ダンゴイカの多様性が約6,600万年前の生物大量絶滅に起因していることを発見

進化におけるダンゴイカ類とミミイカダマシ類の関係と、それらの種分化の時期を特定しました。

  • ダンゴイカ類とミミイカダマシ類は、世界各地の海に生息する小さな海洋無脊椎動物で、研究に有用なモデル動物でもある。
  • ダンゴイカ類は68種、ミミイカダマシ類は5種が確認されているが、それら分化した時期は明らかになっていない。
  • OISTは、広島大学やアイルランド国立大学ゴールウェイ校の研究チームと共に32種のダンゴイカ類やミミイカダマシ類を採取した。
  • 進化における各種の関係を推定するために、ゲノム全体にわたる遺伝的変異を調査した。
  • その結果、各種が分化した時期が、全地球規模の大量絶滅や、インド・太平洋と大西洋の分断といった生物地理学における重要な事象と一致していることが判明した。

小さな海洋無脊椎動物であるダンゴイカ類やミミイカダマシ類は、容易に採取できて繁殖も早く、さらに実験室で大量に飼育することができるため、研究に有用なモデル動物です。ツツイカ、タコ、コウイカなどと同じ頭足類で、知能が高く、複雑な行動をすることで知られていますが、詳細は謎に包まれたままです。しかしこの度、遺伝子解析技術を用いた新たな研究によって、ダンゴイカ類とミミイカダマシ類が比較的最近まで共通の祖先を持っていたことと、生物地理学上の重要な事象により多種多様な種へ分化した可能性があることが明らかになり、研究成果がCommunications Biology誌に掲載されました。

「ダンゴイカ科は、3亜科に分類される68種を含む、非常に多様性のある分類群です。今回の研究では、そのうちの1つの亜科がさらに2つの地理的系統に分かれていることがわかりました。2019年にOISTで行った研究の一環として、私たちはダンゴイカ類の新種について記載しましたが、このことからも、多様性があり、未だ明らかになっていない部分が多く残っていることが明らかです」と、本論文の筆頭著者の1人で、広島大学の育成助教であるグスタボ・サンチェス博士は説明しています。博士は以前、沖縄科学技術大学院大学(OIST)の分子遺伝学ユニットでヴィジティング・リサーチャーをしていました。

新種のEuprymna brenneriは、OISTの創立に尽力したシドニー・ブレナー博士が頭足類のゲノミクス分野の発展に重要な役割を果たしたことにちなんで命名されました。

2019年のOISTの研究論文に記載されたダンゴイカの新種であるブレナーミミイカを同論文の共著者であるジェフリー・ジョリーさんが撮影した画像。 新種のEuprymna brenneriは、OISTの創立に尽力したシドニー・ブレナー博士が頭足類のゲノミクス分野の発展に重要な役割を果たしたことにちなんで命名されました。

ダンゴイカ類もミミイカダマシ類も、ダンゴイカ目に属しています。通常は1~8センチと小型で、沿岸の浅瀬から外洋まで、世界中のさまざまな海域に生息しています。

サンチェス博士は、今回の研究のために、OISTおよびアイルランド国立大学ゴールウェイ校の研究チームと共同で、インド・太平洋、地中海および大西洋の全域から合計32種のダンゴイカ類やミミイカダマシ類を採取しました。そして、カバー率は低いものの、ゲノム全体をシークエンスするゲノムスキミングと呼ばれる技術を用いて調査しました。これにより、種間の遺伝的変異を調べることができ、進化における関係や分化した時期を推定することができました。

その結果、ダンゴイカ類やミミイカダマシ類が約6,600万年前に別々の科に分化したことが判明しました。これは、恐竜の大半が絶滅したのと同じ世界的な大量絶滅によって古代の生物群が消滅した後に、現代の海水魚類が急速に多様化した事象と一致しています。ダンゴイカ類は、さらにダンゴイカ、より近縁のボウズイカ、ヒカリダンゴイカの3つの亜科に多様化しました。研究チームは、これらの亜科の中で最大の規模を誇るダンゴイカ亜科が、さらに、インド・太平洋に生息する群と、地中海や大西洋に生息する群の2つに分類できることを発見しました。この分化は、約5,000万年前のテチス海の消滅という生物地理学上の重大な事象と重なり、これによって2つの地域が分離したため、同亜科が2つに分化したのです。

本研究における二つ目の注目点は、ダンゴイカ類の発光を生み出す発光器の進化に着目したことです。発光は、夜間に捕食者から身を隠すためのカウンターイルミネーションを可能にすることから、これらの動物の多くが生存する上で重要な役割を果たします。研究チームは、ダンゴイカ亜科の祖先が、発光する共生細菌を宿した発光器を2葉持っていた可能性が高いことを発見しました。発光器は、現在も多くの種で見られますが、インド・太平洋と地中海・大西洋の2つの群では失われています。 

OISTのユニットを率いるダニエル・ロクサー教授は、次のように述べています。「約50%のダンゴイカ類の進化における関係はまだ調査する必要がありますが、今回の研究結果は、ダンゴイカ類とミミイカダマシ類を分類する上で信頼性の高い基盤となります。今回の系統発生学的な研究と祖先推定が、今後の研究に役立つことを期待しています。」

論文タイトル: Phylogenomics illuminates the evolution of bobtail and bottletail squid (order Sepiolida)
発表先: Communications biology
著者: Gustavo Sanchez, Fernando Á. Fernández-Álvarez, Morag Taite, Chikatoshi Sugimoto, Jeffrey Jolly, Oleg Simakov, Ferdinand Marlétaz, Louise Allcock & Daniel S. Rokhsar
掲載日: 29 June 2021
DOI: 10.1038/s42003-021-02348-y 

研究ユニット

広報・取材に関するお問い合わせ
報道関係者専用問い合わせフォーム

シェア: