「普通」って何だろう 脳や神経に由来する個々の特性の多様性について考えるイベント

2025年3月8日(土)、沖縄科学技術大学院大学(OIST)において、OISTサイエンストークシリーズ「普通ってなに?発達の多様性(ニューロダイバーシティ)を活かして」が開催されました。
サイエンストークシリーズは、主に県内の方々に、OISTの研究者から直接研究の話を聞いていただくイベントです。どのような研究がOISTで行われているのか、そして、その研究が社会にどのように役に立つのかを理解していただくことを目的に、毎年開催されています。
今回のテーマは、注意欠如・多動症(ADHD)。イベントでは、北宗羽介監督の映画「ノルマル17歳。―わたしたちはADHD―」が上映され、その後、OISTこども研究所(OIST発達神経生物学ユニット)の古川絵美シニアサイエンススタッフによる講演会、そして4名のスピーカーによるトークセッションが行われました。会場となったOISTの講堂には、教育関係者やADHDの当事者など県内各地からたくさんの方々が集まりました。

イベント開始前に、「ADHDと聞いて思い浮かぶ言葉」のアンケートがありました。観客が、その答えを自分のスマートフォンから回答すると、舞台にその言葉が次々と映し出されます。「落ち着きがない」や「発達障害」といった言葉が多く挙げられました。その後、映画「ノルマル17歳。―わたしたちはADHD―」が上映されました。この映画は、ADHDの特性があり、周りの誤解や友人との違い、家族との関係などに悩む2人の女子高生を描いたものです。上映後、再び同じ質問を投げかけられた観客からは、「個性」や「理解者が必要」「頑張っている」といった回答が増え、観客のADHDに対する理解や捉え方に変化が生まれたのが見受けられました。

続いて行われた古川博士による講演では、「普通ってなに?」をテーマに、脳や神経に由来する個々の特性の多様性について、古川博士がOISTで行っている研究内容や自身の経験を踏まえた話を紹介しました。

その後、古川博士、映画監督の北宗羽介氏、放課後等デイサービス「ドーユーラボ」を運営するDYL株式会社代表取締役でありADHD当事者の中園佑太氏、株式会社ビープロダクション代表取締役でこども研究所の研究知見をアニメ化している高部優子氏の4名によるトークセッションが行われました。セッションでは、映画の感想やADHDに関する日常のエピソードなどが語られました。また、観客から寄せられた、「多様性を受け入れるにはどうしたらよいか」という質問には、中園氏が、「一方的に配慮を求めるのではなく、お互いに折り合いのつく場所を見つけることが重要ではないか。」とADHD当事者の意見としてコメントしました。その言葉に対し、多くの観客がうなずいていました。
セッション終了後は、講堂入口で登壇者と来場者との交流の時間が持たれました。この交流の場では、「親子で参加して話し合いのきっかけとなった」、「研究を身近に感じ進路として考えたい」といった言葉が聞かれました。休憩所が設けられた本イベントには、子ども連れの保護者の姿が目立ちました。乳幼児から大学生まで幅広い年齢層が、保護者と一緒に参加しました。
司会を担当した、OIST子ども研究所の小口真奈リサーチフェローは、「多くの参加者が、自分の所属する組織や地域での関わりを振り返り、今回のイベントで得た気づきと結びつけながら、どのような取り組みができるかについて積極的に意見を交わしていたことが印象的でした」と述べています。

イベント終了後に寄せられたアンケートへの回答では、ADHD当事者の困りごとや、周囲の理解度、「普通」という概念の多様性について考えさせられたというコメントが多く寄せられました。また、「発達障害についてもっと学びたい」、「今日学んだ内容を友人に伝えたい」、「自分の価値観を押し付けないようにしたい」など、今後の行動に関する前向きな意見も多く見られました。
OISTでは今後も、科学的知見と社会との橋渡しを目指し、地域の皆さまと共に学び合い、考える場を提供してまいります。今回のイベントが、多様な個性が活かされる未来への一歩となることを願っています。
イベントの写真をOIST Flickrのアルバムからご覧いただけます。
本イベントは科学技術振興機構(JST)「共創の場形成支援プログラムCOI-NEXT」の活動の一環として開催しました。