他のあるものは液胞と呼ばれる膜に囲まれた細胞小器官の中に上手く取り込まれるようになります。研究者にとって、これこそが、何億年前にどのようにして両者の共生関係が始まったのかを考えるヒントになります。

「おそらくサンゴの祖先は、褐虫藻を取り込み、壊して、餌として利用したのがその始まりだと考えられます。しかし時間を経て、サンゴは褐虫藻を、光合成して栄養をくれる仲間として扱うように進化したのではないでしょうか」と、論文共著者である関田論子博士が示唆しています。

研究チームはすでに、電子顕微鏡を使って、サンゴ細胞がどのように褐虫藻を取り込んでいくのかなどの詳細な過程を探り始めています。また、共生にサンゴのどのような遺伝子が働いているのかを探る実験も始めています。

現時点では、褐虫藻を取り込んだサンゴ細胞を1ヶ月ほど培養することができています。近い将来に、褐虫藻とサンゴの細胞の両方が増殖できるような培養系を確立したいとチームは考えています。

「もしこれができれば、次は更に新しい疑問である環境ストレス下でのサンゴ細胞の反応、つまり白化がどのようにして起こるのか、ストレスにどう順応していくのかなど、より完全な理解に繋がると思います」、と佐藤教授は語ります。

論文情報

発表先及び発表日:Frontiers in Marine Science  2021年7月14日(水)
論 文 タ イ トル:In vitro symbiosis of reef-building coralcells with photosynthetic dinoflagellates
DOI:10.3389/fmars.2021.706308
著者:Kaz Kawamura,Satoko Sekida, Koki Nishitsuji, Eiichi Shoguchi,KanakoHisata, Shigeki Fujiwara, Noriyuki Satoh

ヘッダー写真提供:オーストラリア海洋科学研究所提供

(ダニ・アレンビ)

広報や取材に関して:media@oist.jp