食虫植物とハチ―「獲物」と「仲間」の境界があいまいに

これまで食べる-食べられる関係にあると考えられてきた食虫植物とスズメバチですが、化学組成の解析により、両者にとってwin-winの関係にある可能性が明らかになりました。

酸で満たされ、牙のような突起を備えた壺状の捕虫袋。剛毛に覆われた迷路のような内部。1秒もかからずにパチンと閉じる葉──。こうした巧妙な仕組みを持つ食虫植物は、恐ろしい捕食者として知られています。しかし、これらの植物は従来考えられていた以上に、周囲の昆虫に利益をもたらしている可能性が、新たな研究により示されました。この研究成果は、学術誌『Ecology』に掲載されました。

食虫植物の中には、壺状の葉を持つものがいます。それらはその葉を使ってスズメバチなどの獲物を捕らえ、消化することで知られています。沖縄科学技術大学院大学(OIST)の研究チームは、その蜜がスズメバチにとって重要な栄養源であることを明らかにしました。これまで両者の間の相互作用は明確な捕食-被食の関係であると考えられてきましたが、本研究は、双方が利益を得る「相利共生」として捉える方が適切である可能性を示しています。これらの植物は、昆虫にとって不利な存在どころか、生態系の安定に重要な役割を果たしていると考えられます。

「一般的に、私たち生態学者は、生物間の関係を、捕食者-被食者や競争といった、単一的で明確な相互作用として分類しがちです」と、本研究の責任著者で、OIST統合群集生態学ユニットを率いるディヴィッド・アミテージ准教授は話します。「しかし近年、こうした相互作用は実際には環境や条件次第で姿を変え、固定的なものではないという認識が広がっています。」

アミテージ准教授らが、この関係性に着目したきっかけは、本来捕食されるはずの昆虫が、蜜を吸い、無傷で飛び去る様子を頻繁に目にしたことでした。「しばらく食虫植物を観察していると、昆虫が葉にとまり、餌を食べたり何かをしたりして、そのまま飛び去っていく場面を必ず目にします。実際の捕獲率は非常に低いのです」とアミテージ准教授は説明します。2005年にPhilip Dixonらが報告した研究では、カリフォルニアの湿原に生育するランチュウソウ(Darlingtonia californica)を数百時間観察した結果、この植物を訪れたハチのうち、捕食されたのは2%未満にすぎませんでした。また、1988年のDaniel Joelなど、他の植物学者も、こうした相互作用は共生関係に近い可能性を指摘していましたが、その関係をさらに検証する方法がわかっていませんでした。

このように非効率にも見える捕食戦略がどのように成立しているのかという疑問から、アミテージ准教授の研究チームは、スズメバチ用トラップと並外れた忍耐力を携えてカリフォルニアの湿原へ赴き、スズメバチや食虫植物の葉、周辺植物のサンプルを収集しました。帰国後、質量分析法を用いてハチに含まれる窒素の種類と量を測定し、食虫植物の近くで採集された個体と、そこから離れた場所で採集された個体を比較しました。

森を背景に、黄緑色の食虫植物が広がっている。
カリフォルニアの湿原には数千株の食虫植物が生育しており、本研究では、ハチや周辺植物とともにこれらを調査した。
© ディヴィッド・アミテージ

窒素原子は、大気中から植物の根などに生息する細菌によって取り込まれます。こうして有機分子に固定された窒素は、生態系の食物連鎖を通じて、植物から草食動物、さらに肉食動物へと移行していきます。各段階で軽い窒素同位体は排出され、重い同位体は体内に蓄積されます。この排出による分別により、重い同位体の割合は、生物の栄養段階、すなわち食物連鎖の中での位置を示す指標となります。食虫植物は、昆虫など高次の栄養段階にある生物を摂取するため、周囲の非食虫植物に比べて重い窒素同位体の割合が高いという特徴を持ちます。この特徴は植物が分泌する蜜にも反映されており、スズメバチなどの昆虫がこの蜜を摂取すると、その体内でも重い窒素同位体の割合が増えることが測定できます。

研究チームは、食虫植物の近くで採集されたスズメバチで重い窒素同位体の割合が高いことを確認しました。これは、重い窒素同位体を豊富に含む蜜が、昆虫の餌の重要な部分を占めていることを示しています。本研究は、こうした植物の「非効率性」が必ずしも不利ではないという新たな見方を支持するものです。食虫植物は時折、ハチを捕食することで窒素を補い、ハチは栄養豊富な蜜という安定した――そして全体として見れば比較的安全な――食料源を得ているのです。多くの昆虫をすぐに捕獲するのではなく、将来にわたって利用できる餌資源を確保している可能性もあります。「植物が、自分が食べるために昆虫を育てていると思うと、なんだか面白いですね」とアミテージ准教授は語ります。

このような種間相互作用の理解は、ランチュウソウのような食虫植物が周囲の環境にどのような影響を与えているのかを解明する、今後の研究にも貢献します。「カリフォルニアの山岳地帯にある、非常に乾燥した生産性の低い地域において、食虫植物の役割が過小評価されている可能性があります」とアミテージ准教授は結論づけます。「希少で独特なランチュウソウのような植物は、サンゴ礁やマングローブ林のように、複雑な生態系を支える基盤種とさえ見なせるかもしれません。」

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