2020-04-22

古生代における種間交雑:脊椎動物における全ゲノム重複の真実が明らかに

生命がどのように進化したかを研究するには、通常では化石に刻まれた記録を調べることが多いですが、これらの記録は不完全であることが多々あります。沖縄科学技術大学院大学(OIST)の研究者は、国際共同研究チームをリードして、われわれ脊椎動物の過去についての手掛かりを明らかにするために化石記録以外のツール、すなわち現生動物の染色体に着目してきました。Nature Ecology and Evolutionに発表されたこの研究は、脊椎動物の進化における早期の事象を明らかにしています。有顎脊椎動物が2種の原始魚類間の交雑を通して生じたことなどです。

「5億年近く前に生じた事象であるにもかかわらず、今私たちがDNAを調べることでそれを解明できるということは素晴らしいことだと思います。」と、OIST分子遺伝学ユニットのリーダーであるダニエル・ロクサー教授は述べています。

遺伝子に残る物語を解き明かす

染色体は生物の遺伝子材料を運ぶ微小な構造物です。通常、染色体は対になっており、両親からそれぞれ1つずつ受け継いでいます。ヒトの染色体は23対ですが、この数は動物の種によって異なります。

この研究から、染色体が数億年にもわたって驚くべき安定性を保ってきたことがわかってきました。遺伝子の変異および再編成が生じていても、現生動物の染色体には相互に際立った類似性があります。

「このような類似性を駆使することで、遠い過去からの進化を追跡し、それを生物学的に推測することが可能です」と、ロクサー教授は説明します。「遺伝子のあるグループがきわめて異なった2種の動物、たとえば巻貝とヒトデにおいて同一染色体でひとまとまりとなって運ばれているとすると、このような遺伝子はおそらくこの2つの動物の最も近い共通祖先の同一染色体にもまとまって存在していたと考えられます。」

OISTの元研究員であり、現在ウィーン大学に所属するオレグ・シマコフ教授とユニバーシティ・カレッジ・ロンドンに所属するファディノン・マルレタス博士の両氏が中心となり、小型の海洋無脊椎動物であるナメクジウオの染色体を軟体動物、哺乳類、鳥類、カエル、魚類、ヤツメウナギなど他の動物の染色体と比較する研究が行われました。

ナメクジウオ。脊椎動物に最も近い原生無脊椎動物のひとつである小型の海洋動物。Giovanni Makiによる画像 クリエイティブコモンズCC BY-SA 3.0の下で提供

チームは、いくつかの遺伝子再編成を明らかにした後、ナメクジウオの染色体は太古に絶滅した脊椎動物早期祖先の染色体と類似しているとの結論に達し、17の古代染色体ユニットの存在を確認しました。その後、現生脊椎動物における古代染色体ユニットの進化を追跡しました。

「祖先の染色体の復元が、早期脊椎動物の進化におけるいくつかのパズルを解くための鍵でした」と、ロクサー教授は言います。

重複と消失

これらのパズルの中心にあるのは、「ゲノム重複」として知られる現象です。1970年代に、遺伝学者である大野乾氏は、脊椎動物のゲノムはその祖先である無脊椎動物に比べて倍化しており、これはおそらくゲノムの繰り返しによって生じたものであると示唆しました。この提言はゲノム研究により確認され洗練化されましたが、倍化が何回生じたのか、それがどのようにしていつ生じたのかについてはいまだ議論が続いています。

この問題を解決する難しさのひとつは、重複したゲノムが急速に変化し、それによって重複そのものが覆い隠されてしまう可能性があるということです。倍化したゲノムはすべての遺伝子の冗長コピーから始まりますが、このような余分なコピーの大半は変異により不活性化され最終的には消失します。また、倍化した染色体自体の組換えが生じることもあります。

この研究では、17の祖先染色体対を古代からのアンカーとして使用して、ゲノム倍化に2つの異なる過程が存在するとの結論に達しました。

最初の重複は、ヒト、鳥類、魚類、カエルを含む有顎脊椎動物、それに無顎のヤツメウナギやその近縁種を含むすべての現生脊椎動物が共有しているものです。この最も古い重複は約5億年前に生じ、これは最古の脊椎動物化石が現れた頃と時が一致するとチームは推論しています。

2回目の重複は有顎脊椎動物だけに共通しています。最初の重複とは異なり、2回目の重複後の遺伝子喪失は2組の染色体コピーで不均一に生じるという、驚くべき内容ながら、示唆に富んだ特徴が明らかになりました。

「このような不均一な遺伝子喪失は、2つの種の交雑後に生じるゲノム重複の特徴です」と、ロクサー教授は言います。

通常、2種の動物から生まれる雑種の子孫は不妊であり、両親からの染色体が正しく配位されないこともその理由のひとつです。しかし、ごく稀に、魚類、カエルおよび植物の一部では、雑種ゲノムが倍化して染色体対合を回復させます。このような子孫の染色体数は異種の両親の染色体数の2倍であり、多くの場合、より頑健です。この新たな研究から、このような雑種倍化が太古の祖先で生じたとする予測外の所見として得られました。

「4億5000万年以上前に2種の魚類が交雑し、その過程で2倍の染色体数を持つ新たな雑種が生まれました」と、ロクサー教授は述べています。「そして、この新しい種は、人類を含めた現生有顎動物すべての祖先になったと考えられます。」

祖先の無脊椎動物から2回の全ゲノム重複(星形で示す)を通して脊椎動物の染色体が進化したことを示す図。簡潔に示すために、祖先の染色体対1つのみを示した。この研究で、現在では絶滅した2種の祖先αとβが2回目のゲノム重複期間に雑種交雑し、有顎脊椎動物系統が生じたことが明らかになりました。ゲノム重複後、βの染色体はより頑健なαの染色体に比べてより多く分解されています。

本研究チームには、コートジボアール大学のジャ・シン・ユー(Jia-Xing Yue)博士、カリフォルニア大学サンタクルーズ校のブレンダン・オコーネル(Brendan O’Connell)博士およびリチャード・E・グリーン(Richard E. Green)教授、ハドソンアルファ・バイオテクノロジー研究所のジェリー・ジェンキンス(Jerry Jenkins)氏およびジェレミー・シュマッツ(Jeremy Schmutz)氏、カリフォルニア大学バークレー校のアレクサンダー・ブラント(Alexander Brandt)博士、ダブテール・ゲノミクスのロバート・カレフ(Robert Calef)氏およびニコラス・H・プットナム(Nicholas H. Putnam)博士、アカデミアシニカのチェ・ハン・タン(Che-Huang Tung)博士、ツー・カイ・ファン(Tzu-Kai Huang)博士およびジル・カイ・ユー(Jr-Kai Yu)教授、OISTマリンゲノミックスユニットの佐藤矩行教授も参加しました。

カバー画像:およそ4億5000万年前における古代海底生物のモデルベース復元James St Johnによる画像 クリエイティブコモンズCC BY 2.0の下で提供※画像はトリミング済み

 

 

(ディッキー・ルシー)

広報や取材に関して:media@oist.jp