2021-04-26

サンゴ研究に新時代到来!サンゴの安定培養細胞株を樹立

本研究のポイント:

  • 造礁サンゴの「ウスエダミドリイシ」の細胞をシャーレで育てることに成功。
  • サンゴ幼生の細胞を分離して作られた細胞株が8つの細胞型に成長する。
  • 8つの細胞型のうちの7つは安定しており、無限増殖が可能。凍結後も生存していた。
  • いくつかの細胞型には内胚葉細胞に似たものも含まれており、サンゴと光合成を行う共生藻類との相互作用や白化現象の解明につながる可能性がある。
  • この細胞株は、サンゴの発達や養殖、気候変動や汚染の影響など、サンゴの細胞研究の多くの分野で利用できる可能性がある。

プレスリリース

日本の研究チームにより、維持可能なサンゴの細胞株が樹立されたことが、本日4月26日、学術誌Marine Biotechnology誌に掲載されました。同研究チームは、造礁サンゴの「ウスエダミドリイシ」から作り出した8つの培養細胞型のうち7つが、10カ月以上にわたって増殖し続けていることを報告しました。

論文の責任著者で、沖縄科学技術大学院大学(OIST)のマリンゲノミックスユニット*を率いる佐藤教授は、「これまで、海洋生物の中でも特にサンゴの安定した細胞株を樹立することは、非常に困難でした。今回の研究成果は、珊瑚礁の主役で極めて重要な生物であるサンゴの生態をより深く理解する上で、重要なものとなるでしょう」と述べています。

ウスエダミドリイシは、熱帯や亜熱帯のサンゴ礁内に生息するサンゴの中で最も一般的な種類であるミドリイシ科に属します。これらのイシサンゴは成長が早いため、サンゴ礁の構造形成に重要な役割を果たしています。

産卵を促すため、自然の海で育ったウスエダミドリイシの群体を水槽に移したもの。

しかし、ミドリイシ科のサンゴは海況の変化に特に敏感で、水温の急上昇や海水の酸性化によって白化することが多々あります。佐藤教授は、細胞株を用いてサンゴの基本的な生態を解明することで、気候変動からサンゴを守ることができるようになると説明しています。

佐藤教授は今回、海洋生物の細胞培養の開発と維持の専門家である高知大学の川村和夫名誉教授と緊密に協力して研究を進めました。成体サンゴにはさまざまな海洋微生物が生息しているため、培養の際にそれらが混ざる可能性を減らすために、サンゴの幼生から細胞株を作ってみることにしました。また、幼生の細胞は成体の細胞に比べて分裂しやすいため、培養しやすいというメリットもありました。

ウスエダミドリイシのプラヌラ幼生。

培養

研究チームは、サンゴ群体から卵と精子を取り出し、実験室で卵を受精させました。サンゴの卵が幼生に成長した後、それらの幼生から個々の細胞を分離し、シャーレで育てました。当初、培養は失敗に終わりました。「小泡が出てきて、シャーレの大部分に広がってしまったのです。後にそれは、サンゴの死にかけた細胞の破片だったことが分かりました」と川村博士は説明します。

翌年には、培養の初期段階でプラスミンというタンパク質分解酵素を細胞培地に加えることで、サンゴの細胞が死ぬのを防ぎ、増殖を継続できることを、川村博士は発見しました。2~3週間後、幼生の細胞は、色や形、遺伝子活性などが異なる8つの細胞型に成長しました。そして、そのうちの7つは今日まで無限に分裂し続け、新しい細胞を形成しました。

本研究で樹立した色も形も異なる3種類の細胞株の顕微鏡写真。

サンゴの生存に不可欠な共生を探る

本研究で最も予想外の展開のひとつは、細胞株の中に、形態や遺伝子発現から判断して内胚葉細胞と類似しているものが存在していたことでした。内胚葉とは、サンゴの卵が受精後、約1日で形成される内側の細胞層のことです。

サンゴは体作りが最も単純な動物の一種で、初期胚発生の段階で形成されるのは、胚葉と呼ばれる2層の細胞-内側の内胚葉と外側の外胚葉-のみである。各胚葉は最終的に、腸細胞、筋様細胞、神経様細胞、刺細胞(刺胞細胞)など、さまざまな種類の細胞に分化するが、各細胞型が発生過程でどのように形成されるかは、未解明である。

重要なのは、光合成を行ってサンゴの生存に必要な栄養分を供給する共生褐虫藻を取り込むのが、内胚葉細胞であるということです。

今回の研究には参加していませんが、オーストラリアのジェームスクック大学の教授で、サンゴ生物学の第一人者であるDavid Miller教授は、次のように述べています。「サンゴ生物学において、現時点で真っ先に求められることは、サンゴという動物と光合成を行う共生生物との間の相互作用を細胞レベルで理解することと、この関係がストレス下でどのように崩壊し、サンゴの白化や死につながるのかを理解することです。」

Miller教授はさらに、次のように続けます。「この培養細胞がサンゴの内胚葉であることが確認されれば、サンゴと共生褐虫藻の相互作用を詳細に分子解析することが可能になります。そしてそこから、サンゴの白化現象の理解と防止に向けた真の進歩が期待できるでしょう。」

佐藤教授が関心を抱いているのは、サンゴの幼生の細胞とあまり大きさの違わない共生褐虫藻が、最初にどのようにしてサンゴの中に入っていくのかということです。「褐虫藻は、卵が幼生に成長してから約1週間でサンゴの細胞に取り込まれますが、細胞内共生現象を単一細胞レベルで観察した人はこれまでにいません」と佐藤教授は説明しています。

サンゴ細胞研究の新時代

また、サンゴの細胞株は液体窒素で凍結して解凍しても、生存していることがわかりました。佐藤教授は、「サンゴの細胞株を世界中の研究機関に提供することも、非常に重要なことです」と説明します。

今後、この細胞株を使用し、単一細胞のレベルで、サンゴの細胞が汚染や高温に対してどういった反応を示すのかといった研究や、サンゴがその骨格の材料となる炭酸カルシウムをどのように生成するのか調べる研究など、多岐にわたる研究が望まれます。また、サンゴがどのように成長するのかについても更なる知見が得られ、養殖能力の向上につながる可能性もあります。

研究チームは、今後、培養細胞のすべてについて、遺伝的に同一であるクローン細胞株を樹立したいと考えています。佐藤教授は、「それぞれの株の細胞でどの遺伝子がオン・オフされているかを調べることで、例えば、腸細胞や神経様細胞など、どの型のサンゴ細胞が育てられているのかをより正確に把握できるようになります」と語っています。

論文情報

発表先及び発表日:Marine Biotechnology 2021年4月26日(月)
論文タイトル:Establishing Sustainable Cell Lines of a Coral, Acropora tenuis
DOI: 10.1007/s10126-021-10031-w
著者:Kaz Kawamura, Koki Nishitsuji, Eiichi Shoguchi, Shigeki Fujiwara, Noriyuki Satoh

ヘッダー写真提供:Chuya Shinzato

(ダニ・アレンビ)

広報や取材に関して:media@oist.jp